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1、口の悪い公爵登場

 新作始めました。

公爵とメイドの恋愛小説。主人公のメイドは超人、有能予定です。

「旦那様、ブリジットさんをお連れしました」



 静かな廊下に響いた執事ヨハンの声でブリジットは意識を取り戻した。

そして未だおさまる事を知らない気持ちを抑えるために、ふっと一息つき、彼女は気合いを入れ直す。



(やっとスタート地点に立てたのね。)



 この時の彼女は知らなかった。

これから彼女の身に起こる事が、人生を変えることになることにーーー




**


 主人公であるブリジット・ベルジェはべルジェ伯爵家の三女として生まれ、13歳で王都にあるアールスガルズ学園の侍女科に入学をする。

 伯爵家以上の娘の入学はこの国では非常に珍しい。


 最初は陰で囁かれていた彼女であったが、持ち前の負けん気と根性で入学試験から常に学年首席として君臨していた。いつの間にか周りからは、〝ブリジット姉さん〟と呼ばれるまでになり、学年内を牛耳るまでになった。まあ、実際は牛耳ってはおらず勝手に周りが(はや)し立てていただけだったが。



 そんなアールスガルズ学園の侍女科は、ブリジットを含め皆一様に目標を持っている。

 その目標が〝公爵家で働くこと〟だ。


 学園を卒業した生徒たちにとっては、王宮か公爵家で働くことが最高の名誉とされている。実際公爵家で働いていた、と経歴にあるだけで、侍女としての技能は高いものとみなされ、転職にも有利なのである。

 最も、公爵家レベルになると給金も高い為、転職で辞めるものは少ない。辞めるとしたら大体が寿退社のような、どうしても続けられない理由がある者のみが辞めるため、非常に求人も少ないのである。


 ブリジットの首席としての名声は学内だけではなく、学外でも評判であった。その理由が、実地研修である。侍女科と提携している貴族宅での研修でも、彼女の評価は歴代の中でも非常に高い上に、彼女が研修した場所は一番厳しい評価を付けると有名だったので、尚更である。


 そんな彼女の卒業が近づくにつれ、彼女を欲しいと名乗り出た貴族は上位貴族から下位貴族まで多岐に渡った。その中でも一番爵位が上位だったのが、これから会うフランシス・カノヴァス公爵であったのだ。


 ブリジットの心の中は、目標としていた公爵家で働けるだけあって薔薇色であった。今までの頑張りが報われたのだとも感じていたし、彼女がここに一人であれば今にも踊り出してしまうのではないか、というくらい浮かれていた。


 そんな彼女に声を掛ける者がいた。それが、目の前を歩いている執事ヨハンである。


「ブリジットさんの事は、校長殿より成績優秀で実習も素晴らしかった、とお聞きしております。私共も、貴方が来てくださることに大変感謝しております。」

「いえ、そんな……未熟者ですが、よろしくお願い致します。」



 ヨハンは少しだけ後ろを振り返り、優しそうな笑顔でブリジットに話しかける。そのやりとりによって、ブリジットの高揚していた心は大分落ち着いたが、その隙間を埋めるように緊張が走った。

 彼女の耳には、いつの間にか二人分の足音が鮮明に聞こえていた。実際は紺色の地に金の刺繍が入っている絨毯が敷かれているため相当静かなのだが。



 そして冒頭部に戻る。




**


 ブリジットは扉の前で立っていた。



「ああ、入れ」



 ヨハンがドアノブに手をかけると、音もなくすんなりと開く。

 

 そして一番最初に目に入ってきた物は、大きな机と大量の本と書類である。

 その本と書類の間には、まさに仕事をしていたのだろうーー男性が座っていた。


 男性が目の前の書類から、ブリジットを見る為に顔を上げる。

 その瞬間、ブリジットは少しだけ目を見開いてしまう。


 部屋の灯りで煌めいているシルバーの髪、そしてサファイヤのような綺麗な青い瞳。

そしてきゅっと締まっている薄い唇に無駄のない筋肉が付いた引き締まった身体。

 まるでおとぎ話の王子様の様な姿なのだ。



(今までに見た事もないくらい美しい方ね……。)



 普通の人であれば、その場で見惚れてしまうくらいの美貌である。

 しかしブリジットには侍女科首席のプライドがある。見開いた目をいつまでもそのままにしているわけにはいかない。

 そう思ったのだろうーー彼女はいつもの様に、微笑みを顔に貼り付ける。そして相手の失礼にならない程度に、目の前の男性を観察することにしたようだ。



「私がフランシス・カノヴァスだ。」



 フランシスはゆっくりと立ち上がり、手を軽く上げて話し始める。たったそれだけの所作ではあるが、その美しさにブリジットは息を飲んだ。



(この方が若公爵様。何気ない所作も無駄な動きがなく素晴らしいわ。)



 フランシスは貴族内で〝若公爵〟や〝氷の公爵〟と呼ばれている。

 前者はもちろん、若くして爵位を継いだからである。後者は感情を表に出さない、冷静な公爵という意味が込められている。

 ブリジットは氷の公爵という名を付けられている事に納得していた。それと同時に、何故か懐かしいと感じていたのだ。



 彼女はこんな気持ちを抱いたことに少し疑問を感じた。

何故なら、ブリジットとフランシスは一度も会った事がないはずーーなのであった。

 そんな彼女の疑問を知ってかしらずか、フランシスは彼女に向かって歩き始める。


 それを見て目を丸くした人がいるーーーそう、ヨハンだ。

 新人を紹介する際は、座って挨拶をする。これがフランシスの今までの姿だった。

しかし今は、仕事の手を止めてまでブリジットの前まで歩いている。ヨハンは珍獣を見る様な目をしていた。


 そんな事を知らないブリジットは、立ち止まったフランシスに向けて礼をとる。



「明日からお世話になります、ブリジット・ベルジェでございます。」



 ブリジットは礼を解き、顔を上げた。

 するとほんの一瞬ではあるが、公爵の目が見開かれた様にみえた。



(何かあったのかしら?)



 ブリジットは不思議に思っていたが、一瞬だった為気のせいだろうと思考を放置する。


 その間にフランシスは驚きで止まっているヨハンを目の片隅に置きながら、彼女を見やる。そして今まで誰にも見せたことのないくらい口角をあげ、鼻で笑いながら彼女に言い放つ。



「まあ、お前に勤まるかどうかは分からんが、ぜいぜい期待しないで待っておくからな。」



 その瞬間、ブリジットは頭にカッと血が登るのを感じたのである。

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