(第二部)六十四章 非現実的なほどに
(第二部)六十四章 非現実的なほどに
非現実的なほどに超スローモーションに自分の周りの事象は動いている。
体を少しねじって・・・ああ、腕を前に突きだそうとしているのか。
この事象を体験するのに些か時間を逆戻しにしなければならないだろう。
しばらく付き合っていただきたい。
DQNの手下の手下が何やらありげに近づいてくる。
至近距離とまでは行かないが、普通に会話する距離よりなにげに近い場所まで踏み込んできて、唾の完全に降りかかる迷惑な口臭も添えてがなり立ててきた。
「話がアルンじゃぁ~わしについてきてくれんかのぉ~。」
なんともよくわからない間延びをした口調であるために、がなり立てているようでもありのんびりした農夫が野良仕事に付いてきてくれと言っているかのようにも聞こえるが、彼なりに精一杯親分子分の言うことを聞いてそれっぽく振る舞おうとしているのが見え見えだ。
ああ近頃噂に聞く「手下による呼び出し組み手鑑賞会」か、少し前は電気科の奴らが呼び出されてらしいな、その前は商業科だったか?。
「手下による呼び出し組み手鑑賞会」の呼び名は噂話のなかの通名ではなく、判別するために自分がつけたものだったが、実態に近いのではと思ったが多分違いは少ないだろう。
前回は手下Aに呼び出されたかと思うと、後ろから手下Bに突き飛ばされてよろけたところで多少離れたところから複数の嘲笑が聞こえて来たが、このたびはさてさて何があることやら。
やれやれと内心思いながらついてゆくと、校内でも人気が少ない場所へ場所へと歩いて行く。
もう少し歩くと少し開けた場所があり、その奥側に6,7人のDQNが立ち話をしている。
こちらに気づくとその中の一人が「わしらは手をださんけぇ、案内したそういつをしめてやってくれんかぁ、この頃そいつが弛んどってきあいがたらんのんじゃ。協力してやってくれぇ。」
何となく予想はしていたが、実際に手下の手下との組み手ショーをしてくれといわれれば「はぁ~?」と疑問が心の内に出てくるのは道理だろうが、うかうかしていると殴りかかってくる場合があるので警戒感を薄れさすわけには行かない。
「どうしたんじゃぁ~気合いがたらんぞぅぉ~手下の手下!!。」
とDQNの一人がいうと数瞬の間があって、手下の手下が殴りかかってきた。
ああ、昼の休憩時間にゴリラ似のDQN手下が、手下の手下に何やら教えていたが、あのときにやっていた一つ俗称ベースボールパンチだなこれはと妙に冷静に観察できている自分があった。
二度ばかりベースボールパンチをかわすと、手下の手下は間合いを開けて様子を見るようだった。
この合間の時間に、どういうわけか祖父との祝詞の鍛錬の風景を思い出してなぞらえている自分があった。
無意識だろう大祓詞を口ずさんでいたのか「何じゃそりゃぁ~何かの呪文かぁ?。」とDQN手下が言った。
別のDQN手下が「ワンツー連打じゃ~いけぇ~。」と指示を出した。
さあ手下の手下が指示に従って前手でのジャブを放とうと準備動作が始まったその同時に、自分の中で何かがはじけて自分と周囲が別の空間にいるかのように感じた。
非現実的なほどに超スローモーションに自分の周りの事象は動いている。
体を少しねじって・・・ああ、腕を前に突きだそうとしているのか。
いや腕を動かそうとしているだけなのか・・・。
敵意でもなく脅威でもなく、ただ腕が伸びてきている、腕を伸ばそうとしていてる、そう感じたとき自分の中から声が聞こえてきた。
「体を少し右にずらして、左手を前に振り上げる。」
体の中から聞こえた声に体は反発することなく、その通りに動作する。
左手の拳あたりに圧力を感じた。
「ぎゃん!。」という声が聞こえたと思ったとき、不思議な意識空間から通常意識に戻っていた。
みれば手下の手下は顎を両手で押さえて転げ回っている。
DQNたちは何が起こったのか話し合っている。
「何があったんじゃぁ?」
「なんだろう?」
「手下の手下がジャブで行こうとしたところを、ヤツがアッパーのようなことをしたみたいに見えがようみえんかった。」
「・・・」
暫くして「おまえ何をしたんじゃぁ~ようわからん呪文で何かしたんか?。」
「ああ・・・(DQNども、なんだかよくわからんが認識できなかったようだな)、何かしたんだろう、見たまんまだよ、じゃぁ曷は入れたのでこれで。」
とその場を後にした。
が、内心DQNどもが追いかけてきて囲まれるかと思ったが、それはなくて一安心だった。
自宅への帰路を急いだが、安全圏にさしかかってくると、気を抜くわけではないが先ほどの不思議な体験のことを追想することとなった。
その後、ずいぶんこの出来事について調べてゆくこととなった。
(次回、説明回をいれます。)
次話投稿は5月23日17時の予定です。
最初の予定では十六日であったのですが、予定が立て込んで投稿日を一週間延ばさせていただきます。
宜しくお願いします。