二十七話 トラップ
二手に分かれてから、通路はずっと下り坂になっていた。
「フィアールカ、ちょっと離れてくれないか?」
そしてフィアールカは相変わらず俺の腕をガッチリ掴んだままだ。
「あらぁ、どうして? こうやってくっついていないと、何かあった時に困るんじゃないかしら?」
むしろくっついている方がナニかありそうなんですが。薄暗い通路を二人きりで進んでいる事もあってか、さっきから非常にムラムラする。これがフィアールカの狙いだったのか。
いや、フィアールカの狙いがそもそも何なのかはハッキリしないが、俺と二人きりになるために「二手に分かれよう」と言ったことは確かだろう。
俺は不意にフィアールカを押し倒してしまった時のことを思い出した。
身体の熱、肌の白さ、膨らみ、濡れた唇、あそこで俺の理性が負けたらどうなっていただろうか。待て、今もう一度フィアールカを押し倒すことも出来るんじゃ……。
フィアールカの方を見ると、そんな俺の心を見透かしているかのように妖艶な笑みを投げてくる。
「フィアールカ! 頼むから一回離してくれ!」
俺は立ち止まり、半ば寝起き覚ましに叫んだ。あと少し遅かったら手遅れだったかもしれない。
「あらぁ、どうして?」
「どうしてって、腕を塞がれてたら、いざという時うまく動けないだろ。頼むから離してくれ」
「ふぅん」
俺の顔をじっくりと眺めた後、ようやく俺の腕を解放した。しかしホッと息をつく俺の手を再びフィアールカが掴んだ。
「手を繋ぐのでしたら問題無いですわね?」
フィアールカはボニーにも負けないくらいの眩しい笑顔で言った。細く暖かな手のひらの感覚が俺の手を伝う。
「うん、全然問題無いよ」
驚いた俺はどうにかその言葉を絞り出した。
「ねえ、こうして手を繋いで歩いていると何だか恋人みたいじゃない?」
フィアールカは俺の汗ばんだ手をぎゅっと握りしめてくる。これには何と返答すれば良いのだろうか。まあアレだ。女の子と手を繋いだくらいで動揺してるなんてバレたら格好悪いから、冷静に振る舞おう。
「そ、そそそ、そうかな?」
俺の声は裏返っていた。
ズシン、と身体に響く音が響く。
俺は身構え、耳を澄ます。
何かが転がるような音が後ろから聞こえてくる。
目を凝らして通路の先を見た瞬間、直感的に危険だと気付いた。
転がりながら近づいてきているのは巨大な石だ。直径は完全に俺の身長を越えている。
「フィアールカ! 逃げるぞ!」
俺はフィアールカの手を引いて走り出した。
恐らくあれは侵入者を排除するために仕掛けられた罠だ。あんなのに追いつかれたら通路の床として舗装されかねない。
巨大な石はどんどん追いついてくる。フィアールカの走る速さが石に負けているのだ。
「サルワタリ……、私……!」
石が目の前まで迫ったところで俺はフィアールカを抱え上げた。最初からこうすれば良かったぜ。
迫る石の気配を直ぐ後ろに感じながら俺は必死に走った。
「ねえサルワタリ、貴方の好きな食べ物ってなぁに?」
「それ今聞く!!?」
「どうしても気になったんだもの。教えて下さらないかしら」
「ええい金平糖だ金平糖!」
「それ、どんな味なの?」
「あまーーーーーーーーい!!!」
何故俺は石に轢き殺される危険を感じながら、好きな食べ物を答えているのだろうか。これはあれか。プレイの一環か。
走り続けていると徐々に石との差が開き始める。
通路の向こうに扉が見え始めた。あそこに逃げ込めば助かる。
その油断が段差の存在に気付くのを遅らせた。
扉の手前で見事につまづいた俺は、身体を反転させ、フィアールカを離さないように仰向けで尻餅をついた。
「痛っ……!」
歯を食いしばって痛みをこらえているのなどお構いなしに、どんどん巨石が迫ってきていた。
「うわわわわわ!」
「ねえ、金平糖ってどこに売っているのかしら?」
「それどころじゃねえええええ!」
俺は両足で交互に地面を蹴って進み、尻餅を付いたまま扉の内側まで這いずった。
直後に巨石がけたたましい音を響かせて部屋に衝突する。
「あ、危なかった……」
力の抜けた俺はその場で大の字になった。
「ねえ、サルワタリの好きな女の子ってどんな子?」
その俺の上にまたがって座るフィアールカは表情一つ変えず、穏やかにほほ笑んでいる。
「うん、ちゃんと危ない時は危ないって分かる子かな」
つづく
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