二十四話 さりげなく
ペガサスが降り立ったのは木を組んだ足場の上だった。しかし何気なく俺馬車から一歩出た瞬間、足がすくみ股間がひゅんひゅんするのを感じた。
そこが地上から遥か上の、巨大な塔の頂上だったからだ。
周りは木々に囲まれていて一切地上が見えない。ここで一つの違和感を覚える。周りの木々の様子がおかしい。
よく見ると、人間の大きさに対して一枚一枚の葉っぱの大きさが大きすぎる。木の枝に至っては、普通の木の幹くらいの太さがありそうだ。
「カッペイきゅん、驚いたか?」
さりげなく俺の尻を触りながらゾリグが隣に来た。
「いや、驚いたも何も森全体がデカ過ぎないか?」
「クロノスの木は特殊なのさ。大きな種だと地上一万メートルまで到達する」
「いっ、一万……!?」
天に達するのではないかと思われる高さだ。最早神秘的を通り越して神が創ったとしか思えない。
「心配するな。この辺の木はせいぜい地上百メートルくらいだ」
いやそれでも十分高いだろうよ。エルフは樹上で生活する種族だとは聞いたことはあったが、まさかこんな高所に住んでいるのだとは思わなかった。
ボニーなら平気だろうけど、もしフィアールカが足を滑らせでもしたら大変だ。目を離さないようにしよう。
「それじゃあ俺はビントゥ村の住民に話を通してくる。カッペイきゅん達はここで待っておいてくれ」
「なんだ、ここの住人と知り合いなのか?」
「前にギルドの連中を運んで来たことがあるからな」
「カッペー……」
遠ざかっていくゾリグを見ていると、後ろから顔を引きつらせたボニーが俺の肩を叩いた。
「どうしたんだ」
「お前、あのペガサスライダーと出来てるのか……?」
「え?」
「カッペイきゅんとか呼んだり! お尻触ったり!」
何やらとんでもない勘違いをされているようだ。
「いやいや違うんだって! ゾリグの国で尻を触るのは挨拶くらいの意味しかないらしいんだ!」
俺は両手を振って弁解を試みた。
ちなみにこの尻の件は、後に他のペガサスライダーから「そんな気味の悪い挨拶はない」と全否定された。
「でもアイツは私たちの尻は一切触ってこないぞ! やっぱりカッペーの尻が狙われているんだ!」
「まあ良いじゃないボニー。サルワタリはきっとそっちの方じゃなくて、そっちの方『も』いける人なのよ」
「違うからな! 俺はそっちの方はNGな人だからな!」
俺が謎の弁明行為に終始していると、あちらからゾリグが帰って来た。
「遺跡まで道案内をしてくれるそうだ」
※※※
塔の足場から梯子を降りて行った俺は息を飲んだ。そこに巨大な木々を繋いだ、一つの村があったからだ。
それぞれの幹を囲むように建物が建てられていて、蜘蛛の巣のように橋が何本も掛けられている。
緑の日差しを受けて神秘的な輝きを放つその村は、この世のものとは思えない異世界的な光景だった。
「橋を渡るぞ」
ゾリグはひょいひょいと揺れる橋を渡って行く。恐る恐る橋に一歩踏み出して下を見ると、遥か下の方に地面が見えた。まるで地面に向かって吸い込まれるような恐ろしさに囚われる。
「高っ! 怖っ!」
あまりのタマヒュン感に俺は橋を引き返した。そしてフィアールカに手を差し出す。
「俺の手を持て。絶対に離すなよ」
俺の手を取ったフィアールカは目を細め、ねっとりとした視線を俺に向ける。
「あらぁ、エスコートして下さるのかしら。嬉しいわ」
「おいズルいぞカッペー! 何で私はエスコートしてくれないんだ!」
お前の身体能力があればまず落ちないし、この高さから落ちても平然としてそうだからだよ。というのは言わないでおく。
「私も手を繋ぐぞ!」
ボニーは空いている俺の手をガッチリ握りしめた。待て。お前がそっちの手を持ったら、俺が手すりを持てないじゃないか!
「何をやってるんだお前ら」
先に橋を進んでいたゾリグが呆れ返ったような顔をしながら戻ってきた。
「おい女ども。お前らがカッペイきゅんの両手を塞いだらカッペイきゅんが手すりを持てないじゃないか」
ゾリグが「カッペイきゅん」と言うたびに、ボニーとフィアールカが俺の方をチラチラと見てくる。
「お前らがカッペイきゅんの両手を塞ぐのなら俺がケツを持とう」
「やめろ」
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