22、パーティー前日 ③
やってしまった....先に23を投稿してました
昨日分の内容に変更はありません。
いきなり飛んで驚いたかと思います......
ヨハンとの話を終え、ブリジットは急いで執務室に向かっていた。
指定された時間には問題なく間に合う時間であるが、念のため早足で向かう。
先ほどのヨハンの話を聞いたからか、彼女の足取りは二度目の訪問時に比べれば幾分と軽くなっていた。
執務室に着いたのは約束の時間の数分前、頃合いであろう。ブリジットは執務室のドアをノックする。
「旦那様、ブリジットが参りました。」
「ああ、入れ。」
ブリジットは返事を聞いた後、一呼吸置いてドアノブに手をかける。
ヨハンの話を聞いていたとしても、この瞬間はどうしても落ち着かない。また、何か言われてしまうのではないかと不安に陥る。
しかし、いつまでもこのままで居る事はできない。ブリジットは深呼吸一つして、入室の意を告げた。
フランシスは入室したブリジットを二度目に来た時と同じ場所に座らせたあと、ブリジットに何も命じる事なくフランシス自身で紅茶を入れ始める。
その様子に驚くブリジットだったが、自身の役目を思い出し、紅茶を入れようと動くが彼から制止される。
彼女は何が起こって居るのか全く分からなかった。
「驚くだろうが、この屋敷では普通のことだ。」
自身の役目を取られて落ち着かないのだろう、そわそわして居るブリジットにフランシスが答える。
彼が言うには、パーティーの前日など特別な時には、主人自らが使用人をもてなし激励する事があるそうだ。
ヨハンやジーンには、以前から止められていたのだが、感謝を言葉で表せないくらい口下手なフランシスが、せめて態度に出したいと続けていることなのだそうだ。
それが今ではヨハンやジーンも止めるのを諦めたらしい。理由は、フランシスの言う通り、以前より士気が上がった事があげられる。
・・・そうよね、主人自らが使用人をもてなすなんて、感激するわ。
だからこの屋敷の使用人達は、公爵家という誇りだけではなく、主人に対する敬意が強いのだろう。
ブリジットは一人で納得していた。
そんなブリジットを目の端に捉えながら、フランシスは紅茶をいれていた。納得し終わったブリジットは、フランシスの様子を興味深く観察し始める。公爵が自分で紅茶を入れる事なんて普通はありえない。
だが、ブリジットから見ても丁寧で美味しそうな紅茶の入れ方であった。彼女が少し驚いたのは言うまでもない。
ブリジットは自身でも気づかないうちに、すごい・・・と声に出して呟いていた。
その声を聞いたフランシスは、少し頰を赤くして明後日の方向を向きながら答える。
「仕事中は部下が入れるんだが、如何にせん、入れ方が悪くてな・・・」
それで練習していたら上手くなってしまったらしい。今や紅茶を入れるのは何故かフランシスの仕事になっているそうだ。まあ、彼も気分転換になる、と了承しているようだ。
フランシスが紅茶を入れ終わると、彼女に飲むよう促す。ブリジットはお礼を伝えて、紅茶を飲むことにした。
カップから美味しそうなダージリンの香りがふんだんに伝わってくる。きちんと蒸らしている証拠だ。
そして飲んだ瞬間、ちょうど良い渋みが口の中に広がる。
「・・・美味しいです。ありがとうございます。」
「そう言ってもらえて良かった。」
顔をあげてお礼を言えば、目の前には微笑んでいるフランシスがいる。
ブリジットは以前と違うフランシスに戸惑っていた。
・・・こんなに優しそうに笑う人だったの・・・?
ブリジットは混乱していた。目の前で微笑んでいる人が前会った人と同一人物だと思えなかった。
そのことに気づいたのだろうか、フランシスは苦笑いをして話し出す。
「・・・まあ、前二回は、その・・・悪かった。」
ブリジットは頭の回転が非常に早いが、今だけは頭が付いていかなかった。
それもそうだろう、主人であるフランシスがお茶を入れただけではなく、ブリジットに謝ったのだから。
「ヨハンに言われたよ。あの様な態度は如何なものか、とね」
だからもうしない、それに俺の素ではないし、とフランシスはブリジットに伝えた。
使用人に謝罪をするほどなのだ、以前のような態度の理由はさておき、これから一つ不安要素が無くなったのは事実である。
少しだけ、心が落ち着いたブリジットは、彼の言う事を信じてみようと思った。
「それにブリジットの能力はあのジーンが、目を見張るものがある、と言っているくらいだから、やめられても困るしな。調合師の資格も取ったと聞いたし、ジーンに変わってもう調合もしてくれているんだろう?来月からは給料を上げる様にヨハンには伝えておいたから。」
有能だ、と認めている様に感じた。いや、実際認めているのだろう。フランシスは真面目な顔で話し続けている。以前の見下した態度は、嘘だったのではないかと言うくらい真剣だ。
「それに明日も頑張ってもらわないとな。期待してるぞ。」
褒められた、あのフランシスに褒められた、とブリジットは硬直していた。
まさかここで褒められるとは思わなかったのだろう、落ち着いたはずの心が少し騒ついていた。
フランシスが話し終わると、ふと真剣な顔から気が抜けた様な顔になっていた。
そんな気の抜けた顔で少しニタリ、と笑いながら最後に
「だが、たまにはあの様な態度も悪くないのかもしれない。ブリジットはからかい甲斐がありそうだ。」
単にブリジットをからかっているだけだ、と言うことは表情からも分かるのだが、真面目なブリジットはその言葉を真に受けてしまった。
無礼講だ、と思いフランシスを睨みつけるも、彼はニヤリと笑いながら、それを楽しんでいる様に見えたのであった。
投稿間違えてごめんなさい(;゜0゜)
今後気をつけます!