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27、当日 ⑤

 フランシスはポスフォード侯爵とのやり取りはあったが、その後は順調に事を終えた。



「うふふ、まだ終わらないのかしら。もう限界……」



 そんな中ブリジットの隣には、疲れ切っているジョゼ。

プレッシャーに押しつぶされているのだろうか、目は虚である。

反対に、活気があるのがベルである。始まれば問題ない、というのは本当のようだ。



「もう少しです、頑張りましょう」



 ブリジットが声をかけると、彼女に負けてられないと思ったのだろう。

彼女の目に活気が戻る。するとそこに声がかけられた。



「今から給仕を始めます、配置について下さい。」



 ここからが勝負である。彼女達は丸まっていた背中を伸ばしながら、配置についていった。




 給仕もパーティーもスムーズに進んでいる。

参加者達も和やかな雰囲気でパーティーを楽しむ中、ポスフォード侯爵だけは厳しい目つきで給仕を見ていた。

 ちなみにフランシスは他の公爵家と世間話のような流れで政治論を話していた。

彼らはお互いが違う意見を持ち、主張しあう。

が、相手の良いところは取り入れてより良い論を作り上げるのが得意だ。

フランシスもその中ではいつもの無表情が少し和らぐのだが、表情の変化に気づくものは使用人のみである。

 そんな時に現れたのが、ポスフォード侯爵であった。



「皆様、ごきげんよう」



 と、側から見たら怪しい笑いを浮かべながら公爵家の輪の中に入ってくる。

無礼なのでは、と思うかもしれないが、公爵家は非常に懐が深い。

今も顔が引きつることなくポスフォード侯爵に挨拶をしている。

 

 談話が終わったのだろうか、落ち着いた頃を見計らったように彼はフランシスに近づく。

そしてニコニコと悪い笑みを浮かべて、彼にこう述べたのだ。



「カノヴァス公爵、相談がございます。」


 ふと一瞬真剣になったかと思うと、すぐにニコニコと悪い笑みに戻る。

掴みにくい人間だ、とフランシスは心の中で舌打ちをしていた。



「いえ、そんなに難しいものではありません。御宅の使用人のブリジットさんを、うちで雇えないかと思いまして。」



 来たな、と彼は思った。先程のベルジェ伯爵の件でこうなることは予想がついていた。

多分、ベルジェ伯爵に送った手紙は、婚約として、今回は使用人として欲しいという意味なのだろう。

 彼はブリジットという人間が、欲しいのではないだろうか。



「……なぜ、ブリジットなのでしょう。彼女はまだ公爵家に来て一年も経っておりません。経験を考えれば、彼女以上に適任はいるはずですが。」


 フランシスは少しだけポスフォード侯爵をにらむが、彼は睨まれていることに気づかないのだろう。

今までと同じ笑みを浮かべている。

そしてまるで演劇の舞台に立ったのか、というくらい大げさに話し始める。 



「彼女の素質ですよ。公爵様が販売している魔道具のアイディアの一つは彼女と聞いています。それに、彼女は調合師の資格を持っていて、あの有名なボワッソン先生とお知り合いで談話する仲だとか。」



 今ポスフォード侯爵が言った通り、ブリジットは王都で唯一、調合師と医師の資格を持つアドルフ・ボワッソンという人物と、よく論議をしていたことがあった。

 彼は調合師と医師の資格ーーこれがこの国で最難関のトップ2であるーーを師を持たずに自身の勉学のみで合格をもぎ取ったこともあり、非常に尊敬されている。

 それだけではなく、2つの資格を持つ人が非常に貴重ということで、一代限りではあるが男爵の称号を王家より賜っているのである。そのため彼と仲良くなりたい貴族はたくさんいるのだ。


 フランシスはその言葉を聞いて、ポスフォード侯爵の思惑を理解する。そして念のため手を打つことにする。



「今の所は、彼女を手放すことは考えておりません。」 

「そうでしたか、いきなり無礼を失礼いたしました。」



 フランシスはあっさり引いたポスフォード侯爵に目を丸くする。

そして話は終わったと言わんばかりに、彼はニコニコと笑いながら去って行った。



「まあ、でもそのうち手放すこととなるでしょうが」



 去り際に言ったこの言葉が、フランシスに届くことはなかった。

そして上機嫌で彼は他のテーブルに向かって行った。

ポスフォード侯爵のイメージ、時代劇の悪役役人のイメージです。

そんな彼の暗躍はもう少し先の話……


次は明日投稿予定です!

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