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防御特化型の本領

巨大な人型の魔獣「ジャイアント」。

防御特化型だと言う巨獣を前にして、ブラハムは……そしてアムルは、どこか楽しそうな笑みを浮かべているのだった。

 5体のジャイアントに相対したブラハムだが、その顔には悲壮感よりも歓喜が浮かび上がっていた。

 相性としては、これ以上に悪い相手はいないだろう。

 1対1ならば、ブラハムやアムルが後れを取る様な敵ではない。

 だが現状は、数だけでも2対5と不利な上に防御特化型の魔獣である。

 しかも、ただの魔獣ではない。

 戒厳令下に置かれた魔王城に於いて出現したこのジャイアントと言う種族は、特に強い力を与えられているのだ。

 その事はこれまで彼らが戦ってきた魔獣の“質”を考えれば、簡単に想像出来る事でもある筈だった。

 それでも。


「うらあぁっ!」


 ブラハムはどこか嬉々として剣を構えると、そのままジャイアントの群れに目掛けて突進したのだった。

 いや、この表現は適当ではない。

 突っ込んだというには余りにも速く、その一歩は走る……と言うよりも跳躍したと言った方がピッタリだ。

 疾駆したブラハムは、その手にした大剣を力一杯に横へと薙いだ。横一文字に振られた大剣は、凶悪な威力をもって前衛ジャイアント2体に襲い掛かる。


「……むっ!?」


 だがその直後に、ブラハムの怪訝な表情とそれに伴う声が漏れ聞こえたのだった。

 ジャイアント2体は殆ど同じような動きを見せて手にした戦斧を体の前に構え、ブラハムの狂暴な斬撃を防いだのだ。

 甲高い金属音が周囲に響き渡る。

 そして彼は、追撃を行う事なく大きく飛躍し後退した。

 殆ど攻撃を仕掛けた最初の位置に戻って来たブラハムは、暫しジャイアントを食い入るように見つめた後、手にした大剣を視線の高さまで持ち上げてそちらを凝視した。


「……固ってぇなぁ」


 そして、ポツリとそう一言だけ呟いたのだった。


 ブラハムが、驚きを露わとするのも無理ない事だった。

 彼の手にしているのは人界から持ってきた両手斧では無く、この魔界で魔王アムルに下賜された両手剣である。

 魔界で採取出来る最高峰の鉱石「アダマンタイト」を鍛えて作られたその一刀は、ブラハムがこれまでに見た事も無い様な業物だった。

 親衛騎士団に所属した事もあり彼は武器をこの両手剣に変えたのだが、それが間違いであったとは今でも思っていない。

 何せ単純な攻撃力だけで言えば、それまで愛用していた両手斧よりも遥かに高い事が理解出来ていたからだ。

 切れ味や強度だけでなく、重さや扱い易さ、それにその刀身に込められた能力に至るまで、この両手剣は彼が満足のいくものだったのだ。

 それにも拘らず、彼の剣はジャイアントの身体はおろか、斬撃を受け止めた戦斧を傷つける事も出来なかったのだ。


「どうしたよ、ブラハム? 手も足も出ないってか?」


 そんなブラハムに、背後からアムルの揶揄う様な声が掛けられた。勿論、本当に馬鹿にしている訳では無い。


「いや、今の一撃で倒せるとまではいかなくても、奴らの戦斧ぐらいは傷つけられると思ったんだがなぁ」


 それが分かっているブラハムだから、アムルの言い様に食って掛かるような事はせず、それどころか相談する様な声音でそう返答したのだった。


「まぁ、奴らの持つ戦斧に使われている金属は、この魔界でもありきたりの物なんだけどな。あの太さと、何より張り巡らされた『氣』に依る防御効果が発揮されてるって所だろうな」


 ブラハムの答えを聞いて、アムルもジャイアントの方へと目を向けてそう返したのだった。

 ジャイアントはこの部屋を護る事に注力しているのか、率先してアムルたちに仕掛けてくる様な素振りを見せない。

 だからこそ、この様にのんびりと話せる時間が取れるのだが。

 言い換えれば、不利だと分かっていても責め続けなければ、この部屋を抜く事は叶わないのである。


「……『氣』? あんな魔獣が、『氣』の操作を行えるって言うのか?」


「ああ。別に可笑しい話じゃあないだろう? 人に出来る事は、知性のある魔獣にも出来るぞ? 『氣』の扱いに長けた種族なら、特に鍛える様な事は無くても生まれながらにその操作が可能だろうしな」


