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魔王の魔王による……

魔王城からは、殆ど全ての人が退避を完了した。

……ただ一人、カレンを残して。

そして、魔王アムルは逃れてきた一同との再会を果たしていた。

 魔界第4の街であるアンギロにて、避難してきたレギーナ達より事のあらましを聞いた魔王アムルは目を瞑り無言で考えに耽っていた。

 その時、その場の状況を鑑みれば、カレンの取った行動やブラハムたちが逃げてきた結果に問題はない。

 それどころか、人質を取られてしまった状況から良くもほぼ全員(・・・・)が逃げ出す事に成功したと言いたいところだ。


「……申し訳ありません、魔王様。警備を仰せつかっておきながらのこの失態……」


 沈黙を破ったのは、アムルより魔王城警護の指揮を命じられていたブラハムだった。

 彼の悲痛な表情が、今回の失態に依る無念と悔しさを現しているようだ。


「……気にするな……ってのは無理な話だろうけど、今回の件にお前の落ち度はない。これが自分の失態だって思うんだったら、それを返上する働きで挽回してくれ」


 それに対するアムルの返事は、統率者として申し分ないものだった。

 激情に任せて部下を処断するようでは、統治者としては失格であろう。

 それにアムルの言った通り、ブラハムに大きな落ち度があるとは言えなかったのだ。


「……申し訳ありません、アムル様。……わたくしの不徳の致すところです」


「……この様な事態。……本当にすみません」


「……私たち、完全に油断して。……カレンを」


 次いでレギーナ、エレーナ、マーニャがしおらしく謝罪を口にした。さらに。


「ごめんなさい、おとうさん―――……」


「……ごめ……ヒグッ」


 目を泣きはらしたアミラと、未だに泣き止まないケビンまでアムルの足に抱き付いて謝っていた。深く反省しているのだろう、2人とも僅かに体を震わせていた。


「……そうだな。まさか魔王城でお茶会を開くとは、俺も思いも依らなかった。責任と言うなら、責任者であるレギーナにあるだろう。……だが」


 一同にここまで陳謝されては、アムルも強く諫める様な事は出来ない。

 ましてや、子供たちは怖い想いをしただけで本当に罪は無いのだ。

 アムルは、アミラとケビンの頭を優しく撫でながらレギーナ達を見渡し。


「責任と言うなら、俺も同罪だな。魔王城魔王の間への奇襲……これを予測する事が出来なかった」


 逆に、その場の者達に謝意を示したのだった。

 激怒さえ覚悟していた一同だったが、その余りにも正反対な対応に思わず驚きの表情を浮かべるほどだった。

 勿論、アムルのこの言葉に偽りも、そして体裁を気にしての事でもなかった。

 彼は、本当にそう思い……悔いていた。


 本当のところ、アムルはどこか人界軍を脅威には感じていなかった。

 無論、奇襲を受けたことも本当であったし、村を襲われ滅ぼされた事に怒りを感じていた事も偽りではない。

 軍を整え、十重二十重に策をめぐらした事も、決して手を抜いたはずではなかった。

 それでも、予想外の事は起きるものだ。

 如何に万事滞りなく準備を済ませたつもりでも、抜け道と言うものはどこかにあるものである。

 その事さえ考えていたはずであるのに、現実は暗殺者に魔王城への侵入を許し、結果としてカレンを囚われてしまった。

 憤慨と言うならば、誰にではなくアムルは自分自身に向けて怒り腹を立てていたのだった。


「だが、ここでこうして反省しているだけでは事態は動かない」


 表情を厳しくしたアムルの言葉に、周囲の空気がピリッと引き締まる。

 その表情は、明確に使命を理解した男の顔であり、まさに魔王に相応しい王者のものであった。

 知らず、レギーナ、エレーナ、マーニャ、ブラハムの顔にも緊張感が宿る。


「レギーナ、お前は急ぎ魔王都レークスに向かい、そこで引き続き政務を熟すよう。今は伝魔境が使えず、各都市との連携も拙い。情報の共有手段を確立して、国務が滞らぬようにしてくれ」


