6、初日 ③
やっと仕事に入りました。
洗濯場には大量の洗い物が置かれていた。
使用人が他の公爵家に比べれば少ないカルヴァス公爵家ではあるが、それでも人数は多い。
勿論、主人と使用人の洗濯物は別にして置かれている。
「さて、まずは大量のシーツから洗いましょー」
モニカは小さい身体が隠れるぐらい大量のシーツを持って四角い箱の前に向かっていた。
この四角い箱が魔道具である。
使い方はブリジットが思っていた以上に簡単だった。
まずは蓋を開けて中に洗濯物も入れる。その後に水と固形洗剤を上から入れる。
そして最後に起動スイッチに軽く魔力を注ぐだけで使う事ができるのだそうだ。
起動スイッチには魔力増幅装置があるため、わずかな魔力でも問題ないらしい。
大体の人が魔力を持っているので、使いこなせるようだ。
「話には聞いていたけれど・・・初めて見たわ」
「ですよねー。この魔道具は旦那様しか持っていないらしいですよー」
モニカが言うには、フランシスには魔術師の友人がおり、彼と共に魔道具制作をしていて、
共同開発された物を屋敷で使用しているそうだ。
屋敷で使用して評判が良かったものは売り出しているらしい。
「立派なお方なのね。」
ブリジットは心からそう思った。
昨日のフランシスの発言さえなければ、純粋に尊敬していただろう。
差し引きしても彼に対する気持ちはまだマイナスだ。
すると後ろからふふふと笑い声が聞こえる。
「ブリジットさん、そんなにこの魔道具が気に入ったの?」
モニカにはブリジットがずっと魔道具を観察していたように見えたらしい。
確かに構造は気になるが・・・と、見ていたところで、あ、と小さな声を上げていた。
「この洗剤って全て溶けないのかしら?」
よく見ると固まっている洗剤の粒がいくつも服に付いてしまっていた。
モニカはブリジットの問いに対して困ったように頭を掻きながら笑っている。
「そこなんですよー。どう改善しようか考えている最中らしいですー」
聞くと、洗剤を溶かすために魔道具の部分で試行錯誤をしているそうだ。
「なら、洗剤を液体にしてしまえばいいのでは?」
思った事が声に出ていたようだ。ブリジットは恥ずかしくて口を抑えていた。
しかし、その言葉を聞いたモニカは目を見開いて満面の笑みでブリジットを見る。
「確かに!それナイスアイディアー!」
後で、ジーンさんに報告しなくちゃ、とはしゃいでいるモニカを他所に仕事に取り組み始めたのだった。
大量の洗濯物も、魔道具のお陰で時間がかからずに終わりそうである。
最後の洗濯物を魔道具に放り込み、魔力を込めたところでジーンが通りかかる。
ジーンは様子を見に来たのだろう。
乾燥が終わって畳まれたシーツや洋服、そして洗濯の様子をじっくりと見ていた。
その観察が終わったのだろう、彼女はブリジットに声をかける。
「ブリジット、その魔道具の使い方はもう大丈夫かしら?」
「はい、簡単な手順でしたので問題ございません。」
「そう、なら問題なさそうね」
ジーンとの話が終わったブリジットは引き続き、残っている洗濯物を片付けていた。
その後ろではモニカがジーンに興奮しながら何かを話している。
モニカの話を聞き終わったジーンは、眉を寄せて何かを考えているようだった。
ちなみにブリジットはジーン達に背を向けていたため、その様子は見えていないが。
考え事が終わったのだろう、ジーンはブリジットに向かって話しかけていた。
「ブリジット、一つ貴女に課題を出します。旦那様は最近よく眠れないとの仰せです。旦那様が少しでも快適に眠れるような案を出して頂戴。期間は一週間程度、可能かしら。」
「はい、承知しました。」
その言葉にモニカは口をあんぐりと開けていた。
ジーンが今日来たばかりの新人にこのような事を任せるのは滅多にないからである。
ブリジットを即戦力にしたいというのは本当だったかー、とモニカは心の中で思っていたのだった。
ちなみにそんな課題を投げかけられたブリジットはと言うと
「メイド長、課題を行う上でいくつかお聞きしてもよろしいでしょうか?」
「ええ」
「旦那様は香りが苦手、等々ございますか?」
この課題に取り組むためにジーンから情報収集をしていたのであった。
初日から有能さアピール(本人無自覚)の回でした。
引き続き、続きます。
予定では明日、18時前後で次話更新予定です。