始まりの日
『皆で一緒に甲子園に行こう』
誰が言い出したのかはもう覚えていない。ただそれが俺達の夢になったのは、野球を始めたばかりのころにチームメイトの一人の家に集まって、皆で夏休みの宿題をしていたときだったと思う。
気分転換に点けたテレビで高校野球の夢の舞台、甲子園球場で決勝戦の中継が放送されていた。
野球を始めたばかりで、ルールもまだ曖昧だった俺達には甲子園の決勝に居るということがどれだけ凄いかなんてちゃんと理解していなかった筈だ。そんな俺達ですら、テレビに釘付けにさせる魅力が甲子園にはあった。
それから俺達は、甲子園に出場する未来の自分達を想像して練習に励んだ。しかし思うような成果は出ず、少年野球最後の大会は、あっけなく地区予選の初戦で敗退した。
皆で同じ中学に進み、それからも部活で毎日野球漬けの日々だった。普通の公立校で、万年一回戦敗退のどこにでもある弱小野球部だ。
朝から晩まで練習しても。強豪校との差は埋まらなかった。俺達の中学最後の大会は、その年県予選大会で優勝したチームに一回戦で当たり、あっけなく敗れ去った。
二年半の努力が報われなかった悔しさで皆が泣いた。それでも俺は、高校でまた皆と野球をしようと、そこで甲子園に行こうと考えていた。
それが覆されたのは、試合の後、打ち上げで行った焼肉の帰りに夜道だった。俺達のチームでずっとキャッチャーをやっていた奴の家が同じ方向なので、二人で雑談でもしていたときだったと思う。他愛もない会話中に、あいつはいきなりそう言い出した
「裕也君、君は僕達とは別の学校に行ったほうがいい」
それはこれまでの俺の人生で、間違いなく一番重い選択を迫らせた言葉だった。