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十二話 リザードテイル

 ボニーの説明によると、リザードテイルのギルドマスターであるテオポルド・ダンナ、は元々名うての商売人であり、広い交友関係を生かして人材派遣をしていた。

 ある時は大型モンスターの襲撃に悩む村の依頼を受け、変わり者だが大型モンスター退治を得意とする大剣士を派遣。その大剣士は見事モンスターの討伐に成功した。

 またある時は食べ過ぎで爆発する一歩手前まで太った貴族の元に、ドSスパルタ白魔道士を派遣。彼女は貴族を見事()せさせた上キッチリM奴隷(どれい)に調教して帰って来たらしい。


 最初、彼は無償で依頼主と作業者の引き合わせをしていたのだが、やがてこれが商売になると思い立つ。

 そうして十年前、廃墟になった島を買い占め、隠居も兼ねて100名程度の友人知人、そしてその家族たちと移住してきたのが派遣型ギルド、リザードテイルの始まりだった。


 当然街づくりもリザードテイルのギルドメンバーたちが中心で行われ、そこからいつの間にか、街の名をリザードテイルと呼ぶようになった。

 また、任務(オファー)で島から出たギルドメンバーたちが依頼先で

「アンタらどこから来たの?」

 と聞かれた際、

「リザードテイルから来た」

 と答えていたため、島外の人たちから「リザードテイル島」と認識されるようになった。これがリザードテイル島にリザードテイルという街があり、その中にリザードテイルというギルドがある理由である。



 この情報を整理してみよう。四方を海に囲まれた中にポツリと存在するリザードテイル島は、細長い形をした島である。そのリザードテイル島の北端にはリザードテイルという街があり、その中にリザードテイルというギルドが存在する。

 リザードテイルを構成するのリザードテイルのメンバーたちであり、リザードテイルはまさにリザードテイルの存在によって成り立つリザードテイルなのだ。


 あゝややこしや。


 リザードテイル島に近づいていた俺は未だかつてないほどの胃痛に見舞われていた。

 本来ならばリザードテイル島に着いた時点で俺の任務は終了。あとはお土産を買って帰るだけだと言いたいところだが、どうもそんな呑気な事は言っていられなくなった。

 理由の一つはフィアールカ・グラフから呪い()()()ものを受けたことだ。これが一生バッタしか食べられなくなる呪いとかだとしたら目も当てられない。いや、胃と腸になんと謝ればいいのか分からない。


 だが俺にとってフィアールカから(こうむ)った呪いなど、今や頭の片隅に追いやられている記憶の一つに過ぎなくなっていた。

 最大の懸案事項はリザードテイル島で狐塚総隊長と会わねばならぬということである。

 フィアールカを誘拐するという任務は一応成功した。

 だが俺はアヴァラス兵に顔を見られ、忠告を受けたにもかかわらずフィアールカの呪いをかわすことも出来なかった。


 総隊長の任務では常に完璧を求められる。こういった小さな失敗をしただけでも左遷、運が悪ければ爪を()がされることもある。あの人は平気でそういうことをする人なのだ。



「おいカッペー見ろ! リザードテイル島が見えたぞ!」



 ソリにもたれかかるように、膝を抱えて座っていた俺をグイグイ引っ張るボニー。

 ごうごうと響く風の音を聞きながら頭をソリから出してみる。

 眼下にはどこまでも青い海が広がっていて、宝石のように輝く水面は陽光を反射して眩しく輝いている。その美しさに、先ほどまで鬱屈とした考えで沈んでいた心が一瞬だけ和らいでいくのを感じた。


「ほら、あそこだ!」


 ボニーの指さす方に目を凝らすと、広大な海の真ん中に豆粒ほどの島があるのが確認できた。


「あれがリザードテイル島か……」


 ふと視線をフィアールカに移すと、海を眺めているわけでもなく、ボニーの指さす方を見るでもなく、じっと俺の方を見つめていた。そのねっとりと妖艶な笑みは社交辞令的なものではなく、獲物を狙う肉食獣のそれに近かった。





 街はずれの開けた場所で天馬を降りた俺たちは、リザードテイルの街を囲う城壁を目指して歩いた。


「リザードテイルは元々廃墟の城塞都市だったんだ」


 横を歩くボニーがそう説明してくれた。

 しかし島一つを買い取り、あまつさえ仲間たちと移住してしまうとは豪快にもほどがある。ギルドマスターとはどれだけの財力と人望を持つ男なのだろうか。


 しばらく歩くと町の入り口にたどり着いた。入り口は城壁にネズミの穴を開けたかのように存在しており、その両脇には見上げるばかりの重厚な円柱型の砦に挟まれていた。


 ふと入り口を通ってこちらに歩いてくる人影に気付く。住人だろうか、と考えた次の瞬間、俺の身体が硬直した。


「やっほー猿渡君! 元気にしてたかい?」


 切れ長の目に朗らかな笑顔。

 手を振りながら出て来たのは、俺にフィアールカの誘拐を指示した狐塚総隊長その人だった。

 俺の背筋が物干し竿のように伸びたのを見て、ボニーが口を開く。


「カッペーのお兄ちゃんか?」


 そんなわけあってたまるか。

 すると今度は口に指を当てながらフィアールカが答える。


「もしかしてサルワタリの彼氏?」

「あなたは俺を何だと思ってるんですか?」

「生き物だと思っているわ」

「人間とは思ってないんですね?」


 俺たちのやり取りを聞いていた総隊長は無言で俺に近づいて来た。目に見えない狐塚総隊長の殺気がバシバシと当たって俺を圧迫する。


「こんにちは、麗しきお嬢さんたち。僕は狐塚。このお猿さんの上司だよ。よろしくね」

「コヅカというのか。良い名前だな! 私はボニーだ、よろしくな!」

「私はフィアールカ・グラフですわ。よろしくお願いします」


 総隊長は自己紹介をする二人に会釈(えしゃく)を返した後、俺の顔に視線を移した。やだ、そんな近距離から見つめられたら破裂しちゃう。(物理的に)


「いやあ、流石猿渡君。もうボニーちゃんともフィアールカちゃんとも仲良くなったみたいだね」


 張り付けたような笑顔の総隊長は俺の肩を叩きながら続ける。


「ギルドマスターのダンナさんから伝言を預かって来たんだ。みんなで『酒場』に来てくれってさ。何か重要な話があるらしいよ?」

「そうだったのか。私たちもちょうどこれから行くつもりだったんだ。コヅカも一緒に行こう!」

「いやいや、僕はこれから猿渡君に話があるんだ。悪いんだけどボニーちゃんはフィアールカちゃんを酒場まで送って行ってあげてくれないかな。後で僕たちも行くから」



 総隊長は再び俺に視線を移す。




「ねえ猿渡君、お腹空いてない?」




 非常に嫌な予感がした。




 つづく


お読みいただきありがとうございました!

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