二十二話 契約
次の日の朝、窓から外を見ているとフィアールカを見つけた。アンナを連れ立って庭を歩いている。
俺は窓を開けて飛び降り、フィアールカの元へ走った。
「何か御用かしら?」
人工池の前に佇んでいたフィアールカは背を向けたまま言葉を放った。
「昨日は無神経な事を言って済まなかった」
俺はフィアールカに頭を下げた。朝の庭では小鳥や虫の鳴き声が響いていて、草の匂いが鼻をつく。
「顔をお上げになって。私は何も気にしていませんわ」
顔を上げると、そこには穏やかな表情で笑うフィアールカの顔があった。その隣には般若のような表情のアンナが居たわけだが。
「それで? ただ謝りに来ただけですの? てっきり貴方は街の外に逃げたものだと思っていましたわ」
俺は一度息を吸い、意を決して言った。
「俺は決めた。お前に寿命を分け与える」
フィアールカは一瞬目を見開いたが、すぐにいつもの笑顔に戻った。
「あら、どういう風の吹き回しなのかしら?」
フィアールカは口に手を当てて笑う。
「勘違いするな。俺はただ、お前が死んだ後に後悔したくないと思っただけだ。いつか来る最後の一日まで、悔いなく過ごしたいと思っただけさ」
俺も精一杯笑ってフィアールカに手を差し出した。
「これからよろしくな」
フィアールカは俺の顔をじぃっと見つめていたが、やがて俺の手を握り返した。
「こちらこそよろしくね、サルワタリ」
俺がフィアールカと真の意味での契約を交わした瞬間は、この時だった。
少なくとも俺はそう思っている。
次章へ続く
お読みいただきありがとうございました!




