1-1 白の世界で1柱と……
前の話から遡ること数ヶ月前の話です
気づけば白い空間にいた。床も天も、右も左も、全てが真っ白な世界だ。
「……?」
俺はさっきまで自室のベッドで横になっていたはずだ。いつも通りなかなか寝付けなくて困っていたけど。
「ここは私とあなただけの世界」
突然後ろから声がした。
驚いて振り向くと、1人の女性が立っていた。彼女の髪は銀色に光っており、瞳は吸い込まれそうなほど神秘的な輝きを放っていた。
「やっと話せますね、この時をどれほど待ち望んだか。……大体、再会まで10年かかるとか長すぎでしょう」
彼女は独り言のような悪態をつき、俺に向き直って一言。
「おめでとうございます! あなた……鈴木翔太は、魔王軍雑用係に任命されました!」
と、満面の笑みを浮かべて意味の分からないことを言ってきた。
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「つまり、俺が異世界召喚の相手に選ばれたと?」
「うん」
「異世界にいる魔王軍に力を貸してやってくれと?」
「うんうん」
「向こうの魔王軍は別に悪い奴らでもなんでもないから、魔王軍の印象を良くしてくれと?」
「そうだよ」
「…………わかったからちょっと離れてもらっていいですか……」
「え~、いやだ」
俺がこのわけのわからない空間に呼ばれてから既に1時間程経った……と思う。
自らを時空龍で異世界の最高神だと名乗った彼女(?)は俺がこれから向かう異世界についての説明を延々と語りながらも俺にだんだんと近づいて来て、終いには俺の腕にしがみついてきた。
「頼むから離れてください。ぶっちゃけ精神的にキツいから!」
「えー嫌だよ~、翔太君とはもう二度と離れないって決めたから」
初めの敬語は一体どこへ、今やすっかり友達のように接してくる向こうの世界の最高神…。この神意外と胸があって俺の腕に当たるのなんのって…。俺まだまだコミュ障だし、小心者だし、強く言えないなー。
仕方なくこの感触を堪能していると、
「まあ、甘えるのはこの辺にして、そろそろ送るね…てなにその残念そうな顔」
割とあっさりと離れてしまわれた。俺の至福が。
俺は頭を降って思考を切り替える。
「それで、俺は向こうで何をすればいいんですか?」
「えーとね、とりあえず1週間はテストプレイみたいな感じかな?」
「テストプレイ?」
「そう、初めの1週間は向こうで3人と親睦を深めてもらって、本番は来週からだね。……あ、向こうでも時の流れはあるから適度に滞在したら戻って来ることをおすすめするよ」
「はあ」
俺は時空神(いや、龍か?)の言っていることがよくわからず、困惑しつつも一応返事をしておく。
ん? 待てよ。戻って来る?
「それって俺は地球に帰れるってことですか?」
「当たり前じゃん、私を誰だと思ってるの?」
「馴れ馴れしい上によくくっついてくるお姉さん」
「違う! あってるけどなんか違う!」
ふう、いい感じだな。この神とは親しくなれそうだ、とこんな状況でも俺はそんなことを考えてしまう。それぐらいの心の余裕が今の俺にはあるということなのだろう。
「私は時空を司る神様だよ? あとはもう分かるよね?」
「つまり、能力をくれると?」
「そうそう」
「『力が欲しいか?』のくだりをやってないのに?」
「それはまた後でやる予定」
後でやるのか。
なーる。でも俺チート能力で無双する系そんなに好きじゃないんですよねー。
「まあ、翔太君にはこれから数々の苦行が待ってるらしいから、対価としては充分なんじゃないかな」
途端に彼女が複雑な表情になった。
俺はなんとなく心配になったので、きいて見ることにした。
「苦行って……ぐ、具体的には?」
「えっとね……腕がもげるとか、身体中が焼け焦げるとか、痴漢に疑われる……とか?」
俺は思わずその場で膝をついた。
ああ、まじかよこれはしんどいぞ。今年は3月に第1志望校に落ちてから散々だな。
まあ、いいさ。
「それでも、行けと?」
「行けと言うよりかは、行ってほしい……かな? ……あ、もちろん身体の外傷は向こうで治せるはずだし、死んでも私の力で生き返れるから安心だよ!」
「痴漢は?」
「ええと……それはちょっと」
うぐ……まじかよ。
まあ福利厚生はしっかりしてるっぽいし、これが俺が主人公になれる千載一遇のチャンスだと言うのなら……。
「……なら、行きましょう」
「うん! 翔太君ならそう言ってくれると信じてた」
うるへー、言ってくれるな……。チート能力と引き換えなんだ、まあなんとかなるだろう。
まあぶっちゃけ面白そうだしな。こんな憧れてきた状況なら引き受けるしかない気もするしな。
「それじゃあ、早速だけど魔王城に送るね! もう能力は分けてあるから、説明は向こうにいる魔王にでも頼んでねー!」
彼女がそう言った瞬間、目の前がボヤけはじめ、彼女の声も聞こえなくなっていった。……ああ意識が遠のくってこんな感じか。俺はゆっくりと瞼を閉じた。
俺のセカイは一瞬、静寂と闇に包まれた。
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