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待ち構える怪人

アンギロの街へと潜入したチェーニとラズゥエルは、目にした「如何にも」な建物へと潜入する。

 異界門(トロン・ゲート)の最も近くにある魔王直轄城塞都市であり、魔界第4の街でもあるアンギロ。

 その街を治めているであろう者の拠点と言って良い建物であったが、チェーニの能力である「オンミツフィールド」を使用すれば気配を立つだけで彼女たちはすんなりと侵入を果たした。


「……やっぱり、最上階……かな?」


 慎重に歩を進めながら、傍らにいる相棒のラズゥエルへ向けてチェーニはそう問いかけた。

 彼女の考えは一般的なものであったのだが。


「……ええ。きっとそうでしょう」


 チェーニの質問に対するラズゥエルの返答も同意を示すものだった。

 チェーニは完全に憶測で口にしたのだが、ラズゥエルは建物内の構造や人員の動きを見てそう結論付けたのだ。

 理由はともかく、2人の意見が同じならば迷う必要もない。


「……なら、さっさと仕事を済ませてしまおう」


 先を行くチェーニがそう口にして歩く速度を上げ、後続のラズゥエルもそれに遅れまいとして歩を速めたのだった。




 奇しくも2人の予想は的中していた。

 外から見ても豪奢だと分かる扉が、最上階に1つだけ設けられている。

 誰がどう見ても、その扉の奥にはこの街の最重要人物が座しているに疑いはなかった。

 チェーニたちは気配を消したまま、その扉へと近付き中の様子を伺った。


「……どう思う?」


 ラズゥエルに意見を聞くチェーニだが、彼女の感覚では中に1名の気配を感じている。

 そして。


「……いますね」


 その考えを、ラズゥエルの意見が裏付けした。


 彼女たちがここへと来たのは、何もこの街を取り仕切っている人物を暗殺する為ではない。

 むしろ、出来る事ならば戦闘は最小限に抑えたいのが本音である。

 チェーニの能力が隠密活動に向いている事を考えれば、人族が魔界へと侵入している事を知られて警戒されるのは遅ければ遅いほど望ましい。

 出来るならば、強硬手段はとりたくないと考えていた。

 しかし結果としては、中にいる者を口封じとして殺す事になるのも止む追えない事だった。


 ラズゥエルの同意を得て、チェーニが早速中に入ろうと試みる。

 ドアノブを回す事無く施錠の有無を確認し、室内にある気配の位置を読み取り、ドアを開けるタイミングを図りだした。

 そしてラズゥエルは、その間周囲の警戒を怠らない。

 この階にやって来る者はいないかどうか、離れた階段からの気配は勿論、階下の気配にまで探りを入れる。

 彼もまた「勇者の中の勇者(・・・・・・・)」の一員である。

 直接戦闘に適性が無くとも、それくらいの事はやってのけるだけの技量を持っていた。

 そして、チェーニの雰囲気が変わった。いよいよ突入するつもりなのだ。

 特に合図をしなくともその気配だけで次の行動を察したラズゥエルもまた、すぐに訪れる彼女が突入する瞬間に備えたのだった。

 チェーニが、ゆっくりと扉を開ける。

 扉を開く際に鳴りそうな軋み音さえ、彼女の事前工作により響かない。

 動いているのかどうかさえ定かではない程緩やかに、そして静かに扉は開きだし。

 どうにか人が一人通れるまでになった。

 そこまでに、中にいるであろう人物に気付かれた様子は伺えない。

 余程執務に精を出しているのか、はたまた扉に背を向けているのか。

 もしかすれば、何か趣味嗜好のものに夢中なのかもしれない。

 そんな都合の良い想像は即座に頭の中から打ち消し、チェーニは音も無く部屋の中へと侵入し。

 即座に彼女の能力「オンミツフィールド」を部屋一杯に展開させたのだった。

 これによりこの部屋で起こる騒動や物音は室外は勿論、階下にも一切知れ渡る事は無い。

 それを確認して、ラズゥエルもまた部屋の中へと足を踏み入れたのだが。


 その途端。


 まるでその時を待ち構えていたかのように、彼女たちが潜った扉が閉まり施錠がなされたのだった。


「何処の馬の骨かと思えばなんだ……人族の雑魚か」


 そしてやや暗い室内の奥の方、丁度執務机のある方より、なんとも低く野太い声がしたのだ。

 驚くラズゥエルに対して、チェーニの方は落ち着いたもので動揺する素振りも見せず、すでにしっかりと立ち上がり正対している。


