1-2 テストプレイ
「くそ! こいつ、ちょこまかと……!」
俺こと鈴木翔太は今、魔王(?)のすぐ後ろにいる。光源がテレビのような画面からのものしかないため姿はよく見えないが。
「だあー! もうやめやめ! 二度とやんねえ!」
その肝心の魔王(?)は突然叫んでコントローラーを床に放り投げた。ほほう……こっちにもテレビゲームあるんだな、感動ものだ。
「最近の人間てほんとワンパターンだよな、魔王酷使すんのやめてほしいわー。そもそもなんて言うの? 実在してるんだからこっちもちょっと困るんだよ」
やっぱり彼が魔王のようだ。……ええ、声聞くかぎり若者なんですけど、画面の光に照らされた後ろ姿は中肉中背で、間違っても大男には見えない。
魔王がふと後ろを向いた。
「……!」
一瞬硬直する彼。
「あ、あれ? 明日じゃなかったっけ? ……うわ! 感覚1日ズレてたー。最近部屋に籠もりがちだったからなー、仕方ない仕方ない。あはは」
ぶつぶつと独り言を唱えている黒髪黒眼の彼に俺は問う。
「あなたが魔王さん……ですか?」
「…………人違いです」
顔を片手で隠しながら魔王は答えた。
「じゃああんたは一体誰だよ……」
「…………そ、それは…………えっと……」
戸惑いながらももう片方の手では落としたコントローラーを拾う魔王。……まだゲームやるのね。
「……もう帰らせてもらっていいですか?」
「わかったよ! わかった! 俺が魔王だよ!」
慌てて魔王は俺を止めに立ち上がる。……別に帰る方法は無かったんだが。
「へー、ここにはいろんなゲームが置いてあるんですねー」
「まあなー、一時期は飯と風呂以外でこの部屋から出たことがなかったこともあった」
俺は魔王とマ〇カーのようなゲームをしながら会話をしている。文章だけ見ればすごいが、実際はぱっとしない容姿の2人の男が夜中にゲームをしながら談笑しているだけだ。
「それにしても悪いな、今日は俺以外の2人は外に出てて歓迎会は出来ないんだ」
「え……ってことは、歓迎会してもらえるんですか」
「それはまた明日だな、今日は能力についてこのまま教えるからマスター出来たらすぐに帰ってもらうぞ」
「このままって……」
ゲームしながらなのか。
魔王は「大丈夫大丈夫簡単だから」と言って笑う。……だが目だけはしっかりと開けて画面を見続けている。
……と、遅れながらに気づいたんだが。
「あれ? なんで言葉が通じてるんですか?」
「ふふふ……それはな」
魔王はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりの得意ぶった顔で、
「俺が! 日本語を! 勉強したからさ!」
衝撃の事実を言い放った。
「……まじっすか」
笑みを浮かべたまま頷く魔王。……この人、無駄にすごいな!
と、そこで魔王はゴールイン。順位は当然のごとく1位だった。
俺は……
「あ……」
最善は尽くしたが、10人中10位だった。
「ああー、なんか……どんまい」
異世界に来てそうそう魔王に慰められてしまった。『レースが終了しました』というテロップが画面に出ている。……ちょっと悔しいな。
「それで、結局俺の能力って何なんですか?」
魔王からゲームをしつつこの世界についての基本情報を教えてもらうこと10数分。そろそろ帰って寝ないとまずいと思った俺は本題に入ることにした。
「瞬間移動だ」
「なるほどなるほど、瞬間移動……て、は?」
俺は魔王が一切勿体ぶることなく即答したことに少し驚いたが、それよりも……
「しゅんかんいどう?」
「おう、瞬間移動と書いてテレポートとも読む!」
俺は空いた口がしばらく塞がらなかった。
ば、馬鹿な…………テ、テレポート……だと? この世界の最高神からのものだからどんなチート能力かと思えば……。
「そんな能力じゃあ俺なかなかピンチにならないじゃん!」
お手軽転移手段ができたら閉鎖空間もクローズドサークルもお手上げじゃないか。
「まあまだ翔太が使えるのは自分と自分に触れているモノに対してだけなんだけどな」
「その先があるんですか?」
「ああ、あるけどそういうのはいきなり使わせると頭パンクして死ぬからな。俺がお前らの契約をちょちょいといじって段階的に能力を使えるようにしといたってわけ」
「へー、契約ってすげえ」
「と言っても、お前らの契約は少し特殊なんだぞ?」
「ふむふむ、と言いますと?」
「そもそも、契約っていうのは……まあもう夜も遅いし、続きはまた今度だな」
「あ、はい」
さっき聞いた話だが、こちらの世界では1日は48時間ということになっているらしい。細かいことはもう忘れたが、とりあえず、地球で1秒経つとこちらでは2秒経っていることになるらしい。こちらの世界の人は地球の人よりも、体力や寿命が2倍になっているらしく、その原因は魔法にあるという。
「やり方は簡単で、自分が行きたい場所に自分がいるイメージをすればいいだけだ……と、説明書には書いてある」
「説明書なんてあるのか……まあ、とりあえずやってみます」
「おう、それじゃあまた明日」
「あ、はい、ありがとうございました」
何故かお礼を言ってしまった。まあいいや。
俺は頭を切り替えて、両目をつぶりイメージする。自分が自室にいるイメージを。
…………………………………………。
急にテレビの音が聞こえなくなったので、目を開けると。
「―――っ!」
そこは自分の部屋だった。相変わらず整理整頓がいい加減で床には学校からのプリントが無数に落ちている。
俺は勢いよくベッドに潜り込み、声を押し殺して興奮気味に独り呟く。
「出来た出来た出来た! 飛べた、飛べたよ俺!」
それでもいろいろあったせいか、疲れていたようで、俺はその後気づいたら寝てしまっていた。
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