 アムルの説明を聞いて、ブラハムは少なくない動揺を覚えていた。

 彼の記憶や経験からすれば、魔獣と呼ばれる存在がそれほど高度な技を行使するなど見た事も聞いた事さえ無いのだ。

 ましてや高い知性を備えた魔物や魔獣など、人界では遭遇した事も無い。

 ただ、ブラハムは失念していた。

 今彼が話しているアムルも、人界での種族分けでいえば魔物の部類に入る。

 そして、彼がこの魔界へやって来てから接して来た多くの魔族は、人族と比べて遜色のない……それどころか、遥かに高い知性を持つ者までいるのだ。

 それを考えれば、眼前の魔獣が如何に魔導生物であろうとも、智慧を持ち技術を行使した処で何ら不思議な話ではない。


「ジャイアントと言う種族は、巨躯族の中でも最上位に位置する奴らだ。頭も良いし、何よりも高い戦闘技能を持っている。現存の種族を作り出す伝魔境の能力を以てすれば、その特徴をそのまま映しだしても不思議じゃあないだろう。ましてやこいつらは、今は伝魔境によって能力を向上されているだろうしな」


 だがアムルにここまで説明されれば、ブラハムも理解出来ない訳はない。


「なるほど……。厄介な相手と言う訳だな」


 ペロリと唇を舐めたブラハムが、不敵な笑みを浮かべてアムルに答えた。

 ここまで戦って来た今の魔王城の魔獣(・・・・・・・・)も、決して楽に倒せる様な相手では無かった。

 苦戦……とまでは言わなくとも、手こずっていた事に変わりはない。

 戒厳令下にある魔王城を考えれば、それも仕方のない事かもしれない。

 今まで伝魔境で作り出された魔導生物は一新され、再び配置された魔獣はそれまでのレベルを大きく上回っているのだから。

 そんな相手を前に苦悩の表情を浮かべるならばまだしも、嬉しそうな微笑みを浮かべる理由など無い筈である。


「おい、ブラハム。さっきの説明を聞いて、何で嬉しそうにしてるんだよ」


 呆れたようなセリフを吐くアムルだが、その表情にはブラハムと同じ笑みが浮かび上がっていた。

 面倒な敵を前にして辟易とするどころか、楽しそうにする理由は無いのだが。

 この辺りは、同じ様な性格の2人が揃ってしまった事の弊害とも言えるだろう。


「……強化は必要か?」


 今にも飛び出してしまいそうなブラハムに、アムルが背後から声を掛け。


「……任せるよ」


 ブラハムは、肯定も否定もせずに敵を見定めていた。

 彼の心情には、敵を倒すのに自らの力だけで……などと言った青臭いものなど無い。

 勿論、自身の能力や力に自信を持っており、もしもアムルのバックアップが無くとも己の力でジャイアント共を叩きのめすつもりではある。

 しかし、アムルが強化すべきと判断した事に異を唱える気も更々なかった。

 統治者としても有能であるアムルが必要だと考えたならば、それはきっとその方が良いのだろう。ブラハムは、その厳めしい顔つきからは考えられない程に柔軟な思考の持ち主だったのだ。


「ふん……。この者の肉体に強化の力を。フィジカルレインフォース」


 ブラハムに判断を委ねられたアムルは、苦笑しながらも肉体強化魔法を彼に使用した。

 アムルが魔法を使わなくとも、ブラハムがジャイアントたちに向かっていくことは間違いない。

 それで敗れるとはアムルも思っていないが、倒し切るのに苦労する事は想像に難くなかったのだ。


「ありがとよ。……それじゃあっ!」


 謝意を一つ述べたブラハムは、次の瞬間には地面を蹴り再びジャイアントの元へ疾駆していたのだった。


仕切り直しの突撃を敢行するブラハム。

そして後方に控えるアムルも、ブラハムにこの場の戦闘を全て任せる気など無かった。

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