2 あれから1週間経って
「⋯⋯⋯⋯異世界なう」
『うん知ってる』
俺は今、異世界のある港町に来ている。
右耳には通訳機兼通信機を付けていて、ちなみに名前はマオウフォンとかいうらしい。名前安直すぎだろ⋯⋯。
『対象はまだ見つからないのか?』
「ああ、緑髪緑眼の幼女だろ? そもそもまだ騎士団様を見つけてないしな」
俺は右耳から聞こえてくる魔王の声に返答しながら、こうなった経緯を振り返る。
俺が初めて異世界に呼ばれてから丁度1週間後のある日、魔王軍の方から突然収集がかかった。
これまでは俺の夜の安眠を奪うかのように時空龍からの強制転送だった。それに対して、今朝の呼び出しは魔王から、それも俺が魔王から受け取った携帯型端末―――魔王軍には無償で提供されているらしい―――にメールが1件届いただけだった。
以下、メールの文章だ
「時は満ちた⋯⋯今こそ(略)」
要約すると⋯⋯
『今日から本格的に働いてもらうからこちらへは自力で来てね。初任務が待ってるからくれぐれもそちらの人間にはバレないように来てね。
P.S. 無理だったら返信ください。こちらでなんとかします』
ということだ。なんて優しい組織なんだろうか。
⋯⋯⋯⋯ちなみにこの1週間で魔王に信頼できるような仲になったから言えることだが、魔王は親しい相手には中二病全開で接する。面白かったり、正直かっこいいと思う時もあるが、急いでいたり疲れている時はめんどくさいと思ってしまう。
要するに、魔王とは極力余裕を持って接するべきということだ。
そんなこんなで初任務に期待と不安を抱きながら魔王城に飛んだ俺だったんだが⋯⋯。
「にしても、初任務が幼女の誘拐だなんて、魔王軍の印象がさらに悪くなるぞ」
魔王城に着いたら即魔王から、この機械を耳に付けてこの場所に行ってくれと言われ、その通りにした後、いろいろあって今に至るわけだ。
『うるせい、言ってくれるな、俺達だってこんなことはやりたくなかったさ⋯⋯でもまさかあいつがこんなにも早く目覚めて、あんなにもあっけなく捕まるとは思わないだろ?』
「いや知らんし」
緑髪緑眼の幼女とは、名をシルフと言って、この世界の神様らしい。なんでも、魔法の四大属性と呼ばれている火、水、土、風の内の風を司る大精霊様なんだとか。
「100年前の大戦の戦友だったっけ?」
『まあ⋯⋯味方ではあったな』
そんなに協力的ではなかったと⋯⋯。なんか、不安になってくるな。
そろそろ真面目に探そうかと、俺は人通りの多い道を見つけ、そこの人波に入る。
するとすぐに、
『おおっと! 来たぞ翔太! これは強力なロリっ子パワーだ!』
「ロリっ子パワーってなんだよ、冗談でも寒気するからやめてくれ。⋯⋯あ、あいつだな。あのボロ布を纏って、騎士達に追われてるやつ」
『俺が言うことじゃないけど状況酷くね!? 頼む! 翔太の能力でうまい具合に連れ帰ってくれ!』
「ぬわ~!!」
前方の幼女が叫びながらこちらへ向かってくる。
「gf、fcずqcdp!」
「cてcyfvxw、hrぃq!!」
騎士団の人達も異世界語でなにか喋っている。⋯⋯ぶっちゃけ言って何言ってるのか分からないので、頭のおかしい人達にしか見えなくて辛い。
まあいいや、さっさとこの仕事をこなしてしまおう。
「!!」
「―!」
俺は幼女の目の前に瞬間移動し、そのまま抱きかかえ、今度は魔王城へと瞬間移動した。
⋯⋯自分で言っててもわけわからなくなるな、これ。
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