 奇襲と言うにはお粗末ではあったが、それでもここまでの行動はチェーニたちの思惑通りだった。

 少なくとも、ラズゥエルはそう考えていた。

 だがいざ目的の部屋へと侵入してみれば、騒がれるどころかまるで待っていたと言わんばかりの台詞を投げかけられたのだ。

 これにはラズゥエルも、まるで自分たちが罠に掛かったような錯覚を受け動揺するのも無理はなく。


 事実、その通りだった。


「なぁんだ。あんた、あたいたちが近付いてくるのが分かってたんだ?」


 その事を種明かしでもするかのように、チェーニが先に口を開いた。

 一見すれば落ち着いたように見えるチェーニだが、その声は僅かに震えている。

 そしてラズゥエルはと言えば、相手の姿を見て絶句してしまっていた。


 チェーニたちの眼前に立つ魔族……その姿は、いわゆる「人」のそれではなかった。

 自分たちよりも明らかに巨体であり……異形だったのだ。

 2本の足で立ち、左右に1本ずつ腕を持っている。その両手には、その巨躯に見合った巨大な剣を携えている。

 そこまでならば、人界にいる巨漢でも見る事が出来るだろう。

 しかし、それ以外が全くの別物と言えた。

 長く伸びた首。そしてその先端に見えるのは、蛇の頭のそれである。

 胴体は太く屈強に見え、全身を隈なく鱗で覆われている。

 そして何より、異様に長く強靭な尻尾が彼の背後で蜷局を巻いていたのだった。

 全体的なその姿は、鎧を纏った四肢を持つ巨大な蛇……または蜥蜴といたっところか。

 チェーニが言ったようにその怪人は、すでに戦闘態勢を取ってこの部屋に入って来た彼女たちを迎えている様に見える。

 チロチロと舌を出しながらその魔族は、驚くほど落ち着いた声でチェーニの問いかけに答えた。


この街にいる(・・・・・・)全ての者の気配(・・・・・・・)は把握済み(・・・・・)だからなぁ。外から来る者がどれだけいて、そいつらがどう行動するかなんて、俺には手に取るように分かるんだよ。その能力もあったから(・・・・・・・・・・)こそ、俺はここを治めてるんだ」


 怪人の回答に、チェーニは少なからず驚いていた。

 この街に入ってより、チェーニはラズゥエルも含めて気配だけは消すように「オンミツフィールド」を展開していたはずだ。

 魔力の温存と効果を長く持続する為その効力は気配にのみ作用されており、彼女たちの声や発する音までには及んでいない。

 だが賑やかと言って良い街中ではそれで十分であり、遠く離れた場所からその他の要素で察知されるとは思いも依らなかったのだ。


「……なるほど。そうでしたか」


 それでもその答えを聞いたラズゥエルは、何かを得心したのかそう感嘆の声を上げていた。


「ラ……ラズゥエル! どういうこったよ!?」


 もっとも理屈が分かっていないチェーニにとっては、説明されなければ理解のしようがなかった。

 彼女は、目の前のトカゲ怪人に目を向けながらラズゥエルに問いかけた。


「なんら不思議な話ではありませんよ、チェーニ。こいつの見た目は蛇や蜥蜴。ならば、その両方の特性を持っていると思って良いでしょう。そして蛇は、温度を察して得物の位置を把握するとか。ならばこいつは、街に出入りする者の温度から、その人物を特定し位置を把握しているという事でしょう」


「こ……この街の住人全員って……」


 ラズゥエルの説明を受けて、チェーニにもようやく抱いていた疑問が解消された気持ちとなった。

 しかしその余りのスケールに、言葉を失ってしまったのだが。


 確かに彼女は、この街に入った時から……いや、その前から張り続けている「オンミツフィールド」の強度を、そこまで強力とはしていなかった。

 それはそのまま彼女の判断に、そこまでは必要ないと判断したからに他ならない。

 それが油断だと言えばそれまでなのだが、まさかそれほどの広範囲を探り、行きかう者の放つ体温から人物の特定まで行える者がいるなど思いも依らない事である。

 それでも、面と向かってしまえばその様な事も関係ない。


「……さすがは、魔界の怪物ってところだな」


 半ば呆れ気味だったチェーニは気持ちを持ち直すと、改めて臨戦態勢を整えたのだった。



立ちはだかる、魔物然とした怪人。

その異形を前に、チェーニとラズゥエルは戦闘態勢を取るのだった。

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