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レイラの姉

 

「カッペー。お腹空いたぞ」

「さっき飯屋でしこたま食ってたろうが」

「だって捕まる前にカッペーがスープくれなかった」

「まだ言ってんのかよ」

 俺は溜息をついて辺りを中を見回した。先ほどから俺たちは五人ともこの地下牢獄の中に仲良くぶち込まれている。フィアールカは俺の腕に寄り掛かって眠っていて、一方でエドは大の字に突っ伏して寝ている。何だその寝相はヒトデか。

 四人で住むには狭いな。そろそろ引っ越しを考えないとな。なんて冗談が頭の中に浮かんできたが、そんなに楽観できる状況ではない。


 レイラが誘拐されたことによって、真っ先に疑われたのは俺たちだった。ついさっきまでレイラに会って、拒絶されていたのだから無理もない話だ。だが飯屋に武装した兵士たちがなだれ込んで来た時はさすがに面食らった。

 もちろん俺たちには王宮から離れた場所に居たというアリバイがあり、飯屋の人や客も証言してくれた。

 だが兵士が「お前たちが重要参考人であることに変わりはない。王宮まで来て事情を聞かせてもらおう」と結局連行されることになった。

 ここで無理に反抗することは得策ではない。いざとなれば俺は縄抜けが出来るし、鉄格子を素手で捻じ曲げるゴリラと同じ檻に入っているので心強い。


「面倒なことになったな」

 俺は改めて溜息をついた。

「カッペーがスープくれないから」

「根に持ってんじゃねえよ」

 面倒なことになったのは事実だ。パーツの保持者であるレイラが連れ去られてしまったら、また一から探さなければならない。それに彼女が今無事に生きている保証は何もないのだ。


 にわかに外の兵士たちが背筋を正して直立不動になった。おっかない上司が来るのかと思っていると、今度は牢獄の前に、金細工の施された椅子が運ばれてきた。お偉いさんか?


「尋問の前に、ミーア国第一王女であらせられるアルマ様がお前たちの話を聞きたいと仰っている。いいか、少しでも不審な動きをしたら殺すからな」


 そう言って白いひげを生やした兵士は下がって行った。そのすぐ後に視界の端から一人の女が進んできて、椅子に腰を掛けた。まるで浮いているかのような華麗な歩き方で、お上品な座り方はフィアールカによく似ている。


「こんにんちは、誘拐犯のみなさん」

 アルマは柔和な笑顔で言った。第一王女か。この国の仕組みはよく分からないが、レイラが第二王女だから、彼女のお姉さんなのだろうか。確かに聡明そうな顔立ちは少し似ているし、肉付き、とくに胸の辺りの肉付きが中々良いでゲス。


「ごめんなさいね、手荒な真似はしたくないのだけれど」


 レイラと同じように俺たちの対面に座った第一王女ことアルマはやや申し訳なさそうな表情をしている。職業病だろうか、俺はその笑顔を疑り深く見ていた。そもそもさっき俺たちを誘拐犯扱いしといてごめんなさいもクソも無い。


