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カレンの一計

マリンダとミリンダの魔法を破ったチェーニとラズゥエルは、逆上してケビンに手を掛けようとする。

しかしその時、そのラズゥエルの身体を異変が襲ったのだった。

 マリンダとミリンダが魔法「束縛の鎖(カウティペリオ)」を行使し、それを受けたチェーニとラズゥエルが堪える。

 目の離せない展開に、その場の一同は息を呑み双子とチェーニたちの一挙手一投足に注視していた。

 完璧なタイミングの奇襲、マリンダとミリンダの高い魔法力。

 ブラハム、エレーナ、マーニャ、レギーナは、チェーニとラズゥエルが黒鎖に捕らえられる事を疑っていなかった。

 いや……信じたかったのか。


 そんな中でただ一人、カレンだけが次の準備(・・・・)を進めていたのだった。

 これは何も、マリンダとミリンダが失敗すると確信しての行為ではない。

 カレンも、この双子の魔法で状況が打破されることに疑問を抱いてはいなかったのだ。

 だから、カレンが静かに……密かに「精霊剣」を発動させる「精霊言語(スピリッツ・ルーン)」を唱えだしたのは、完全に彼女の“勘”であった。

 何せラズゥエルの使用した「刻印魔法(グラマ・マジア)」の存在を、ブラハムでさえ把握していなかったのだ。カレンが知っている道理など無い。

 それでも。


大いなる(クレーメンス・)この世の(モデルノ・)事象を司る者達フィスィ・オルデン・ラウフ……」


 彼女は、精霊剣発動の為の呪文を止める事はしなかった。

 そしてそれは、今この時に僥倖となって働いたのだった。




「く……。上から……何かが……!?」


 抑えつけられる力に抗えず、片膝をついてラズゥエルが唸る。

 状況が呑み込めないチェーニは、呆気にとられるばかりだ。

 精霊魔法を知らない者からすればこの反応は至極当然であり、やはりチェーニも何が起こっているのか分かっていなかった。


「こ……これは……精霊魔法!? ……なるほど、『白』の仕業ですか……」


 先ほどとは違う脂汗を浮かべて、ラズゥエルが苦しそうにそう吐き出した。

 大気の中級精霊を使役し、カレンがラズゥエルの上空の空気を圧縮させ押し付けていたのだった。

 これは、先に彼女が戦った鬼神像の使った魔法。その劣化版ともいえる魔法である。

 疑似重力魔法ともいえるこの魔法は、対象を動けなくさせるという点では秀逸だという事をカレンはその身をもって知っていたのだ。

 そして彼女は、その魔法を実用出来るよう密かに修練していたのだった。


 ラズゥエルの呻くような声を聴き、チェーニがカレンへ鋭い眼光を向け。


「カレン=スプラヴェドリ―――ッ! 貴様か―――っ!」


 怒りをその瞳に湛えて、チェーニがカレンへとその呪詛を吐き出した。

 しかしその双眸は、すぐさま慌てふためく吃驚のものへと塗り替えられる羽目となったのだった。

 カレンがその驚くべき速度をもって、一瞬でチェーニとの距離を詰め彼女の眼前に迫っていたからだ。


「こ……のっ!」


 対するチェーニの方も、驚嘆出来る反応を見せ腰にした剣を抜き放つ。

 その直後、殆ど勘で構えたチェーニの剣がけたたましい金属音を発した。

 迫りくるカレンの一撃を、殆ど奇跡的に受け止める事に成功したのだった。


「……あら。さすがにやるじゃない」


 いっそ見下していると言っても良いその表情と声音を向けられ、一瞬の安堵にあったチェーニの顔色がみるみると紅潮してゆく。


「し……『白』―――っ!」


 そして再び、腹の底から絞り出すような怒気をまき散らす事となったのだった。


 カレンは精霊魔法を使用して、それでその場が収まるとは微塵も考えていなかった。

 捕まっているケビンに負担は掛けるものの(・・・・・・・・・)、無傷でラズゥエルの行動を抑え込めるこの魔法を選択した事に間違いを感じてはいなかったが、残念ながら無事を確信(・・・・・)出来るのは(・・・・・)ケビンだけ(・・・・・)だった。

 カレンのこの魔法は未だ完全に習得出来たと呼べる代物ではなく、一度の行使で狭い範囲に効力を発揮するだけで精一杯なのである。

 これでは、チェーニに囚われているアミラの安全を確保する事は出来ない。

 精霊剣使用中に用いる他の精霊魔法とは違い、この魔法をスムーズに連続して放つ事も今は困難であった。

 だからカレンは、ラズゥエルとケビンを行動不能に取り込んだ直後にチェーニへと詰め寄る行動を取り、瞬間ラズゥエルの方に注意が向いてしまったチェーニはカレンの奇襲に面食らい人質を有効に使う事が出来なかったのだ。

