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立ち塞がる巨体

のっけから強力と言って良い魔導生物の襲来。

先を進むごとに、より強力な魔獣が配されている予感を、2人はひしひしと感じていた。

「ぬあああぁぁっ!」


 ブラハムの、裂帛の気合が周囲に響き渡る。

 それと同時に、何ものをも両断するかと思わせるほどの斬撃が繰り出された。


「グキュウゥッ!」


 その攻撃を受けてスキュラの上半身……人型の部位が、袈裟切りに斬り割かれて2つに分断されてゆく。

 まるでバナナの皮を剥いたような姿となったスキュラだが、それで絶命と言う訳では無い。


「ガウウッ!」


 まだ下半身部にあたる狼型魔獣はその活動を停止しておらず、力なくダラリと上に乗ったままの人型を引きずる様に攻撃を続けてきたのだ。

 普通の騎士ならば、その不意を突くような不可思議な攻撃でダメージを負っていたかも知れない。

 それでも。


「ギャンッ!」


 地を這うように首を突き出してきた狼の口を綺麗に躱したブラハムは、その頭部を剣で突き刺し本当に息の根を止めた。

 数多の多種多様な敵と戦ってきたブラハムなればこそ、その様な変則的な攻撃にも見事の対処できたのだ。


「……ふぃ―――」


 襲ってきたスキュラの全てを倒したと確認したブラハムが、大きく息を吐いて脱力すると。


「ご苦労さん」


 彼に近づきながら、アムルも笑顔を湛えてそう声を掛けた。

 その声音には緊迫感も無く、ひとまずこの場の戦闘が終了した事を物語っていた。


「ああ……とりあえずな。……しっかし」


 ヤレヤレと言った表情を浮かべて、ブラハムもアムルの声に応えた。


 結局、ここで倒したスキュラは全部で5匹。

 この場で起きた戦闘音を聞きつけて、周囲のスキュラが集まって来たのだろう。

 5匹……と言う数自体、そう多い訳ではない。

 単純に数だけでいうならば、前回の魔王城攻略時に襲ってきたデスウルフの方が圧倒的に多かっただろう。

 しかもその時にはデスウルフだけでなく、他の魔導生物も加わっていた。

 それこそ数だけを見れば数十匹は下らず、僅か5体だけのスキュラなど比較するべくもないと言えた。


 ―――しかし、その質が全く違う。


「手強いなんてもんじゃあないな。何で前回よりもバカ強い魔獣が、こうもゴロゴロ出てくるんだ?」


 1体の強さだけを見れば言うに及ばず、その手強さはデスウルフ十数体を同時に相手しても尚お釣りがくるほどだったのだ。ブラハムが辟易するのも仕方のない事であった。


「……恐らく、魔王城の警戒段階が最高度に引き上げられたんだ。それによって魔王城の造りも、そこに配置されている魔導生物も一新されたんだろう」


 深刻な表情となったアムルが、自身の考えをブラハムに披露した。

 そして今の状況を鑑みれば、それ以外に考えられない事は明らかだった。


「ってぇ事は、この先もっと手強い魔獣がウジャウジャ出てくるって事かい?」


 不敵な笑みを浮かべて、ブラハムがアムルに再び問い掛ける。

 もっともそれは、強い敵に会える事が楽しみだ……などと言う表情ではない。

 それが証拠に、彼のこめかみから一筋の汗が流れ落ちたのだった。


 魔王城の作りが変更となった事は、この際この2人には関係ない。

 前回の攻略でも、殊更慎重に魔王城を攻略しMAPを作成して進んでいた訳では無い。

 アムルは戦闘の最中、トラップに引っ掛かり下階へと落とされてしまった。

 そしてカレンも、同じ様に罠によって地下道に落とされたのだ。

 残されたブラハムたちだったが、そこに現れたバトラキールとリィツアーノに敗北しそのまま虜囚となり連行されたのだった。

 言うなれば、アムルもブラハムでさえまともに魔王城を攻略したとは言い難かった。

 しかし今回は、その事が幸いしていると言って良いだろう。

 余計な先入観に捉われず探索出来るという事は、余計な遠回りや罠に掛かるリスクを軽減出来るという事でもある。


「それじゃあ、とにかく先に進むか」


 無論それは、計画的に行動出来る者であったのなら……と言う事であり。


「そうだなぁ。それじゃあ、あっちの方に行ってみるか」


「なんで、こっちじゃなくてあっちなんだ?」


「いや? 何となくだが?」


「なるほど。それじゃあ行くか」


 ブラハムの指示した方向へ進む事を、アムルは何の疑問も持たずに同意してそのまま2人は歩み出したのだ。

 殆ど直感のみで行動するこの2人だけで迷宮探索などしようものなら、進行先を決める判断に理由付けなど無い。

