9 もうちょっと色々と食べ物は出したかったなあ
「おー、痛い痛い」
夏蓮に打たれた頬をさすりながら、俺は上体を起こす。
「⋯⋯大丈夫ですか?」
ん? と、頭に疑問符を浮かべて、俺の上に出来た影を見る。
俺に声をかけたのは、指輪を落として困っていた金髪の少女だった。
「⋯⋯⋯⋯よう」
気まずい空気を脱すべく、俺は片手を上げて挨拶をする。
「えっと⋯⋯どうも」
少し考えた後、俺に手を差し伸べる彼女。優しさが身に染みる。
「それで、どうしてあんな状態に?」
「うう! 持病の腹痛が⋯⋯!」
立ち上がりつつも、何も言いたくなかった俺の必死の誤魔化しは、
「まあちゃんと見てたからわかるんですけどね」
全く必要なかったようだ。
「あ〜、柔らかいな〜」
買ったわらび餅を口に放り入れる。冷えていてとてもいいと思います。
「やっぱり大事なのは大きさじゃなくて質だよねー」
1口サイズに分けられていて、とても食べやすい。そして美味しい。
「あ、うん。ソウデスネ」
隣にいる彼女からはわらび餅よりも冷めた目で見られていたが、ここはスルーしていこう。
「そういえば、あんたはなんであの時俺のいる部屋にいたんだっけ?」
立ち去ろうとしていた彼女を俺は「聞きたいことがある」と言って呼び止めたのだ。
「ああ、その事ですか。1つはあなたの部屋に行った者の中に暴走を止める役割の者がいなかったことですね」
「ふむふむ。まあ確かに、外れたネジが1つどころじゃないやつらばかりだったしな」
シルフにもわらび餅をあげながら話を続ける。こういう時は静かなんだよなあ。
「2つ目は?」
「ええと⋯⋯その、母親に行きなさいと言われたから⋯⋯」
「は、はあ⋯⋯」
俺は思わず当惑の吐息をつく。なんじゃそりゃ。
「まあいっか。ところで、名前をまだ聞いてなかったんだけど⋯⋯」
「はい! ヒノデと申します」
お、おう⋯⋯。まるで待ってましたと言わんばかりの勢いだったな。
「⋯⋯もしかして、」
「はい、名前を伝え忘れていたので、あなたを探していたんです」
「なるほど」
そういえば、あの人の名前も聞いてないな。
「ああ、アレですか⋯⋯。それは、自分で聞いてください」
キッパリと言いきられてしまった。それだけ仲が悪いということだろう。
その後は特に話すこともなくなったので、彼女⋯⋯ヒノデとは別れた。
「そういえば翔太、コミュ障とかいう設定はどうしたんだ?」
「設定とか言うな。俺だって、少しは成長したんだよ」
「ふーん、そうか」
俺は、今度はシルフの機嫌を損ねたのか。まあいいや、こいつの機嫌を直す方法はわかってるからな。
「ほいよ、綿菓子」
俺は近くにあった店から綿菓子を買って、シルフに手渡す。
「これで機嫌を直してくれ」
「! ⋯⋯そ、そうか、そこまで言われては仕方がない。受け取ってやろう」
清々しいほどの上から目線で、シルフが綿菓子を受け取る。そう言う彼女の瞳は、真夏の太陽に負けないぐらい輝いていた。
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次回でようやく一区切り着きそうです。月並みなものですが、楽しんでいただけたら幸いです。