 これは偏に、カレンの機転と経験がなせる業……と言って良いだろう。


「こんのぉ……。退けってんだよ……」


「残念ね。そんな気なんて、更々ないわ」


 互いの剣で鍔迫り合いを演じるカレンとチェーニの考えは、まさに相反していると言って良いだろう。

 とにかく距離を取りたいチェーニと、決して離れないように力で押してゆくカレン。

 チェーニとしては、距離さえ取れれば自身の優位が再び露見するのだ。

 アミラが手中にある内は、この場を牛耳れる事に間違いはない。

 その為には、目の前にいるカレンと距離を置く必要がある。


「……くっ!」


「甘いっ!」


 鬩ぎ合いのさなかでチェーニが僅かに後方へと逃れようとし、それを察したカレンが更にチェーニへと圧を掛けて離れない。

 普段のチェーニならばもう少し大きな動きも出来たのだろうが、アミラを捕らえている今の状況ではそうはいかなかった。人質としているアミラが、今はチェーニの枷となっていたのだ。

 もっとも。

 一見優位と見えるカレンだが、この状況を維持する以外に他に有効な策を思いついていない。

 だからカレンは、何としてもこの距離を保ちたいと考えていた。

 チェーニの左手はアミラを捕らえて塞がっており、右手はカレンの剣を受け続ける為に使われている。

 これならば、少なくともアミラに危害が加えられる事は無いのだ。


「……ブラハムッ!」


 息を呑み見守るために動きを止めている仲間たちに向けて、カレンが声を絞り出して呼びかけた。

 それを聞いてようやく、ハッとしたブラハムは何をすべきか思い出したかのように動き出したのだった。

 それはカレンの加勢に回るわけでも、ラズゥエルに止めを刺す訳でもなく。

 とにかく、捕まったままのケビンを助け出す事だったのだ。


「ぐ……おおおっ!」


 即座にラズゥエルの元に駆け寄ったブラハムは、意を決して(・・・・・)カレンの魔法効果内へと腕を差し込んだ。

 その途端に恐るべき重圧が彼の両腕に圧し掛かり、踏ん張る為にブラハムは大きな声を上げるほどだった。

 残念ながらカレンの魔法は、現段階では効果対象を絞る事が出来ない。

 今現在もラズゥエルは勿論、ケビンにも上方からの大気塊が圧し掛かっている。

 しかも、大人であるラズゥエルが動きを封じられて呻き声を上げるほどの。ブラハムが、声を荒げなければ腕を保持出来ない程のである。

 そんな状態の中にいるケビンが、無事である(・・・・・)可能性は(・・・・)……低い(・・)


「ぬ……く……。くく……」


 ブラハムは歯を食いしばり超重圧の中で手を動かすと、何とかケビンの身体を掴む事に成功する。

 そして。


「ぬあああぁぁっ!」


 気合一閃、何とかその場からケビンを抜き取る事に成功したのだった。

 その間、至近にいたラズゥエルは満足に動く事も出来ないでいた。


「ケ……ケビンッ!」


 ぐったりとして動けないケビンに、レギーナが駆け寄り安否を気遣う。

 しかし、まるで糸の切れた人形と化したケビンはその声にピクリとも反応を見せない。


「ケビンッ!」


 今度は悲痛な叫び声をもって、レギーナはケビンの名を呼んだ。

 その瞳には、すでに涙が浮かんでいる。息子の容態がどの様な状態なのか、彼女にはすでに分かっていたのだ。

 レギーナは瞬間的にケビンへ回復魔法を使おうとし。


「……!」


 それを優しく、エレーナが止めたのだった。

 項垂れて動かないケビンを癒すのに、回復魔法の専門家ともいえるエレーナ程打って付けの人物はいないだろう。

 同じ回復魔法であっても、エレーナの使うそれは効果が高くそれでいて繊細なのだ。

 それが分かったのだろうレギーナは、息子を回復させる役目をエレーナへと譲り。


「おお、偉大なる存在にして万物の創造主たるベルダージュよ……」


 それを受けた彼女は、嫋やかな仕草で魔法の詠唱へと入った。

 その直後、エレーナの身体からこれまでに見たことも無いような眩い光が発しだしたのだった。


危険な賭けながら、カレンの機転でケビンの救出に成功する。

しかしカレンの魔法内にいたケビンは、ぐったりして意識が無い。

一同が不安に駆られる中、エレーナの高らかな魔法詠唱の声が響き渡る。

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