5 エンカウント・ドラゴン
⋯⋯開店30分前。
「すごい列だね」
夏蓮が感嘆の声をあげている。
開店まで時間があったので、適度に間隔を空けながら見張っていたのだが、ゾロゾロと人が1列に並んでいる。
「ああ、人気みたいだな」
魔王もやれば出来るということなのだろうか。
「とはいえ、これだけの人気だ。中に入るには相当苦労しそうだが⋯⋯なんで、私達は列に並んでないんだ!?」
「いや、だって俺⋯⋯こういう店に入ったことないし。魔王が外に出てきたの時にでも事情を訊きにいこうかなーなんて思ってて⋯⋯」
「この小心者が!」
シルフに叱責をもらう。
「ぐっ⋯⋯。流石に幼女に罵られても嬉しくねえな」
「⋯⋯別に、喜ぶものでもないと思うけどね」
まあ、そうなんだけども。
雑談も程々にして、俺はこの状況でも出来ることをしておく。
「⋯⋯この店って、大元の企業があるんだよな」
「? そうなのか?」
「おう。従業員の半数以上が竜らしい」
「ほう。龍か⋯⋯珍しいな」
この世界には、3つの種族がある。
繁栄の象徴である人。
恩恵の象徴である精霊。
そして、恐怖の象徴である龍だ。
とは言っても、こう言われていたのはずっとずっと昔の話で、今はあまり関係がない。
「とりあえず、今抑えておくべき情報は、竜は人のような姿に変化出来ること⋯⋯だな」
「へー。じゃあ人と竜には変化してても違いがあるの?」
「おう。尻尾と角はどんなやつでも残るらしい」
俺は、誰かに知識をひけらかすという貴重な場面に浸る。⋯⋯だが、今更ながらに気づいた。
(あれ⋯⋯? じゃあなんでチトセは完璧に人になれるんだ⋯⋯?)
(⋯⋯さあな。私は深く関わってないから知らないが⋯⋯今から来るあいつなら、よく知っているだろうな)
(あいつ?)
そこで辺りが急に騒がしくなったため、俺は顔を上げる。
「おい、聞いたか!? 今からあのお方が来るらしいぞ!?」
「何!? あの人が!?」
「みんな逃げろー!!!!」
店に列を作っていた人々が一目散に逃げ出す。手を取り合って、とにかく速く。店の前から去っていく。
「なになに!? どういうこと!?」
「話してる暇はなさそうだな。⋯⋯来るぞ! 爆風に備えろ!!」
シルフが言った直後⋯⋯彼方の空から、何かが落ちてきた。それも、超高速度で。
「う、うおおお!!」
「くっ! これで押し負けるとは⋯⋯!」
「なに!?? ていうか、あの人誰!?」
超高速度で落ちてきたそれによって巻き起こった爆風に、俺とシルフは踏ん張るだけで手一杯だ。唯一、魔法で多少余裕のある夏蓮も、未知の展開で戸惑っているようだ。
⋯⋯⋯⋯やがて、風が吹き止み、この風の発生源が視界に入る。
「⋯⋯え? もしかして⋯⋯⋯⋯」
「そう、龍じゃよ。そしてドラゴニア・カンパニー(仮)の代表取締役じゃ」
俺の疑問に間髪入れずに目の前の彼女が答える。
「ふむ⋯⋯お主があの娘が言っていた鈴木翔太か」
出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる体型。それでも、最も目を引くのは、見るからに硬そうな鱗の付いた尻尾と、角だった。
「初対面の相手をジロジロ見るとは⋯⋯ぶちのめされたいようじゃな?」
「あ、いえ、口調が誰かと似てるなーと思っただけ―――」
そこから先、俺の意識は少し、途切れる。
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