十四話 総隊長と
総隊長に奢ってもらった山盛りのウィンナーを平らげたあと、ボニーは御機嫌で店を出て行った。その際
「カッペーも早く来いよ! 早くしないとお前の頭を齧りに来るぞ!」
と両手で爪を立てるような構えで言った。
その仕草がちょっと可愛かった。
「さて、本題なんだけどさ」
総隊長は腕を組み、足は大股に開いている。
「僕に何か報告することがあるんじゃないのかい?」
来た……! 俺が最も恐れていた展開だ。いや、恐れてはいたが容易に想像できた展開でもある。ここは正直に呪われたと言おう。
今言えば手の爪だけで済むが、あとで分かったら足の爪も全部剥がされそうだ。
俺はテーブルで額を打つほど深く勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません! 総隊長にご忠告を受けていたにもかかわらず、フィアールカ・グラフから呪いを受けてしまいました!」
「うん、そうだろうね」
「うんそうだろうねえ!?」
俺は総隊長のたんぱくな反応に驚いた。え? どういうことだ? 総隊長は俺がフィアールカから呪いを受けることを分かっていたというのか?
「大丈夫大丈夫、今日明日で死ぬような呪いじゃないから」
総隊長は笑いながら手を振っているが、その言い方だと明後日には死んでもおかしくないみたいで不吉である。
先ほどまでは任務でのミスを責められると恐れていたのだが、それが大丈夫だと分かると今度は急に呪いの方が怖くなってきた。
「あの、私が受けた呪いとはどういったものなのでしょうか……?」
「うーん、僕の口からじゃなくて、それはギルドマスターさんからフィアールカちゃんと一緒に聞いた方が良いね。僕の方から呪いについて教えてあげて欲しいとは伝えておいたからさ」
つまりは酒場で聞けということらしい。
もったいぶられるとまた不安になってくる。何だこれは恋の駆け引きか? ろくに恋愛したこと無いけども。
「ただ一つ言えることは、呪う相手は誰でも良かったわけじゃない。君はフィアールカちゃんに選ばれたのさ。良かったね!」
いや良くねえよ。呪う相手に選ばれるとかどう考えても貧乏くじじゃねえか。
「ちなみに、どうして私が選ばれたんでしょうか?」
「さあ、顔じゃない?」
適当なこと言いやがって……!
俺の表情を見て総隊長はまたケラケラと笑い始めた。
「あれ? 猿渡君もしかして怒ってる?」
「い、いえ。ただ、呪いの内容が気になったもので……」
突然、総隊長の笑い声が止まる。俺は条件反射的に背筋を伸ばした。
「猿渡君、追加任務だ。これからしばらくフィアールカ・グラフの護衛に当たってくれ。彼女の身を狙う組織はたくさんあるのさ」
「は、はい!」
狐塚総隊長は続ける。
「それから……いや、今はやめておこう。ところで猿渡君。女を抱いたことはあるかい?」
俺は危うく鼻水を噴出するところだった。
「な、なんですか急に……?」
俺の挙動不審な反応を見て、総隊長はまた声を上げて笑いながら立ち上がった。
「いや何でもないよ。あんな気持ちいいことをまだしてないなんて、可哀そうだなって思っただけさ」
悪かったな! でも俺だって小説で得た夜伽の知識は大量にあるんだぞ!
男と女が蛸のように関節を外しつつ、絡み合いながら相手の頸動脈を狙う体位があることだって知ってるんだぞ!
しかし俺はこのあとすぐ、総隊長の言葉の真意を知ることとなった。
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