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両軍対峙

リィツアーノ率いる本隊との合流を果たしたアムル。

その眼前に、人界軍が現れる。

 アムル率いる魔王軍は、バトラキールの差配とリィツアーノの直接指揮のもと、着実に布陣を完成させていた。

 そしてそれに遅れる事1日。人界軍がここエーベネ平原に現れたのだった。


「さすがに雑然とはしていないようだ。人界軍も、それなりに規律は保たれているようだな」


 バトラキールより齎された報告に目を通したアムルが、そのまま感想を口にした。

 それは、どこか人界軍を侮ったような感想であったのだが。


「未開の地を行くという不安から秩序を保つのも本来は四苦八苦するものなのですが、どうやら先の戦闘(・・・・)で高揚感が先立っているようですな」


 アムルの意見は、決して人界軍を軽んじたものではなかったのだった。


 初めて訪れる土地……それが異界の地であれば尚の事、兵士たちには少なくない不安が付き纏う。

 どの様な罠や策謀があるか分からない上に、その生態系の違いよりどの様な動植物が襲い来るか知れたものでは無いのだ。

 それに対して侵略者たちは逃げ場など無く、もしも到底太刀打ち出来ない様な事象に見舞われた場合、絶望の内に息絶えるより選択肢が無くなると言って良かった。

 その様な状況に置かれれば、多くの者達が集うような状況……特に軍隊などでは、どのような流言飛語が流れるか分かったものでは無い。

 もしもその様に根拠のない噂が兵士たちの間で流布され信じられでもしたならば、どのように指揮能力の高い者であってもそれを静めるのは生半可な事では不可能だ。

 しかし現在、外見上は人界軍にそういった軍紀の乱れは見て取れない。

 ただし。


「戦闘だと? あれは戦いではなく、略奪虐殺と言うんだ」


 バトラキールの付け加えた言葉に、アムルは不快感を露わとしてそう吐き捨てたのだった。

 人界軍の様子が乱れていない理由は、この魔界へと訪れて最初に行った戦闘行為、その結果に依る処が大きい。

 相手の編成がどうあれ、その規模がどの程度であっても、人界軍はこの魔界へ来て最初の戦いで大勝を収めたのだ。


 ―――鏖殺という結果で……。


 内容はともかくとして、この結果だけを見れば人界軍は初戦に完勝した事となり、魔族など恐るるに足らずという論調にもなる。

 それが今の人界軍の寄る辺となっているのだろうが、被害を受けた側にしてみれば面白い訳ではない。

 バトラキールも、アムルの唾棄する様に呟いた言葉に頷いて賛同している。

 この老執事もまた、表面には見えない部分で人界軍の暴挙に怒っているのだ。


「ただし上空からの報告(・・・・・・・)を聞く限りでは、その戦列は長蛇の如く延び切っている模様です。余程の事でもない限り、会戦は更に数日後かと思われます」


 もっとも、バトラキールはその様な感情を露わとする様な人物では無い。

 アムルが、良くも悪くも感情的な人物であるからこそ、バトラキールは冷静さを常に心掛けている。

 そんな彼の口からは、更に追加の情報が齎された。

 人界軍は、3万と言う大軍で行軍している。

 その大集団が、一段となって行動をするなど不可能と言って良いだろう。

 それを考えれば、ある程度はその隊列も長くなるのは仕方の無い事である。

 ただしバトラキールの報告では、その長さは注視するに値する(・・・・・・・・)ものだと言うのだ。


「……奴らが一堂に会するのは数日後……か。だが、それまで待ってやる謂れも無いな」


 そしてアムルは、そんなバトラキールの報告に見るべき部分を汲み取っていたのだった。


「……では?」


 アムルが口にした事を是とした様にバトラキールは腰を浅く折り、アムルにその続きを促した。

 恐らく彼はその後に続くセリフも想像出来ているのだろうが、あえてアムルにそれを言わせようとしている。

 これは何も意地悪と言う訳でもなく、作戦の決定は最高位の者が成すという当たり前の事を行っているだけであり。


「……ああ。リィツアーノに通達。先頭の人界軍部隊に牽制攻撃を仕掛けさせろ。おびき出された人界軍を分断し、少しでも奴らの戦力を削いでおくぞ。マロールとマレフィクトに連絡して、切り取った後の後続部隊を足止めする様に命じてくれ」


