23、当日 ①
やっと当日編です。
「ああ、もうダメだ、緊張して、声も、途切れちゃう」
緊張で上手く声が出せないのはベルだ。彼女は元々緊張しやすいタイプらしい。
そんな彼女が公爵家の代表として給仕をするのだ。失敗しない様に・・・というプレッシャーが強いのは当たり前だろう。
「今までの訓練で、貴女達は私の合格点を貰っています。自信を持って明日は取り組む様に。」
との言葉を昨日ジーンからかけられたが、それも彼女のプレッシャーの一つだったようだ。
まあ、ジョゼ曰く、始まってしまえばベルは緊張も和らいでしっかりするらしい。始まる前に緊張しやすいのが彼女の特徴だということだ。
ちなみにブリジットの心は浮ついていた。勿論、外に出すことはない。
彼女が浮ついている理由は、ここまで大規模のパーティーの給仕が初めてだから、と言うことと昨日のフランシスの言葉だ。
・・・期待して頂いているなら、頑張らなくては。
楽しみ、緊張、不安・・・それぞれが様々な思いを抱えてパーティー直前の最終会議に入るのだった。
「今回は王族の方も来られる。心して臨むように。」
最後に話すのはヨハンらしい。全員の前で、誰が出席されるのか、について話していた。
公爵家の使用人は元々入れ替わりが少ないため、どの貴族が何に拘るのか、うるさいのか、好みと言うものを誰しもが把握できる環境にある。
そのため、今回のパーティーも問題なく進むであろう、と思っていた。ただ一つを除いては。
「一つだけ、忠告を。給仕を担当する者は、不用意に言葉を発しないよう気をつけなさい。」
ブリジットには覚えがあった。以前彼女がシトロエン伯爵の元で研修として働いていた時、ある貴族がブリジットを雇いたい、とシトロエン伯爵に直談判したことがあったのだ。
当時は学園からの研修で預かっている、と話をされたことで直談判したものは諦めたらしい。
だが今回は公爵家所属である。気に入られて引き抜かれる、という可能性もなくはない。
「公爵家所属であっても、引き抜きの直談判はあります。それに関しては公爵様が止めることができるので問題ありません。が、女性好きの貴族が躍起になって引き抜いて来る可能性もありますので、特に女性陣は気をつけなさい。」
この話はベルから聞いていた。実は以前、女好きの貴族が公爵家のメイドを気に入り、直談判したことがあるようだ。
そのメイドは非常に優秀で、公爵家からも断りを入れていた。勿論、本人も公爵家で働きたい、と言っていたらしい。
だが諦めきれなかった貴族は、なんとか彼女に来てもらおうと最終的には誘拐まで考えた。そして誘拐される寸前でその貴族を捕らえたらしい。
その貴族は領地や地位を没収され、今は平民として生きているそうだ。最も、罪状は彼女の誘拐未遂だけではなかった為、重い処罰になったそうだが。
全員心を決める。そして思った。
・・・一番危ないのはブリジットじゃないか?
ブリジットを除く全員がそう感じている中、彼女は何を考えているのか分からないほど無表情だ。
だが彼女が一番下手な事を言わないだろう、と今までの仕事ぶりを見て思うのも事実である。
だから何事もないように、と願うのが一番なのかもしれない。
ヨハンの話が終わると、彼女達は配置につき始める。これから戦場が始まる、そんな緊張感を残して。
当日編ですが、少し長めになりそうです。
キリが良いところで切るので長くなったり短くなったりなります(^_^;)
次回は明日、投稿予定です。