3 side ヨハン
1話、2話に出てきた執事ヨハンが語り部となります。
私はヨハン。13歳の頃よりカノヴァス公爵家に仕えている執事であります。
今お仕えしているのはフランシス様であり、普段は旦那様と呼んでおりますので、以降は旦那様、と言わせて頂きます。
旦那様は若干20歳にして公爵家を継がれました。
正直なところ、20歳で爵位を継ぐこと自体が前代未聞のことではありました。
が、先代である旦那様のご両親が、
「フランシスなら大丈夫だろう(でしょう)」
の軽い一言で若干20歳という若さで爵位を引き継ぐことになったのでございます。
ちなみに旦那様のご両親は、現在領地にある屋敷で隠居をしております。
話が逸れましたね、戻します。
旦那様はその類稀なる頭脳と冷静さ等々もあり、フランシス様のお父様の代と同じくらい・・・いや、それ以上に領地を発展させているのでございます。
そんな旦那様は、昼間は城で外交官の仕事を行い、屋敷に帰宅後は執務室で領地の仕事を行っている仕事人間でございます。
なので、屋敷内の人事や事務等について、旦那様は基本ノータッチなのです。
屋敷内については私、ヨハンとメイド長のジーンの二人で仕切っております。そのため屋敷の人材についても、権限はほぼ私たちにありました。人手が足りなければ旦那様に相談し、執事やメイドの求人を出してもらうというような形をとっていたのです。
しかし、今回のブリジットさんだけは違ったのです。
提出締め切りの1ヶ月前程でしょうか・・・私とジーンが旦那様の執務室に呼び出され、そこで旦那様から「メイドを一人雇いたいのだが・・・」と相談されたのです。
旦那様が求人を出すのには何か訳があるのだろうと感じ、学園の侍女科の今年の卒業生についての情報を集めていたところ、該当したのがブリジットさんでした。
ブリジットさんの評価は非常に高く、多くの貴族が彼女をメイドとして欲しがっている点も気になったところです。
もう少し彼女の事を調べると、優秀な成績だけではなく、メイドとしての技術もレベルが高いこともわかりました。また、容姿も整っていて美しいと評判でした。
この時点では私たちも優秀なメイドが欲しいのだろう、と考えておりました。
カノヴァス家は旦那様に代替わりしてから何人か寿退社はしておりますが、あまりメイド募集をかけていなかったものですから、その事を気にして声をかけてくださったのだろう、と考えていたのです。
上記の考えに疑問に感じたのは、先程のブリジットさんの挨拶の時の旦那様の行動でした。
旦那様は以前より新しいメイドの挨拶の時は机に座って挨拶をされるのが常でした。
仕事人間のため、使用人にまで興味をもてない、というのが正しいかもしれませんし、もともと使用人に興味がないのかもしれません。使用人が挨拶しているときは手を止めますが、それ以外は大抵手を動かしておりました。
しかし、ブリジットさんの時だけは違いました。
彼女が挨拶すると旦那様は立ち上がったのです。立ち上がるだけならまだしも、手を止めて彼女の前に歩いて行ったのです。今までには無かった旦那様の行動に、目玉が飛び出るかと思いました。
そして彼女に一言仰ったのですが・・・・その表情に少し苛立ちがにじみ出ていたような気がしたのです。
もし、ブリジットさんが旦那様に粗相をしているのであれば別ですが、事前に調査した際は学園内でも、そして今の挨拶でも何一つブリジットさんには非がありませんでした。
執務室を出た後のブリジットさんの様子を見ると、ブリジットさん自身が何故あのような言葉を掛けられているのか分からないようでした。
可能性の一つとして、彼女が学園に入学する以前に旦那様と会っていて、旦那様のことをブリジットさんが忘れていたのだとすれば・・・旦那様が忘れられた事に苛立ってあのように述べたのかもしれません。
しかし旦那様はブリジットさんの領地に訪れたこともなく、ブリジットさん自身も領地から出たことがない、と事前の調査で分かっております。
それに、旦那様には特徴があります。それが瞳です。
旦那様の瞳はサファイヤのような鮮やかな青い色なのです。この国の貴族で青目を持つ者はいません。だから青目=旦那様と貴族の中では常識ですから、会っていたら分かると思うのですが・・・
いけない、立ったまま考え事をしておりました。
考え事をするときは、微動だにしないらしいので考え事は控えていたのです。
「これは学園以前のブリジットさんについても調べる必要がありますね・・・」
私はブリジットさんを調べることにしたのです。
このことは旦那様には内緒にしておきましょう。
そして私は明日からどう動くかを考えるため、仕事に戻ったのでした。
ブリジットを雇う事になった背景です。
フランシスの思惑はいかに。
それはそうと、両親の爵位譲渡が軽すぎた気が・・・
次の更新は明日、同じく18時予定です。