19、前世返りとは ②
訓練が終わったあと、ブリジットはジョゼに昨日借りた本を返すことにしていた。
「ジョゼさん、本をありがとうございました。」
優雅に礼をして、本を返す。勿論、お礼のお菓子も添えておいた。
「ブリジット、もう読んだの?早いわね。」
「ええ、今日は休みだったので読んでしまいました。」
「そうだったの、本はどうだった?」
ジョゼは貸した人に感想を聞くことにしている。
そこから話が盛り上がる事が多いし、仲良くなる事が多いからである。
あとは恋愛が疎そうなブリジットがどの様な返事をくれるのか、気になったからだ。
そんな彼女の問いに、ブリジットは少し首を傾げて返事をする。
「そうですね、一番は前世返りの部分が気になりました。」
「ん、どんなところ?」
「前世返りっておとぎ話の話ではないのかな、と思いまして・・・」
実際、学生時代もその前も余り交流のなかったブリジットにとって、
前世返りと言う言葉はおとぎ話の一部だとしか思えないのだ。
ブリジットの言葉を聞いたジョゼは、にやり、と笑い話始めた。
まるで彼女がその様な疑問を持つのは当たり前だ、と言う様に。
「よくぞ聞いててくれた!前世返りは実話らしいわよ。」
とここで話を聞きつけたのだろうか、ベルがジョゼの横から顔を出してくる。
以前よりも初日の基礎が理解できたらしく、ベルもやっと訓練についていける様になったようで、以前よりは疲れてはいない様だ。
「前世返りの話?あ、その小説って実話らしいよね」
「そうそう、隣国の伯爵家のお話・・・だったはず?」
ジョゼから聞いたところによると、伯爵家のご令嬢と侯爵家のご子息の話らしい。今は亡くなって数年経つそうだ。
小説にもその二人は仲睦まじく、幸せに暮らしたとあったが、それは実話なのだ。
元々この小説自体、この夫婦の話を聞いた吟遊詩人が作ったらしい歌を元に作られているため、
勿論憶測も含まれているらしいが、大まかな内容は合っているとのことだ。
「最近は、この国でも前世返りではないか、という噂が立っている方達がいるという噂もあるのよ」
「すごくロマンチックだわー」
ジョゼとベルが頬を染めて天井を仰ぎ見ている。まるで恋する乙女の様だ。
「ちなみに噂されている方達は、幼少の頃から記憶がお互いあったらしいの。全てを覚えているかは分からないけどね。」
「流石に噂だから・・・どこまで信憑性があるか分からないけどね。」
確かに前世返りは前世の記憶を持っている、これだけなら聞こえはいい。
しかしもしその前世がこの世界でなかったのなら、どうなるのであろう。
亡くなった夫婦は、顔と名前しか覚えていなかったらしい。
小説の中にもその様に書かれていたし、前世返りの話をしても問題はないのかもしれない。
けれども、小説の中には宮殿で知らぬうちに探知機を使われ、前世返りのことについて嘘をついていないか調べられたとの記載もある。
第三者の、特に女性から見たら憧れる存在であろうが、ブリジットはその様に思う事ができなかった。
ーーーもし、前世返りした際に、前世の知識や技能が手に入ってしまったら。
ーーーもし、前世返りした先の相手が、その知識を利用して王族に反抗する様になったら。
最悪の事態はいくつも考えられる。
時には運命の相手が自身の生存を脅かすことになる可能性だって否定はできないのだ。
だが、目の前の彼女達が憧れるのもわかる。
だからこそブリジットは彼女達に前世返りが、怖いものだ、とも言わない。
ブリジットも彼女達の憧れを壊すほど無粋ではない。だから言う必要もない。
ブリジットは自身が前世返りではないことに感謝しながら、目の前で頬を染めている彼女達の話を聞き続けるのであった。
物事を冷静に考えすぎじゃないですか、ブリジットさん(´・_・`)
あなたの将来が心配です……(汗)
次回の投稿は、明日時間は18時以降を予定しています。