3-3 シルフとの1日③
「そう言えばさ、その緑のワンピースってどこにあったんだ?」
シルフとこの世界によくあるゲームで時間を潰していたところ、早くも夕暮れ時といった感じになっていた。俺はシルフが大分前から着ていた緑のワンピースについて尋ねた。
「ああこれか⋯⋯これは⋯⋯その、フローラから貰ったんだ!」
「へー」
シルフは何故かいくらか考えてから返答した。昼からずっと2人でゲームをしてきたというのに、まだまだ彼女の心を開けるには時間が必要なのかもしれない。
ちなみに、俺の家と魔王城では時差はほとんどないらしい。
そしてここは俺と魔王が初めて会った部屋だ。こじんまりとしたところだが、だだっ広い場所よりはよっぽどいいと思う。
「!」
と、シルフが突然部屋のドアのほうを振り返った。
「なんだ?」
「⋯⋯帰ってきたぞ」
「え⋯⋯夜まで戻らないんじゃあ?」
俺がそう言った瞬間、扉が開き、魔王が答えた。
「事件だよ、事件が起こっちまった」
「えぇ⋯⋯それで中止ってことか?」
俺のその疑問には後ろで控えていたフローラさんとギムギスさんが答えた。
「いいえ、『会場に爆弾を設置した』っていうアナウンスを聞いた瞬間、私達の力で犯人も爆弾も全て撤去したんだけど⋯⋯」
「目立つと困るため即行で帰ってきた、ということです。⋯⋯2時間は待ってたのに」
「は、はあ⋯⋯」
前から思ってたけど、この3人はやっぱり超人過ぎてリアクションに困るな。
「にしても、なんで俺の行く先々では事件がよく起こるんだ⋯⋯」
魔王が軽く諦めたような口調で言う。俺はそれに対してフォローを⋯⋯
「まあ、行く先々で事件が起こるとか、どこぞの主人公みたいで⋯⋯いいのか?」
「なんで俺に聞くんだよ⋯⋯よろしくねえよ」
出来ずに最後は疑問形になってしまった。
「とりあえず翔太さんは1度家に帰ったほうがいいのでは? もう時間が時間ですし」
ギムギスさんに言われて時計を見ると、今は36時⋯⋯向こうの時計では18時をさしているだろう。
「おおっと! そうですね、じゃあまた⋯⋯」
と言って去ろうとしたところ、フローラさんが俺を呼び止め、
「あ、しょーくん、夜には必ず戻って来てね。大事な仕事があるから⋯⋯」
意味深な笑みを浮かべて言った。
俺はそれにあ、はいと答えた後、急いで我が家の自室へと飛んだ。
シルフには現界するのをやめてもらい、家で夕食を食べ早めに風呂に入り、寝巻きに着替えたあと、母親から「最近寝るの早いね」と言われながらも2階の自室に行くフリをしてそのまま魔王城へ。
魔王城にて、
「それで、大事な仕事ってなんですか?」
「ああそれはね⋯⋯」
俺の問いにシルフのやや遅めの夕飯を出しながらフローラさんが答えた。
「⋯⋯シルフをお風呂に入れてあげてほしいの」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯は?」
たぶん、俺の目が一瞬点になっていたと思う。
ここまでお読みいただきありがとうございます!
感想、誤字脱字の指摘はお気軽にどうぞ。