2、魔道具 ②
夜。使用人達は仕事を終え、自室に戻っている時間帯である。
この時間に動いている使用人といえば、ヨハンとジーンと夜担当の使用人の数人である。その時間にブリジットは執務室に呼び出されていた。
ブリジットや他の使用人はもう手馴れたものである。ブリジットが執務室に、と言えば、何かを察して労いの言葉と笑顔を向けられながら執務室に向かうのだ。
それは彼女の功績と発想が素晴らしい、と他の使用人達も理解しているためである。
他の使用人達からは次に何を閃くのだろうか、と興味津々なのだ。
その興味も相まってか、彼らはブリジットが執務室に行く度に、まるで子供のようにワクワクし始める。
そんな中、今日もブリジットとフランシスの談話が始まるのである。
「以前、アイディアを貰った通信機だが、こちらの評判が良く陛下にも謁見して試して貰っている。陛下からは使い勝手が良さそうだとお褒めの言葉を頂いた。ブリジット、君のおかげだ」
「その様なお言葉を頂けるなんて……ありがとうございます」
彼女の顔は以前の様に眉間にシワが寄ることはなかった。反省したフランシスが素直にお礼や感謝を言葉にする様になったからである。何度も聞いているうちに、ブリジットはその言葉を素直に受け取ることができる様になっていた。
また、彼女の周りの使用人達がやはりフランシスを尊敬しているのである。だからブリジットが持つ彼の評価も最初に比べたら非常に良いものになっていた。
「現在開発中ではあるが、追跡魔道具も使い勝手が良さそうだ、とジョエルと話していたところだ。そこで、お願いがあるのだが。」
いつになく真剣な様子のフランシスに、軽く首を傾げながらも彼女は表情を崩すことなく対応する。
「試作品の追跡魔道具を持ってもらうことはできないか?使用した上で、何か新しいアイディアがあれば教えて欲しいのだが。」
「ええ、私でよろしければ。」
ありがとう、とお礼を言われた後に渡されたのは腕輪であった。1センチ程の幅があり、中心には緑の石が埋められている。
促されるままに腕輪を嵌めると、彼女の腕に合わせて取れない様に大きさが変わったのだ。これはジョエルのアイディアだそう。
この腕輪には特殊な魔力が使われていて、探索魔法を使えば一発で分かる魔力なのだそうだ。この魔力を把握できれば、誰が何処にいるのかをすぐに見つけ出せるのである。
フランシスが説明する横で、彼女が少し考え事をしていた。
「旦那様、探索魔法を使えない方のための道具も作ってはいかがでしょう?全員が探索魔法を使えるとは限りませんし、もし陛下にお渡しになるのであれば、魔力の少ない近衛騎士達にも持って頂くことができると思います。」
ブリジットは目の前にある紙を使って説明し始める。ジョエルも彼自身も膨大な魔力を持つため、そこまで頭が回らなかった様だ。
ほー、と感心した様な声をあげているフランシス。少しでも役に立てればと、普段から色々と考えていることが功を奏したらしい。直ぐにジョエルに話す、と言ってブリジットが記入していた紙を懐にしまっていた。
「次の試作品が出来たらそちらも渡そうと思う。楽しみにしていてくれ。」
はい、と笑顔で答えたブリジット。反対側にはその笑顔につられて笑みをこぼしたフランシスがいたのだった。
まだ恋愛っぽくない気が……いや、気のせいだと信じたい。
明日は私用もあって投稿が難しいかもしれません。
明日投稿できなくても明後日は投稿する予定です。




