15、父の評価
パーティーに向けて初日。
その日の夜のこと。
パーティの給仕を任されたメンバーはジーンの前に集まっていた。
「1ヶ月後、このメンバーで屋敷で開かれるパーティー給仕を行います。その際に給仕の仕方、歩き方等々、覚えなくてはならない事が沢山ありますので、この5名については、終業後に訓練を行います。」
その言葉を聞いたそれぞれの反応は全く違うものであった。
ヴェラはいつも通りの表情をしていたし、ブリジットも表情を変えることはなかった。
まあ、当たり前だろうとも思っているのだろうか。
その代わりエリーヌとジョゼは真っ青な顔をし、ベルに至っては既に泣きそうな顔なのである。
ベルは給仕を担当するのは2回目らしいが、1回目でのジーンの厳しさにトラウマがあるようだ。
その話を聞いていたエリーヌとジョゼなので、怖がるのも無理はないのかもしれない。
「訓練には明日から入りますから、今日はゆっくり休みなさい。そして先にこれを渡しておきます。」
ジーンから手渡されたものは、本であった。
しかし、ただの本ではない。厚さが5センチほどはあるだろう、と思われる分厚い本である。
「これはパーティーに来る貴族の一覧になります。そこにある内容、特に顔と名前と領地は最低覚えるように。」
どこからかひいっ、と 声がする。それもそうだ。
このリストには全ての貴族が載っているわけではないが、人数は100人以上になる。
本には顔写真と名前、領地やその家名の歴史、そして特産物等、必要情報が載せられている。
このリストはカノヴァス家が情報を集めて作成したものであり、外部に持ち出し禁止となっている。
「あと1ヶ月で覚えるように。ベルとヴェラは何度か給仕に出ているから、心配はしていません。残りの3人は心してかかりなさい。」
「はい」
「は、はいいい」
「は・・はい」
上からブリジット、エリーヌ、ジョゼである。
この日はこの本を支給されて解散となるのであった。
自室に帰宅後、ジーンから貰った本をパラパラとめくり始めた。
よく見てみると、学園で覚えたこと以外も書かれていて面白そうに、彼女は感じていた。
学園でも、どこに勤めても良いようにある程度貴族の名前は覚えさせられるのだ。
1年目からあるため、ブリジット自身も覚えてはいたのだが・・・
・・・流石にここまでの情報は分からないわね。
特にブリジットが気になったのは、その人の性格や癖なども書かれていることだ。
例えば女好きであったり、嘘をつくと髪を触るなど。
・・・どうやったらここまで調べられるのかしら。
と興味深くその欄を見ていたのだが、ふと、ある伯爵の説明で手を止めた。
「あら、お父様だわ。」
そう、そこにはブリジットの父親の説明が書かれていた。
性格はーー親バカで娘を溺愛している。伯爵では珍しく、気さくで話しやすい。
と評価されていた。
「まあ、お父様はその評価にしかならないわよねえ。」
ブリジットの父、セザールは穏やかで裏表のない人であった。
堅実に領地を治めることを良しとし、少しずつ領地を発展させながら王に仕える。
祖父の代からそのような考えを受け継いでいるのだ。
母、カトリーヌも父のその姿勢を前提としながらも、
領地が発展するために尽力を尽くしている。
領地が発展しているのは母のおかげ、と言っても過言はないだろう。
隣には母の説明も書かれているが、父と同じような評価だったのである。
「今年はお父様たちはこのパーティーにいらっしゃるのかしら。」
ブリジットの父が治めるベルジェ領は、ラドフォード公爵の管理の元、領地経営をしている。
ラドフォード公爵とカノヴァス公爵は非常に仲が良いらしく、代替わりした後もその仲の良さは変わらないらしい。
そう言えば、毎年父親が慌てるのは、ラドフォード家とカノヴァス家のパーティーの時であった。
公爵様に笑われないようにーーーと一生懸命服を選んでいたことを思い出す。
「私も一度くらい行っておけば良かったかしら?」
ブリジットは13歳から学園に通っていたため、パーティーに客として参加することが無かった。
小さい頃は、パーティーより本を読む!と言って父と母を困らせていたくらいだ。
結局、無理強いされることが無かったので、行かなかったのだが。
給仕としてなら、学園の実習先で何度か行なっていたが、公爵家である。規模が段違いであろう。
「何事も経験だったわね。惜しいことしたわ。」
そう呟いた後、彼女は手に持っていた本を閉じ、休むことにしたのだった。
ブリジットの父は後ほど登場予定です。
そろそろ恋愛要素を出したいですが、もう少し先になりそうです。
予定では、明日16話を投稿します。時間は未定です。