三十話 動き出す
通路を進んでいくと、だだっ広い部屋へ出た。天井はドーム状になっており、奥の方には巨大な石像が二体並んで立っている。
ふと部屋の中央あたりに誰かが立っていることに気付く。
「おーいカッペー、フィアールカ! 遅いぞー!」
元気よくこちらに手を振っているのはボニーだった。この場にボニーがいるということは、どうやらどっちの道を選んでも奥まで辿り着けるということだったようだ。
「早いなボニー。こっちは罠ばかりで大変だったぞ」
「そうなのか。こっちはほとんど何も無かったぞ」
「本当かよ」
「ああ。途中で天井が落ちてきたり床一面から炎が出てきたり部屋ごと砂に埋まったりした以外は何も無かった」
「モリモリじゃねえか」
「まあ私にとっては大した問題じゃなかったさ! そんなことより石版はどこにあるんだ?」
そうだ。俺は隠し通路の在り方は教えてもらったが、詳しい石版の在り方は聞いていないのだ。
「あるとしたらこの部屋のはずだ。三人で手分けして探そう」
すると、強い耳鳴りのような感覚が脳を襲った。
(愚かなる侵入者どもよ。何をしにここまで来た)
これは、何だ? まるで脳内に直接響いてくるような……。
状況的に考えられるのは、この遺跡の主、ガーディアンのようなものだろうか。
ボニー達の方を見ると、二人とも俺の方を見て仲良く首を傾げてる。どうやらこの声は俺にしか聞こえていないようだ。……、どうしてだろう?
俺は試しに返答を試みる。
俺たちはエーテル族の呪いを解く方法を知りたくて石版を探しているんだ
(ほう、石版を探しているのか。それは確かにこの部屋にある)
どこにあるか教えてもらえないだろうか?
(良いだろう)
俺が脳内に響く声に意識を集中していると、いきなり岩が崩れるような大きな音が響いて来た。
驚いて部屋を見渡すと、奥に立っていた巨大な二つの石像がこっちに向かって歩いて来ていた。おいおいマジかよ。急いで身構える俺の脳内に再び声が響いてくる。
(石版ならくれてやる……我らを倒すことが出来たらな!)
眼前に迫った石像は悠に 10mはあろうかというほど巨大で、熊のようにずんぐりとした体型をしてていた。
「カッペー、右のは任せた! 私は左のを倒す!」
そう言うとボニーは恐ろしいほどの跳躍力で跳び、石像の顔面に向かってモーニングスターを振りかざした。しかし石像は握っていた剣でそれを防ぎ、ボニーを弾き飛ばす。
やはり一筋縄では行かないようだ。
俺はフィアールカを壁まで下がらせ、胸の前で印を組む。
「忍法・森羅万象の術」
にわかに俺を取り囲む九つの透明な玉が出現し、ゆったりと周り始めた。この球体は忍術により、様々な属性や物体に変化する『九神』と呼ばれるものだ。
俺は更に印を組み、祝詞を唱える。
『全てを破る武甕雷よ。神の響きを轟かせたまえ。天の剣を振るいたまえ』
俺の言葉を合図にして、透明だった九つの玉に突如弾けるような電流が迸り、激しい光を帯びた黄色に変化した。
腰から二本の短刀を抜いた俺は、右足を軸にして回りながら球体を薙いでいった。こうすることで、刀に雷の属性を付与することが出来るのだ。
(貴様も踏み潰してくれる!)
その声が聞こえた時は既に石像が迫って来ていた。そうだ。そのまま攻撃してこい!
目前で振り上げられた右足が、俺を潰さんと振り下ろされる。
俺は右足が地面に付く、その寸前でそれを躱した。
石像の体重による衝撃で床がめくり上がるのを尻目に、俺は石像の身体を一気に頭まで駆け上がった。
「喰らえ!」
全身の力を込めて頭に二本の刀を突き刺す。
直後、凄まじい轟音と同時に電流が石像を覆った。
一瞬太陽が間近にあるかのように輝いた後、石像の身体はゆっくりとうつ伏せに倒れた。
「カッペー! こっちも終わったぞ!」
見るとボニーが戦っていた方の石像は胸のあたりが粉々に砕かれ、見事に二分されていた。相変わらず恐ろしい女である。
(くっ、見事だ。侵入者ども)
また脳内に声が聞こえ始めた。
(それで、石版はどこにあるんだ?)
(私のケツを見るのだ)
……は?
(そこに石版が刺さっている)
どこに隠してくれてんだよ!
(さあ早く見ろ。石版が欲しくないのか)
くっ!
俺は渋々先ほど倒した石像の上に飛び乗り、尻を目指して歩いた。
尻に辿り着いた俺は、果たして尻の割れ目を仕切るように、黒く艶のある石版が刺さっているのを見つけた。
最悪だ。なんて最悪な光景なんだろう。どうして俺は数々の罠をかいくぐり、巨大な石像を倒した上で尻から石版を引っこ抜こうとしているのか。
俺は半ばヤケクソになりながら石版を引っ張った。するとまた脳内に声が響いてくる。
(もっと優しく)
黙れ!!
初めてカッペーがまともに戦った気がする。
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