12 サイコ(ー)にハイだなぁ……
「ふたりともお疲れさま。はいこれ」
瞬間移動で魔王城の冷蔵庫からジュースを取り出す。思いのほか綺麗に飾り付けられたので、今の俺は気分がいい。
「しかし⋯⋯無駄に便利な能力だよな」
「無駄とか言うなよ。普通に便利だろ? 学校に着いて忘れ物した時に持ってこれるんだぞ?」
「⋯⋯はぁ、翔太はどこまで行っても庶民だな」
「悪かったな庶民で!」
皮肉かよ!
シルフがポツリと言ってきたのを、言い返したのが悪かったか。
「この後はどうする予定なの?」
ジュースを飲み切った後に、コレットが尋ねてきた。
「朝日が見える頃には夏蓮を呼んで、調理室でケーキを作ってもらう、それをここに持ってきたら完璧だな。⋯⋯とりあえず俺は、それまで一旦寝る」
異世界側で寝てしまったからな。ズボラな性格の自分でも、流石に生活サイクルが乱れていることに危機感を感じ得ない。
時差ボケ(?)が起きる前に寝ておきたい⋯⋯が、
「まあ寝るって言ったけど、この後に備えて体力を温存しておこうと思ってるだけなんだけどな」
恐らく、この世界は俺にまともな休みなんてものをそうそうくれないという事が分かっている。ひとまずは、フローラさんが戻ってくるまでは起きておこうと思う。
今後の計画について練っておきたいし⋯⋯。
「じゃあ私もここに残ろうかな」
「「え?」」
「え?」
コレットの発言に、俺達は少し驚く。
「⋯⋯ダメなの?」
「いや、そういう事じゃなくて⋯⋯その⋯⋯コレットの方は大丈夫なのかなって思っただけで」
「別にいいわよ。もう親に連絡しちゃったし」
許可まで取ってあるのかよ。⋯⋯しかし、可愛い子には旅をさせよとは言うけど、本当にコレットの親はいいのかな?
「ああ、『翔太くんがいるなら安心ね』ってきてたから」
「えぇ⋯⋯?」
⋯⋯何故だ?
おかしい。俺はコレットの親族とろくな交流がないのに、なんでこんなにも信頼されてるんだ?
(祖父が色々と言いふらしてるんだろうな。確かあのじじい、人を見る目だけはあったから)
まさかのじいちゃんかよ。
「ケーキが来たぜ!」
夏蓮と一緒にケーキを部屋に瞬間移動で持ってきて、コレットに見せる。
出来上がったケーキは、高さは10メートルほどあり、横もそこそこの大きさがある円形のウエディングケーキのような物だった。
「おお! すごいわね!」
「シルフ、まだ食べるなよ?」
どデカいケーキを前にして、誰よりも目を輝かせていたシルフを俺は手で制す。
「か、勝手に食いしん坊キャラにするな!」
「えっ?! 違うのか!?」
「違うぞ!!」
夏蓮とコレットからも「え!?」という声が漏れた。
「レン、わざわざ俺の発注通りに作ってくれてありがとう⋯⋯それにしても、よくこんなの作れたよな」
「まあね。結構疲れたし⋯⋯作った甲斐があるといいな」
「そうだな」
その時、魔王からメッセージが来た。
『そろそろ転移魔法でそちらに戻る。あと10分くらいだ』
よしよし、これであとはフローラさんを待つの―――
「ヒッ!?」
「!! ⋯⋯最悪だな」
わずかだが、シルフとコレットがビクリと体を跳ねさせた。2人の顔には先程まであった余裕が見えない。
⋯⋯?
「翔太、下の方を見てみろ」
「お、おう」
底知れぬ不安を感じながらも、俺は魔王からのメッセージをスクロールする。
『悪ぃ、うっかりフローラを刺激しちまった。⋯⋯そっちに行くようにしたから、俺が来るまで凌いどいてくれ』
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯」
その場にいた全員と、顔を見合わせる。
⋯⋯俺はこれまで、これほどまでに、魔王の事を恨んだ日はなかった。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
感想、誤字脱字の指摘はお気軽にどうぞ。
「8月中に旅行ってぽい話を書こう」とか思ってたら、もう8月の終わりじゃないですか!
……ということで、夏が現実で終わろうが、こちらではバカンス編をやる予定です。




