二十八話 水
俺たちが逃げ込んだ部屋は不自然に天井が高かった。そしてよく見ると、天井には三つの穴が空いている。
「ねえフィアールカさんや」
「なぁに?」
「俺の上から降りてくれない?」
「どうして?」
フィアールカは俺の腹に馬乗りになった状態から動こうとしない。俺としては違和感を感じるこの部屋から早く出たい。それにそんな場所に座られたら色々と元気になってしまいそうだ。
「いやどうしてって、そこに座ってたら俺動けないじゃん」
「あらぁ、足の方に下がった方が良いかしら」
言いながらフィアールカは、お尻を浮かせないまま、ゆっくりと股間の方にズラしてくる。痴女かこいつ!
「よーし、ありがとうフィアールカ! お陰で動けるようになったぞ!」
俺はバネのように上体を起こすと、素早くフィアールカを持ち上げて脇に座らせた。危なかった。もう少しで股間の仕込み刀に気付かれる所だった。
「ねえ、さっき硬いものに当たった気がしたのだけれど」
「ほらアレだよ。この辺に生えてるキノコじゃないかな」
その時、天井の方から何かが降ってくる気配があった。
見上げると、まるで塊のような量の水が落ちてきている。
「伏せろフィアールカ!!」
俺はフィアールカに覆い被さった。直後、すさまじい水圧が俺の背中を襲う。こんなものガキの頃やらされてた滝行に比べたら大したことないぜと言いたい所だが、今度はどんどん部屋に水が溜まり始めた。
「フィアールカ! 俺の背中に掴まれ!」
俺はフィアールカを助け起こし、背中に負ぶった。
天井に空いた三つの穴のうち二つから水が流れ込んできているが、右端のやや小さい穴は水が出ていない。恐らくあそこから出られる。
急速に水は溜まり続け、すぐに俺の身体は浮き始めた。こんな事なら水蜘蛛を持ってきとけば良かった。
「フィアールカ、大丈夫か?」
「ええ。問題無いわ」
フィアールカは俺の耳のすぐ近くで囁いた。それは息遣いの感じられる湿った声だ。当然喜んでいる余裕など無い。
すると今度は俺の耳が生暖かい感覚と痛みで包まれた。あれ? 何だろう。と思って後ろを振り返ろうとすると、フィアールカの顔がすぐ近くにあるではないか。
「今俺の耳噛んだろ!」
「はい」
「はいじゃないわ!」
「嬉しい?」
「うん嬉しい!」
水量はどんどん増していき、とうとう穴の前まで迫った。水の中にいながらも、身体はどこか熱っぽい気がする。特に下半身の方が。
俺は頭を振って雑念を振り払い、素早く穴に手を掛けて水から出た。
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