 アムルの採った作戦は長い蛇の頭を引っ張り出し、その頭を切断して袋叩きにしようというものであった。

 バトラキールに異論はなく、アムルの指示はすぐに実行される事となったのだった。




 エーベネ平原に到着し、そこに布陣している魔族軍を目にした人界軍は、同じように軍の集結を図ろうとしていた……その矢先だった。


「な……何事だっ!?」


 先陣部隊を率いていた人界軍隊長が、前方で突如起こった爆発に驚き大声を上げる。

 その視線の先では爆発が途切れる事なく起こり、多くの人界軍兵士が断末魔の悲鳴を上げていたのだった。


「て……敵襲っ! 敵襲ですっ!」


「そんな事は、見れば分かるわっ!」


 そして齎された報告に、声を荒げて答えたのだった。

 順調だったこれまでの行軍から、人界軍の諸兵は例外なく会戦は双方が出揃ってから行われるものと勝手に思い込んでいた(・・・・・・・・・・)

 そこには自分たちが魔界の村を急襲し、そこに住んでいた村民や避難を促していた魔族軍兵士を皆殺しにした事など考えてもいない。

 ある意味でそれも仕方の無い事で、魔族は……魔界に住む者は全て悪と言う認識が人界では広く根付いている。

 相対的に人界側は善であり、善は悪を駆逐できる。なぎ倒しても良いという発想に至るのだ。

 だから人界軍にしてみれば、魔界に来て早々に滅ぼした村の一つなど歯牙にも掛けず、そこで行われた戦いは戦闘の内に入らない……と言う考えなのだろう。


「ふ……不意打ちとは卑怯なっ! 所詮は魔族っ! 道理も分からぬ邪悪な者よっ!」


 だからこそ、この様な意見も平気で口に出来るのだ。

 ただし残念ながらそれは愚者の咆哮であり、その様な事を叫んだからと言って先手を取られた現実が覆る訳もない。


「た……直ちに、全軍攻撃を開始せよっ! 敵は少数だっ! 一気に蹴散らしてしまえっ!」


 慌てふためき、更には怒り心頭となった指揮官は、感情のままにそう宣言した。

 彼の宣言した通り、攻撃を仕掛けて来ているのは魔族軍の中でもわずかに一部。

 中隊規模(250人前後)の魔族が、遠方より魔法攻撃を仕掛けて来ていたのだった。

 それに対して人界軍は、集結済みの人員だけでも数千人を超す。

 これならば一気に攻めれば、短時間で殲滅出来ると考えるのも無理はなかった。

 そしてなによりも彼の脳裏には、先の戦闘の余韻が残っていたのだ。

 少数の魔族ならば恐るるに足らず。

 彼がそう考えても、何らおかしい事では無かったのだった。


 ただ残念ながら、理性の伴わない指示では軍隊に規律のある行動を求める事など出来ない。

 人界軍はなんら作戦指示を受ける事も無く先陣から順次突出し、更に細長い隊列を晒す事となった。


 それを見たアムルは、どこか呆れた様に小さく嘆息していた。


「あいつらには、秩序もへったくれも無いんだなぁ。まともに戦おうと考えている、こっちが良い面の皮だ」


 それは、最大限に人界軍をバカにした物言いでもあった。

 そんなアムルの台詞を聞いて、バトラキールも失笑を堪えながら頷いて応えていた。

 とはいっても、攻め込んできている人界軍の数は笑ってばかりもいられない数である。

 人界軍はまんまとアムルの挑発に乗り罠に嵌りつつあるのだが、数の暴力はその罠さえ噛み切ってしまう場合もある。


「よし、リィツアーノに伝えよっ! 兵1,500を以て敵の胴体部に突入っ! 敵を分断せよとなっ!」


「仰せの通りに」


 アムルの命令に、バトラキールは静かに腰を折り了承したのだった。


冷静な判断と的確な指示により、人界軍を策に嵌めてゆくアムル。

そしていよいよ、前哨戦が開始された。

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