 この魔王城攻略に於いて問題があるとすれば、人選が楽天的なこの2人となってしまった事かもしれない。




 時に状況は、深く考えずに行動した方が開ける場合がある。

 無論それは、本当に運が良ければ……と言う事なのだが。


「この扉、なんだか怪しくないか?」


 だがここには、ある意味で強運の持ち主がいたのだった。


「んじゃあ、調べてみますか」


 時折現れる魔獣を蹴散らしながら、アムルたちは地上4階にまで達していた。

 現れるスキュラを始めとした魔導生物は以前よりも明らかに強力となっていたのだが、それでもアムルたちの敵になる程ではなかった。

 さらに言えば、1体当たりの強さは格段に上がってはいてもその数は極端に少なくなっている。

 少数の敵と戦う事を繰り返すだけならば、多数の敵に襲われた時のように不慮の事故に見舞われるような事も少なく、結果としては順調に魔王城を進む事が出来ていたのだった。

 勿論これは、アムルとブラハムの実力があってこそ。

 魔王か、それに類する程の実力がない者たちにとっては、恐らく僅かでも進む事は困難だった事だろう。


 ゆっくりと扉を開き、ブラハムは中の様子を伺った。

 灯りの点っていない室内は暗く、最奥まで確認する事は難しかったのだが。


「……なんだ?」


 それでも扉から入り込む僅かな光りで、その存在は確認出来たのだった。

 室内には、巨大な石像と思われる物体が数体確認出来たのだ。

 ひしめく様に立ち並ぶその物体に、ブラハムは違和感を覚えずにはいられなかった。


「……なんだ? 石像……なんだろ?」


 同じように中を覗き込んだアムルは、室内の様子を見てそう感想を述べた。

 それでも、ブラハムはアムルのその言葉に同意を示さない。

 ただ、このままこの部屋の入り口で立ち往生していても詮無い事だ。

 アムルが先に入り込む前に、ブラハムは扉を更に開けて中へと足を踏み入れた。

 室内に入り込み、彼は更に雰囲気の異様さを感じ取っていた。


「これは……?」


 それはアムルも同様の様で、2人は扉から入った場所で警戒感を露わとしていたのだった。

 2人の感じている不自然さ。それは。


「これは……石像なんかじゃあないようですな」


 室内に立ち込める、息を殺しているかの様な気配だったのだ。

 そしてその答えは、2人の目の前でハッキリと示されてゆく。


 室内に設けられた燭台に、次々と火が点っていく。

 それにつれて、周辺の状況が浮き彫りとなっていった。

 想像以上に広い部屋。しかし、調度品の類は何一つ設置されていない。

 アムルたちが入室した扉の丁度対面に、奥に続く通路が見て取れた。

 これはこれまでの部屋では見られず、その奥には何かがある……または正解へ続いていると思われた。

 部屋の中央に5体、巨大な物体が立ち尽くしている。

 それは、巨人を模った石像に見えるのだが。


「……ここを守護する魔獣のようですな」


 無機物でない事は、すぐに2人にも理解出来たのだった。

 室内に明かりが行き渡るとともに、中央に安置されていた……立ち尽くしていた5体の巨人は置物の様に止めていた動きを解除し、それぞれゆっくりとアムルたちの方向に体を向けたのだ。

 その手には、巨大と言って良い得物をそれぞれ携えている。


「……厄介な」


 それを見たアムルは、苦々し気にそう呟いた。

 それを背中で聞いたブラハムが、肩越しにアムルを見て説明を求めている。

 目の前の巨人たちに大きな動きは無く、アムルの解説を聞くだけの時間があると判断した結果だった。


「……JA―002……重装型防御特化魔獣……ジャイアント。物理耐性だけでなく、魔法防御にも特化した、重要拠点を守護する事に重きをおいて造られた魔獣だ」


「重装型……防御特化……」


 アムルの説明を聞いて、ブラハムは改めて目の前の魔獣に目をやった。

 確かに、巨人たちの武装は非常に独特だった。

 2体は、巨大な戦斧を持っており如何にも巨人と言う出立だ。

 しかし残る3体の持つ得物は……巨大な盾であった。

 しかも、普通の盾ではない。

 ほのかに怪しい光りを纏う、特別な力を宿した盾だという事は一目瞭然だった。


「……なるほど。こりゃあ確かに、固そうだな」


 ブラハムは不敵な笑みを浮かべ、ペロリと舌なめずりして対する巨人たちに向いたのだった。


現れた重装型防御特化魔獣。

巨大な魔獣5体を相手に、アムルとブラハムは交戦を開始した。

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