テストプレイ最終日 -運命の始まりー
テストプレイ最終日。
魔王達と別れ、神様のいる白の世界に俺は再び呼ばれた。
「……さて、試しに一週間だけ過ごしてもらいましたけれど……どうでしたか?」
俺の前に向き直って神様が落ち着いた声音で話を始める。
「どうって……?」
「最初に言いましたよね。あなたにはこれからあらゆる困難が待ち受けているだろうと」
「は、はい」
突然口調と表情を変えて言われるものだから戸惑ってしまう。
「……すみません。具体性に欠けていました。大事なことなので先に説明しておきますね」
そう言って神様は一呼吸おいてから……少しだけ、顔を強張らせたもののすぐに凛とした表情に戻して話を続ける。
「これからあなたの身体は何度も傷つき、破壊されます。その度に辛い思いをするでしょう。危険な場所、状況だからといって私や魔王はあなたがそこへ行くことを止めません。寧ろ、私や魔王の方から厄介ごとを持ち込むでしょう。……私達があなたを呼んだのですから、当然と言われればそうなのですが」
…………。
頷きつつも、無言で神様の話を聞き入る。
「一応、考えもなしにあなたの身体を傷つけようという話ではないのです。……破壊され、再生される度に、あなたの身体は神造のものに変わっていく……方法は未だに確立されていませんが、それでもいくつか候補は考えてあります」
………………
「補足しますと、あなたが異世界でトラブルに巻き込まれ、身体に傷害を負った場合の話をしているだけで、私達が故意に四肢を切断しようだとか内臓を破裂させようだなんて考えているわけではありませんからね?」
……………………。
さっきまでニヤニヤしながら俺にくっついてきていたやつが何言ってんだ、という感想は抜きにして……この問いは大事なものなのだろう。
「……最終確認ってやつか」
俺の呟きに神様は首肯で答える。
「……異世界で過ごしていくうちに、あなたは多くの困難に巻き込まれることが予想されます。それだけ今、この世界は不安定なんです。これまでの生活とは比べ物にならないほどの大変さに、心身ともに疲弊するでしょう。それでも……世界を救ってくれますか?」
世界を救う……ね。そんな話、この七日間で一度も耳にしたことがなかったな。このタイミングでそれを言うことに意味がありそうだ。
しかしここまで真剣に説明された上で、「世界を救えるか?」なんていう問いに「はい頑張ります」だなんてすぐに答えられるほど俺は楽観主義者でもなければ肝の座った英雄でもない。
最終日にして、なかなかどうして時間の要りそうな問いかけがきたものだ。
「俺がもし、無理なので異世界と関わりを持つのはやめときます……って言ったら?」
「私が泣きます」
「ええ……」
「泣きながら……翔太さん、を……元の……世界に……送りがえしまず」
「ちょちょちょっと!? 今のは例え話だから落ち着いて!!」
先ほどの冷静さはどこへやら、すでに目に涙を浮かべて泣く3秒前のような表情の神様をなんとか宥める。
「……失礼しました。見苦しい様子を見せてしまってすみません」
「い、いや……落ち着いたならよかったです」
「では、もう一度問い直しますね。鈴木翔太さん」
涙を拭いて平静を取り戻した神様が俺に向き直り、再度尋ねてくる。
「あなたは、このままでは未来のないこの世界を救ってくれますか?」
そこで、神様は視線を一瞬だけ俺から逸らして逡巡し……そして、
――――――私を、魔王達を救ってくれますか?――――――
「はい、俺でいいならもちろんです」
そう問われれば、迷いなんてものはない。
まだ知り合ってから7日しか経っていないが、俺は目の前にいる神様や魔王達のことが好きだ。
世界を救うというよりも自分の身近にいるひとを助けるぐらいの気概でいこう。
その方が俺の性分に合ってる気がする。
「うぅ……」
「?」
神様が下を向いて身体を震わせている。そして、
「よ……良がっだぁ~~~! 断られだらどうしようがど思っだよぉー!!」
砕けた口調に戻して俺の方に飛んできた。
というか、俺の返答に関係なく泣いてるじゃねえか!
「うおぉ!?」
心の中でツッコミを入れながら、咄嗟に全身を使って受け止める。
「……初めから最後みたいに訊いてくださいよ」
威厳が1ミリも感じられない神様を前に、つい気が緩んで余計なことを口にしてしまう。
「だって、嫌われてないか不安だったもん。……それに、あそこまで言って断られたら私立ち直れる自信ないし…………」
まあ、確かに。そう言われると、俺の性格を知ってても躊躇してしまう理由はわからなくもない。
「本当に俺でいいんですね?」
「むしろ翔太君じゃないとヤダ!!」
「おおう……了解」
神様からの不意打ちに、頭がオーバーヒートしそうだった。
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