13、決定
フランシスの企み編
そして夜ーー
静まった屋敷の廊下をヨハンに先導され歩いている。
実は挨拶以降ブリジットが持つフランシスの印象は、少し改善していた。
理由は、使用人に対するフランシスの態度である。
フランシスはたまに使用人を労うことがあるらしいのだが、
使用人たちにとっては非常に名誉のあることらしく、
今日のブリジットとフランシスの面会も使用人達にとっては羨ましいものなのだ。
実際、ヨハンも以前言っていた様に、あの態度を取るのはブリジットだけだ。
原因はブリジットにあるが、何故かが分からない。
最終的にはこの思考に行き着くので彼女は考えるのをやめたのだ。
いつか分かるだろう、そう期待して。
「旦那様、ブリジットさんをお連れしました。」
「ああ・・・入れ」
前と全く変わらないやり取りをし、ヨハンとブリジットは執務室に入る。
目の前には大きな机と、本と書類があるが・・・その間にフランシスは居なかったのだ。
「ああ、こっちだ。」
声のする方を見ると、テーブルとソファーが置いてあった。
ソファーは2〜3人くらい余裕で座ることができそうなくらい大きい、
勿論テーブルも同じくらいの大きさを有していた。
テーブルにはティーセットが置かれ、御茶請け用だろうか、お菓子もいくつか置かれていた。
ヨハンは真っ直ぐとフランシスがいるテーブルへ向かう。
ブリジットは念の為、指示されるまで動かない様に決めた。
「ふっ、優秀だな。お前は。」
評価をしてくれることは嬉しいが、如何にせん、鼻で笑われるのが癪に触る。
ブリジットは苛立ちを隠す様に、顔に微笑みを貼り付けていくのだった。
ヨハンがティーポットでお茶を注ぐ。
そのヨハンにフランシスは2個入れるように指示をする。
そして一つ目に注いだティーカップを自身の目の前の空いているテーブルに置きーー
「ブリジット、お前はここに座れ。」
と目の前に座るように促す。
ブリジットはその言葉に少し目を見開いた上で、チラッとヨハンに目配せをする。
ヨハンは少し頭を縦に振ったーー座っていい、ということだろう。
「では、失礼致します」
執務室内であろうと、この様に使用人が座ることなどありえないことなのだ。
だが、逆に考えると、それだけフランシスにとって意味あることをブリジットはしたという事だ。
「まずは礼を言う。お前のお陰で、あの魔道具が売り出される事になった。」
あの魔道具ーーつまり洗濯に使う魔道具のことだろう。
以前から洗剤が固まることさえ解決すれば、売りに出すことを決めていたらしい。
あの魔道具は使い勝手が良いため貴族内で目に止まる可能性も高いのだ。
実際売りに出すと公言したところ、すでに予約待ち状態らしい。
「まさかお前の様な新人の助言で完成するとは思わなかったけどな。」
一言余計だっての、とブリジットは苛立っていた。
フランシスは別に悪人と言うわけでは無いことも分かっているが・・・どうも言い方に棘がある。
褒めるなら素直に褒めてくれないかしら、と額に少しだけ皺を寄せながら彼女は微笑む。
「それに寝室の資料も見事だった。・・・お前が本当にあれを作ったかはおいておくが」
ニヤリ、と笑いかけたフランシス。その挑発的な発言と表情で更に彼女は苛立ちを募らせた。
そんなブリジットを無視し、フランシスは話し続けた。
「だからお前には、次の社交界で給仕として働くよう、ジーンに言うつもりだ。」
一瞬場の空気が止まったような気がしたのは気のせいではないのだろう。
フランシスの横に控えているヨハンが今までにないくらい驚いていた。
「ほ、本当でございますか・・?旦那様」
「ああ。ブリジット、1ヶ月後にこの屋敷で開かれるパーティーに給仕として参加しろ、これは命令だ。」
フランシスはいつもの様に鼻で笑っている。ブリジットが出来ない、とでも思っているのだろうか。
ブリジットは考えていた。これはフランシス直々の指示である。
つまり彼を見返すためには、受けない手は無いだろう。
「喜んで参加させて頂きますわ。」
彼女は立ち上がり、フランシスに優雅な礼をして見せたのであった。
フランシス、もう少しデレればいいのに・・・(・ω・)
彼のデレはいつ来るのだろうか。いや、こない気がする。
次話は明日、時間は未定ですが投稿します。