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魔王城へようこそ!  作者: 大和(大)
序章
9/233

3-4 べべべ別に緊張なんてしてないんだからね!



 かポーンと、どこから鳴っているのかよくわからない音が鳴る。


「ふいー」

「どうしよう。俺こっからどうしよう⋯⋯」

「? 翔太、どうしたんだ?」

「わぁー、こっち向くな! ちゃんと向こう向いてろ! 髪洗えないだろ!」


 ここは魔王城の大浴場⋯⋯既に掃除が済んでおりいくつかある浴槽のうち、比較的に小さいものに湯が張ってある。


 ⋯⋯だが安心してほしい。俺は腰にタオルを巻いている。もう自宅で風呂に入ったしな。

 ただ⋯⋯


「唯一の問題は俺のメンタルがもつかどうか⋯⋯⋯⋯はぁ、誰得なんだこれ」

「そうか? 私としてはやっと可愛げが出てきたなって感じなんだが」

「俺なんかに可愛げがあったって仕方ない気がするんだが⋯⋯」


 俺はそう言いながら「丁寧に優しく」を心がけて髪を洗い終える。


「⋯⋯髪の毛洗い終わってしまった」


 ⋯⋯⋯⋯さて、ここからが問題だな。




「シルフを風呂に入れてやってほしいの」


 と、言われて、俺は激しく動揺(どうよう)した。⋯⋯するしかなかった。


「な、ななななんで俺なんですか!? 他を当たったほうがいいに決まってますよ! なあ! シルフもそう思うよな!」


 どうしようもなかったので当人であるシルフに救いを求めたところ、



「え~、四人の中なら翔太がいい」



「はぃ??」


 逆に逃げ場を失う羽目になった。


「だって他の男2人は私への尊敬の念が足りないし、フローラにいたっては逆にベタベタしてきそうで気持ち悪い」

「あらあら、そんなことないわよ~? ちょっと身体の隅々(すみずみ)まで丁寧に洗うだけだもの」


 な、なるほど。


「確かに、俺じゃないといけないかも⋯⋯」


 このフローラさんの反応を見て(わず)かだが心が揺らぐ。


「それに、私に何かしてきてもねじ伏せられるからな」


 と言って俺にジト目を向けてくるシルフ。


「な、なにもしねえよ! それに、一緒に風呂に行けばいいだけだろ!」

「そんなわけないでしょ? ちゃんと洗ってあげなさい」


 わーお。


「あ、さーせん俺ちょっと用事が⋯⋯」

「ちなみに、時空龍によると裸の付き合いをした暁には翔太にそれ相応の幸運が訪れるらしいわよ」

「喜んで行かせてもらいます」


 ⋯⋯即答だった。この1週間で彼女へ寄せている信頼は魔王軍の3人よりも高いつもりだ。仕方ない、迅速(じんそく)に済ませよう。




「それに俺はロリコンじゃないからな。そう⋯⋯ぶっちゃけ言って興奮はしていないさ、恥ずかしいだけで」

「じゃあなんで体は洗ってくれなかったんだ?」


 湯船に浸かりながらシルフが問うてくる。

 くっ⋯⋯難しいことを聞きおって。


「じ、自分で洗えるだろ? 流石に。(それに⋯⋯描写的な問題もあってな)」


 まじで怖いから。


「それにしても、まさかこれから毎日風呂に入る羽目になるとはな~」

「100年前の全盛期は違ったのか?」

「まあ身に降りかかるほこりとかは触れる前に自動で弾いてたからな~。眷属にしつこく言われてたまに水浴びだけはしていたが」


 なるほどな~。


 ⋯⋯と、ここで話のネタが尽きてしまった。

 成り行きでなんとかここまでこれたけど、冷静さを取り戻しちまうといろいろとアウトな気がする。これはまずい。

 なにか話のネタはないものか。


「⋯⋯」

「? どうした翔太?」


 ふんふんふーん♪ と上機嫌なシルフの顔を改めて直視する(正直メガネ外してるからよく見えないけど)。

 仕方がない、触れたくはなかったけど、あの話題でもしようか⋯⋯。


「あのさシルフ⋯⋯」

「ストップだ」

「え、ええ?」


 突然表情を引き締めて何を?



「お前ら3人、初めからそこにいるのは分かってるぞ」


 と言ってシルフが見た方向に顔を向けると。


「ちぇっ⋯⋯バレてたかー」

「え、ええ!?」


 魔王、フローラさん、ギムギスさんの3人がさっきまで何もなかったところから姿を現した。


「服着たままよく入ってきたな⋯⋯」


 俺は思わず率直(そっちょく)な感想を口に出して言ってしまった。


「それで、なんでこんなまねを?」


 シルフがめんどくさそうな表情と声色で3人に問う。


「いやあ、2人の()()めを記録しておこうと思いまして」

「ほら、さっきまでそこそこいい雰囲気(ふんいき)だったじゃない?」


 馴れ初めて⋯⋯。


「あんたら暇人かよ」

「⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯」

「⋯⋯⋯⋯⋯⋯」


 だ、誰も反論しないだと⋯⋯!?


 シルフはふいっと3人から顔を背けて俺の方を見る。


(めんどくさいからずらかるぞ、翔太)

(お、おう⋯⋯)


 俺はシルフの希望に従ってこの場を退出することにした。


 ⋯⋯ふと、いまだショックを受けているのか遠い目をしている魔王が、通り過ぎざまに小声で俺だけに伝わるように言った。


「翔太⋯⋯なんとかして心を開かせろよ。そこまでがお前の初任務だぞ」


 真面目な声だった。あんまりにも真面目な声だったから、一瞬冷や汗をかいてしまったではないか。


 まあ、次の瞬間には「あ! ズボンの(すそ)()れてる! ⋯⋯て、マントの存在忘れてた」と言って俺達より先に浴場を出ていったんだが。



ここまでお読みいただきありがとうございます!

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