1 ちょっとは落ち着かせろよ!
「みんな、準備はいいな?」
魔王が出発前に俺達に確認をとる。俺、シルフ、フローラさん、ギムギスさんは首肯で応答する。
「よし! それじゃあ⋯⋯⋯⋯翔太、テレポ頼むわ」
俺の肩や手をその場に居た全員が触れて、握った。
「結局、俺が運ぶのな」
俺は苦笑して目的地の正面玄関の写真を見ながら、想像し、『瞬間移動』を実行した。
「おお! 写真のまんまじゃねーか!」
「当たり前です。⋯⋯というか、周りから注目を集めているので、速やかに移動しましょう」
確かに、何も無い所から魔法陣や予兆もなく突然現れたんだ。周囲の意識がこちらに向くのは必然とすら言えそうだ。
俺達はギムギスさんの忠告に従い、そそくさと館内に入った。
「じゃあこっからは自由行動ってことで、各自、目的の品を買い揃えながら好き勝手にやること。翔太とシルフは周りに勇者か賢者がいないか注意しながら動くこと。賢者に会ったらある程度親しくなっとけ、それが来週の鍵になるはずだ。⋯⋯なお、勇者に会ったら即刻逃げること。ほぼ間違いなく翔太とは話合わないだろうから」
「お、おう」
魔王にここまで言わせる勇者(見習い)とは一体⋯⋯?
「それじゃあ再び集会かけるまで、解散!」
俺は微妙に不安を抱えたまま魔王軍と別れた。
「シルフ〜、どっか行きたいとこあるかー?」
「うーん⋯⋯洋服とか?」
「やめてくれよ、俺のセンスがないのがバレるだろ」
「センスも何も、翔太はいつもジャージばっか着てるじゃないか」
センスがないから上下セットのジャージなんだぞ☆ ただ、こっちで着てるのは魔王軍から支給された物なんだけどな。
まあ、最近向こうが暑くなってきててもう秋までは出番ないかなとは思ってるんだけど。
「⋯⋯つっても、別に服ならフローラさんが用意してくれるだろ?」
「あいつはフリフリしてるのばっかり着させてきそうで嫌だ」
「大丈夫だって、あの人ファッションセンスは結構良かったはずだし」
センスの無い俺が言うのもなんだが。
日頃ドレスばっかり着ているフローラさんだが、時と場合に応じて、まともな服も着るらしい。
「お、服屋が沢山あるところに来ちまったよ」
「服といえば、魔王城には沢山の服があるよな、家具とかはほとんど無いっていうのに」
「ああ、それは俺も気になってたとk―――」
「ところだ」と繋げようとしたが、目の前の光景が衝撃的すぎて、開いた口が塞がらなかった。
「? どうした翔t―――」
シルフも思わず息を呑む。俺達の目の前には大量の服を買い込んでいるフローラさんの姿があった。
「ここからここまで、全部ください」
と、俺が人生で1度は言ってみたい言葉を言うフローラさん。彼女の周りには浮遊魔法で浮いている大量の服があった。
「あれ、何着ぐらいあると思う?」
「さあ? 軽く50は超えてるんじゃないか?」
俺達は少し距離を取ってフローラさんの動向を観察する。⋯⋯と、俺はあることに気づいた。
「なあ、シルフ⋯⋯魔王城にクローゼットっていくつあったっけ?」
「⋯⋯確か限界収容数が1000着の物がひとり1つづつだったから、今だと5⋯⋯いや、夏蓮のも入ったから6個か⋯⋯あ」
シルフも気づいてしまったようだ。恐らくフローラさんは今、レン用の服を買っている。そこは、試着をせず、「金髪に合うのは⋯⋯」などと呟いているあたりから判断出来た。
だがそれとは別に、小さい服や男ものにもチェックを入れている。⋯⋯後でまた買いに来るようだ。
「あの人、たぶん1人50着ぐらい買うつもりだぞ」
「まさかここまでとは⋯⋯! あ、気づかれたぞ!!」
シルフのその言葉を聞いて、フローラさんの方に目を向けると⋯⋯⋯⋯げげっ! ほんとだ!
「てか、猛ダッシュで来てるじゃねえか!!」
どうしようもないため、俺も猛ダッシュで逃げる。
「しょーくん! ちょっとこれ持ち運ぶの面倒だから、一旦持って帰ってくれない!?」
「無理です! そんなに1度に運べません!!」
「別に1度に運ぶ必要はないわ! でも試着だけはしてみてほしいわね、シルフも!」
ほらきた! やっぱりね! 逃げて正解だったよ!
「あんなに試着できるか! 翔太! 瞬間移動を使うしかないぞ! 私の力ではどうすることもできん!」
「ええ!? ⋯⋯くそ! そんな急に言われても能力は使えるかどうか⋯⋯⋯⋯ええい! もうどうにでもなれ!!」
俺はこのショッピングモールで、印象に残った場所へと飛んだ。
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