6 とにかく心臓に悪い回だった
「ねえ、前に何かいる?」
「い、いや、今のところは何も」
俺の背後にピッタリとついてきているコレットが、俺の肩に両手を置いたまま尋ねる。⋯⋯あんまりくっつかないでくれ⋯⋯⋯⋯若干胸が当たってるから。
「⋯⋯ほんとに?」
「う、うん、ほんとに。⋯⋯ていうか、そんなに気になるんなら自分で確認してくれ」
「うむむ⋯⋯」
どうやら、「洞窟を出るまで目は開けないから」という宣言通り、コレットは今目を瞑っているらしい。⋯⋯ずっとこのままなの? まともな女性との交流のない俺にとっては極めて心臓に悪い状況なんですけど!
「あ!!」
「きゃ! 何!?」
「⋯⋯いや、影だった」
そう言って、俺の前にいるシルフが肩を小刻みに揺らす。⋯⋯今の絶対わざとだな。あと、俺だって怖いんだからな、ここ。
ちなみに洞窟内は俺の異世界用のスマホで照らしている。
それから少し経って、シルフが突然立ち止まる。⋯⋯そういえば、置くから何か音が聞こえてくるな。
「⋯⋯⋯⋯来るぞ」
ですよね。俺とコレットは思わず身構える。⋯⋯ちょ、痛い痛い! あんまり肩握らないで!
ふと後ろを向くと、コレットはしっかりと両目を開けていた。⋯⋯顔が近かったので緊張してすぐに前を向いてしまったけど。
「3、2、1⋯⋯来た!」
「ひっ!?」
「うわ⋯⋯気持ち悪!!!!」
俺達が遭遇したのは、洞窟の上下左右の壁全てを埋めつくして、こちらに向かってくる、百足の大群だった。
「こちらを襲ってくる危険性は無いが。⋯⋯少量だが毒があるからな。浮遊して進もう」
「ふん」とシルフが手を上げ、振り下ろすと、俺達の身体は地面から15センチほど浮かび上がった。
「おお⋯⋯シルフって凄かったんだな」
「今更か!? ⋯⋯だから言ったんだ、翔太は私に対する尊敬の念が足りないって」
「⋯⋯悪かったよ。謝るから」
「そうかそうか。少しでも悪いと思っているなら、明日から毎日私にプリンでも献上してくれ」
ぐぬぬ⋯⋯状況的に言い返せない。ここでシルフを怒らせたら何されるかわかんねえからな。いや、待てよ。
「なら、フローラさんに、いつもの料理にはにんじんを必ず入れてもらおう」
「なっ!? それとこれとは関係ないだろ!?」
「いやー、辛いわー。尊敬しすぎて意識してなくてもシルフ様の健康にも注目しちゃうのは辛いわー」
「むむむ⋯⋯」
「ああ、あと夜更かしも禁止な。いつまでもロリ体型でいてもらってもなんか困るから」
「⋯⋯⋯⋯無しだ! 今の会話はなかったことにする!!」
ふいーなんとかなったな。毎日自腹でプリンとか、たまったもんじゃねえや。⋯⋯まあ、これからはシルフにはそれなりに菓子を買ってきてやろうとは思うが。
「⋯⋯ふたりとも、なんか楽しそうね」
「いや、別に楽しんではいないけどな」
「ようし! 無事に抜けたぞ!」
シルフがそう言うと同時に、俺達の身体は地面に下ろされた。
「なんか⋯⋯もう、吐き気がしてきたかも」
「ええ!?」
後ろでコレットが呟く。
「我慢してくれ! ゲロインはシルフだけで十分だから!」
「おい! その私はもう吐いた事のあるような言い方やめろ! あと、だれがゲロインだ!」
シルフがこちらを向いて猛抗議してきている。冗談だよ、冗談。おわびに頭を撫でてやるから⋯⋯いでで! 噛まないでくれ!
「ふん⋯⋯無駄話をしているうちに、着いてしまったじゃないか」
「おお⋯⋯」
「わあ⋯⋯」
俺達は、開けた場所に出た。どうやらここが最深部らしい。
この場所の中心には、直径2メートル程の大きさの、馬鹿でかく、そして輝きを放っている岩(⋯⋯いや、鉱石か?)が見えた。
「よし! 翔太、急いで回収だ! 速くしないと、ゴーストっぽいなにかが出てくるぞ!」
「まじか⋯⋯! ゴーストっぽいなにかってなんだよ⋯⋯!」
俺は急かされたせいか、1歩前に出て、そのまま岩の正面に瞬間移動する。⋯⋯だが、その「1歩」はいらなかったらしい。
「あっ」
「⋯⋯げげ!」
俺の肩からコレットの手が、離れてしまっていたようだ。
必然的に、コレットは1人、入口付近に取り残される状況になる。⋯⋯ちょうどその時、
「え⋯⋯え!?」
「うおお!!?」
広間の壁という壁から、浮遊している、青白く光る何かが湧いて出てきた。人の顔や手のようなものが見えるが、肉はなく、骨のだけだった。
「うわ、もはやなんか凄いな!」
「感心している場合か! ⋯⋯ほら、コレットの腰が抜けちゃってるぞ!」
わかってますよ! よっとな。
「ふぇ!?」
「ほいとな⋯⋯ちょっと我慢しててくれ」
俺はへたり込んでしまったコレットを抱えあげる。⋯⋯なんか申し訳ないが、ビジュアル的にも、この後の移動のためにもにもこれがいいだろう。
幸いにも、現れたゴーストっぽいなにかは動きがのろく、俺は難なくコレットを抱えて鉱石の前まで再び瞬間移動することが出来た。⋯⋯いやーヒヤヒヤしたね。
俺は足で岩(鉱石)に触れて、洞窟の外にそのまま飛んだ。
「ふいーミッションコンプリートだなぁ」
回収した鉱石を調印式⋯⋯もとい「勇者着任式」の会場に静かに届けた後、俺は魔王城でほっと一息つく。
「それはいいけど⋯⋯も、もう立てるから、そろそろ下ろしてくれない?」
「ああ、すまん。どうりで腕がむちゃくちゃ重いなと⋯⋯⋯⋯すみません、嘘ですごめんなさい!」
下ろした途端にこちらをジト目で見てきたため、条件反射で謝ってしまった。
「じ、冗談よ! 冗談! ⋯⋯ていうか、今日はごめんね。私、何の役にもたてなくて」
どうやら、コレットの方に誤らせる気はなかったようだ。
「いやいや、そんなことはないさ」
俺にとっては、とても貴重な体験が出来たから!
あと、シルフとふたりだけだと、最初の百足のほうから俺が腰抜かしてただろうし。俺は後ろに誰かいないと、勇気でないからな。
「じ、じゃあ今日は解散ね! 次はちゃんと動くから、無理せずに私を呼びなさいよ!」
「お、おう。頼る頼る。むっちゃ頼りにしてる」
「⋯⋯う、うん」
なんなのやら。勢いだったが、お姫様抱っこをしてしまったんだから、変に意識してしまうものなんだろう。⋯⋯実は俺もそうだし。
その後、俺はコレットを適当な場所に送り届け、ぎこちない動作で一旦の別れを告げた。
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