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命の受け渡し


考える間もなく玄関を飛び出していた。

「カッペー! こっちだ!」

庭の植え込みの近くでボニーが青い顔をしている。ボニーのすぐ足元にフィアールカが仰向けで倒れていた。

「フィアールカ! おい!」

すぐに駆け寄って身体を揺する。しかしフィアールカの目は閉じられたまま、荒い呼吸は更に荒くなっていく。

「駄目だ、さっきから呼びかけているんだが全然反応が無いんだ」

「そんな……!」


フィアールカの全身からは滝のように汗が流れ、見ているだけでも辛そうだ。

「とにかく診療所に連れて行くぞ。ボニー、案内してくれ」

「待て。これを見たまえ」

その指さす方を見ると、フィアールカの胸元がかすかに赤い光を帯びている事に気付いた。その光が逆さを向いた五角形に縁どられていることに気付いてハッとする。

この形はフィアールカと口付けを交わしたときに浮かび上がった形と同じだ。ということは……。


「呪いだ。エーテル族に掛けられた呪いによって、フィアールカ君は今寿命を迎えようとしている」

「そんな!」

俺は絶望感に打ちのめされそうだった。せっかくエドウィンも一緒に次の目的地へ行けるところだったのに。これからアリアの五芒星を集めて、フィアールカの呪いを解こうと思っていたのに、ここで終わりだっていうのか。


「落ち着けカッペー君! 今なら君の力でフィアールカ君を助けられるぞ!」

「ど、どうすればいいんだ?」

「はー。あんたテンパりすぎ。エーテル族に寿命を分け与える方法は何だったわけ?」

この場の誰もが焦っている状況で、その落ち着いた声は俺の耳元で聞こえた。

「……粘膜接触か」

「そ。その女を助けたかったら今すぐチューしろってことよ」

「さあ早く! 早くしないと僕がカッペー君の耳に舌を入れちゃうぞぉ!」

「やめろや」


こうなることは覚悟していたとはいえ、ここでキスをすれば俺の寿命は10年確実に縮まってしまう。その事実が一瞬俺の決意を濁らせた。だが迷っている場合ではない。俺はフィアールカに約束した。寿命を分け与えるのだと。


俺はフィアールカの頭を左手で抱え、横から顔を重ねるような形でフィアールカの唇に唇を重ねた。

口の中が熱い。何かとても甘ったるく、そしてチクチクとした刺激が俺の口の中に広がって行く。しばらくするとフィアールカの舌が動いた。しかも俺の方に絡めてきたので驚いて口を離してしまった。

改めてフィアールカの様子を見ると、先ほどまで荒かった息は収まっている。汗もボニーが丁寧に拭いてくれているので流れていない。胸に浮かんでいた呪いの光も消えている。

「成功した……のか……?」


まるで死に化粧をされたようだったフィアールカの顔色に段々赤みが戻って来た。そしてゆっくり、まるでこの世界の景色を少しづつ認識しようとしているかのように、フィアールカが目を開いた。

その場にいた全員が歓声を上げる。

「フィアールカ! 大丈夫か!?」


俺はフィアールカの右手を両手で握りしめた。その俺の手を、弱弱しい力ではあるが、フィアールカが握り返してくる。

「カッペー、ありがとう」


フィアールカはいつものように俺の顔をじっとりと見つめ、目を細めて笑った。


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