飯屋
正直参った。運良く王宮に入れて保有者にも会えたというのに、怒られて出禁を食らってしまうとは……。しかし深刻に悩んでいたのは俺だけだったようで、他の4人は追い出された瞬間から、どこでメシを食うかで議論を始めていた。もう呑気過ぎて乾いた笑いしか出ない。
「カッペー、そんな深刻な顔をするな。保有者は分かったんだから後は何とでもなるさ」
ボニーはエビ一匹が丸ごと乗ったスープを啜りながら言った。こいつ王宮でしこたま食べてなかったか。
「だからそのレイラに嫌われたのが問題なんだろ」
「あんた本当に童貞ね」
クーが俺の肩に止まる。
「何だ、その俺が童貞だと決めつけるような言い方は」
童貞だけど。
「あのね、初対面の男から『キスしてください』って言われてチューする女がどこにいるのよ。もしいたらビッチよビッチ!」
俺の耳元でビッチビッチ言うのやめて欲しい。
「まー最悪さ、アンタ隠密なんでしょ? だったら夜這いすれば良いじゃん。さっと行ってさっと唇を奪ってくるだけよ」
いや軽いな。野菜をおすそ分けしに行くわけじゃないんだぞ。
「確かに俺の忍術を駆使すれば王宮に忍び込むことも、お姫様の枕を盗んでくることも出来るさ」
「アンタの性癖が垣間見えてるわね」
「だけど一国の警備はそんな甘くないだろう。あちらも忍びを雇っているかもしれないし、俺の術を見抜く手練れもいるかもしれない」
「何? 自信ないの?」
「そういうわけじゃない。忍び込むにしても、綿密な計画が必要だと言っているんだ」
「おいカッペー」
ボニーがこの国に来て一番真面目な声を出した。
「お前の飲みかけのスープ、もう飲まないんなら私にくれないか?」
「やんねーし!」
「私はカッペーのジュースが飲みたいわ」
左からフィアールカがずいっと体を寄せてきて、俺の目の前にあった果物の実を手に取る。この実(名前はわからない)の上の部分を割ると中には果汁が溜まっている。ちょっと飲んでみたがさっぱりした味で美味しい。
「えっ、いやそれもう俺口付けちゃってるぞ?」
しかし俺の言葉など一切聞かずフィアールカは口を付けた。俺がこの時どんな想像にふけっていたのかは想像に容易いだろう。
「ああっ、ずるいぞフィアールカ! あとで私にも飲ませてくれ!」
ボニーも身を乗り出してくる。
「ふふっ。あーげない」
「それでなんだが」
話を元に戻そうとしたのは、意外にもエドだった。
「やっぱりレイラ君の同意が得られそうにない以上カッペー君に頑張ってもらうしかないと思うんだ。どうにかなりそうかい?」
「出来ないことはないさ。ただ、三日間は王宮の警備体制やレイラの居場所の調査に充てたい。絶対にしくじれないからな」
もし俺がお姫様とキスしたいがために王宮に忍び込んだなんてことがバレようものなら、俺の変態性と異常性は末代まで罵倒され続けるだろう。
その時店の外がにわかに騒がしくなってきた。街行く人々がみな一様に王宮の方へ走って行ったり、指さして何か話している。俺はその一人を捕まえて話を聞いてみた。
「大変だぜ! ついさっき第二王女が連れ去られたらしいんだ」
「第二王女……名前は?」
「レイラ様さ!」
どうやら俺が思っていたよりずっと警備はザルだったらしい。