「不躾な質問だけれど、レイラにキスをせがんだのはどちらの方かしら?」

 アルマの表情はいたずら心に満ちている、というよりは品定めをするようだ。

「俺です」

 俺は控えめに手を上げて答えた。併せて理由も言おうとしたがアルマに阻まれる。


「ふふっ、ずいぶん積極的なのね」

「あっ、いや俺は別にレイラ様に好意を持っていたというわけではなくて」

「ええ知っているわ。レイラの中から何かを取り出すのが目的だったんでしょう?」

 知ってるのかよ。イルマは前傾姿勢になり、頬杖をついて俺の目をじっと見た。否が応でも窮屈そうな谷間が目に入る。

「でね、そのパーツとやらが私の身体に入っていたら、私とキスする予定だったのかしら?」


 ええ、もちろん。とは立場上言えない俺は答えに窮した。アルマの挑発的な微笑みはどこかの誰かさんを彷彿とさせる。

 この女に何かの企みがあるのは事実だろうが、それが何なのかは分からない。


「第一王女様。私たちに会いたいと申されたのは、どのような理由でしょうか?」

 いつの間にか起きていたフィアールカが割って入る。おはよう。笑顔だが王族相手にも毅然としていた態度だ。

「そうそう、私の大切な妹が何者かに捕らえられてしまって、とても心配なの」

 本当だろうか。もし心配なら、悠長に俺をからかうより先にその話題を出すはずだ。からかわれるのは一向にかまわないけども。


「手がかりが欲しくて貴方たちにお話しを聞きに来たのだけれど、レイラに家出するようなそぶりはあったかしら?」

「……いや、レイラ様は何者かに連れ去られたのでは?」

「ええ、その可能性が高いわ。けれど妹が外の者に手引きを頼んだ可能性もあるでしょう?」


 やはりこのアルマという女はレイラの心配などしていない。二人の間に何があるのかは分からない。だが彼女の言動は、到底妹のことを心配する姉の口から出る言葉とは思えなかった。

「まあいずれにせよ、レイラも誘拐犯も王都の周辺からは出られないのだけどね」

「と、言いますと?」

 アルマが言う事には王都の回りには他国からの侵略を防ぐための魔法結界が、半径10㎞にわたって円形に張り巡らされている。

 緊急時には発動する結界は内側からの脱出を防ぐのにも有効なようで、これがある限り誘拐犯は外に出ることが出来ないとのことだった。


「けれど結界は持って3日。それまでに探し出さないといけないのよ。殺されちゃってたらどうしようかしら」

 こういう非常時に「殺されちゃってたら」なんて、本当に心配していたら口が裂けても言えないはずだ。まるで他国の顔も知らない相手の事のように言う。

 だがこれは朗報だ。まだ幾らでも手の打ちようがある。


「クー、お前の力でレイラ様を見つけられないか?」

「それが出来るんならとっくにやってるわよ!」

 俺は鼻っ柱を思いっきり叩かれた。痛い。

「あら、これは可愛い妖精さんね。ふふふ」

「それはどーも。」


 クーが軽薄な挨拶を返したので、俺は回りの兵士たちが怒りださないか冷や冷やした。


「でも、何で出来ないんだ? 俺たちはお前の能力を頼ってここまで来たじゃないか」

「何度試しても探知できないの。恐らく探知を無効にする『迷彩魔法』が使われているわ」

「うっ、俺の知らない単語が次々と……」

「パーツは元々固有の波長を持っていて……まあ簡単に言うとパーツの気配が消されているから私も探知できないってわけ」

「わざわざパーツの気配を消すってことは……」

「ええ。アリアの五芒星を狙う連中がレイラをさらった可能性が高いわ」


 俺は遺跡で出くわした不気味な男の事を思い出していた。あの邪悪な目、刃物のように鋭い殺気。もしあいつにレイラが捕まってしまったら……!


 ここでアルマが口をはさむ。

「でもそのパーツ? とやらの気配が消えてしまったのなら、レイラはもう殺されてしまっているということは考えられないかしら」

 いやバッドエンド大好きかよ。


「その可能性は低いと思われます」

 俺は控えめに発言した。

「どうして?」


「殺すメリットが無いからです。王都の周辺から出られないこの現状では捕まる可能性の方が高い。その時にレイラ様を殺してしまっていれば厳罰は免れないでしょう。それに、生かしておけば人質として『ゆすり』にも使えます。少なくとも俺が誘拐犯ならそうする」

「あ、アンタ清純そうな顔してんのに、よくそんな鬼畜な事思いつくわね。流石忍者汚い」

「ひどい」

「ふふっ。貴方って面白い人ね」

 アルマは俺の顔を見て笑った。俺の顔が面白いとでも言いたいのか。

「そういう事ならどっちみち、全兵力を上げて結界の中を捜索するしか手は無さそうね」

「いいえ」

 アルマが立とうとしたとき、クーが俺を指さして言った。

「この男なら第二王女様の居場所を見つけられるかもしれないわ」


この章の終わりまで週1ペースくらいで投稿します。

次の章については……聞かないでください。

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