 威厳を帯びたアムルの言葉に、レギーナは恭しく礼をして応じた。


「マーニャ、エレーナもレギーナに帯同してくれ。もとより、今のお前たちに戦闘は難しい。くれぐれも、無理のないように」


 次いでアムルは、マーニャとエレーナにそう言い渡した。

 エレーナは諦めの表情で頷き応えたが、マーニャは何か言い返そうとしてその言葉を飲み込み沈黙をもって答えとしていた。本当は、マーニャもアムルに同行したい(・・・・・・・・・)のだろう。


「マリンダ、ミリンダ。道中の彼女たちの世話をよろしく頼む。レークスに着いたら、レギーナは目が回る程忙しくなると思う。だから、アミラとケビンの世話もしてやってくれ」


「ハイッ! アムル様っ!」


「がんばりますっ!」


 アムルがマリンダとミリンダにそう指示を出すと、2人は気合の入った声で返事をした。

 彼女たちの魔法はチェーニとラズゥエルに通用しなかったが、その事で未熟を痛感したのか2人とも前向きに汚名を返上しようと構えている。


「俺はここから、魔王城に向かう」


 そしてアムルは、その場の全員に自身の行動方針を伝えたのだった。

 もっともこれは、マーニャ達にしてみれば考えるまでも無い事であり、現にマーニャは自分も付いていきたいと考えていたのだ。

 今はアーニャもおり同行を言い渡される事は無いと感じ取ってはいたが、もしもアムルがマーニャの手を借りたいと申し出ていたなら、彼女は一も二も無く同意していたに違いない。

 そしてそれは、エレーナやレギーナも同様であり。


「ブラハム。すまないがみんなを……」


「それは、お断りいたします」


 当然、ブラハムも同様であった。

 主が話している途中で言葉を遮った形であり、しかも主人の命を拒否したにもかかわらず、アムルにその事で不快に感じた表情は浮かんでいなかった。

 驚いた様子も無く、どちらかと言えばその返答を予期していたかのようでもあった。


「魔王様が魔王城へと向かわれるというのに、護衛役の私が同行しなくて如何しますか。ましてや今は近衛騎士団長でもあるリィツアーノ殿も不在。なれば、私だけでも同道し御身を護り参らせるのは私本来の職務であります。どうぞ、私の帯同をご命じ下さいますよう」


 日頃よりも更に改まった口調で、アムルの前で片膝をつき深々と頭を下げて臣下の礼を取るブラハムに、アムルは小さくため息をついて首を横に振った。

 考えるまでも無く、今の魔王城には多くの敵(・・・・)がひしめいているだろう。

 更に、どのような罠が張り巡らされているのか分かったものでは無いのだ。


「……あのなぁ、ブラハム。今の魔王城は、今までの魔王城とは全く違うんだぞ? それこそ……」


「十分に心得ております」


 それを思えば、わざわざ危険と思える場所に付いて来るのも連れて行くのさえ憚られるというものだった。

 だからこそアムルは、ブラハムにも自重してもらいたいと思い。

 それだからこそブラハムは、是が非でもアムルに付いていきたいと考えたのだ。


「……分らず屋め」


 ブラハムの断固たる決意を湛えた目を見てしまっては、アムルにはこう言う以外に他はなく、それを了承の意と捉えたブラハムは不敵な笑みを湛えて改めて頭を深く下げた。


「……という事だ。レギーナ、悪いが道中の警戒もお前を主として厳に備えてくれ。恐らく他に奇襲など無いだろうが、ここまでとことん意表を突かれてる。不測の事態に対処できるように、防衛体制を指揮してくれ」


 そしてアムルは、現状3人の中で動きの取りやすいレギーナにそう伝えたのだった。

 マーニャには生まれて間もないアーニャがおり、エレーナも身重の状態なのだ。

 どちらも無理をさせられる状態ではなく、俊敏な動きは期待できない。

 そう考えての人選であり。


「……はい、アムル様。今度こそ、お任せください」


 それを理解したレギーナは、決意を湛えた表情で頷いた。

 アムルもレギーナの心情を察したのだろう、頷いてその言葉に応えた。


「なら……行くか、ブラハム! 因縁の、魔王城攻略再開だな!」


「……ははっ!」


 こうして、数年ぶりに魔王の魔王による魔王の為の魔王城攻略が決定されたのだった。


ここに、魔王の魔王による魔王の為の、魔王城攻略再開が決せられた!

戦いは、魔王城を中心として展開されてゆく。

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