(第二部)六十一章 ちょっと空手部まで
(第二部)六十一章 ちょっと空手部まで
「ちょっと空手部まで付き合ってくれぇ~」
同室生になったこともある男子より声をかけられ、数人の取り巻きに囲まれた。
断ることのできにくい状況がいきなり発生した。
この後おこることは話さなくても大体予想できるだろう。
ただ馬鹿みたいについて行くのも阿呆らしいので些か回避を試みるが、取り巻き連中は手慣れたもので逃がしてくれることはなかった。
ご丁寧に前後を取り巻きの男が三人囲み、隣で腕をつかんでいる元同室生。
校内の奥まった場所にある古ぼけた建物に空手部はあるのだが、そこからさらに二人ほどの男がこちらを見てニタついていた。
建物にはいり靴を脱ぎかけのところで、後ろから脇腹を殴られ、部室内に突き飛ばされた。
不意である上にけっこういいところにパンチを貰ったらしく一瞬呼吸が止まりいやな汗がにじんでくる。
それでもこのままうつ伏せになっているのは危険であると感じ膝を支えながら立ち上がった。
途端に鳩尾にもう一発きれいなパンチを貰うこととなった。
さすがにしばらく立ち上がることができない。
周りで何やらいっているようだがうまく聞き取れない。
さらには周りに囲んでいる奴らがつま先で小突いているようだったが、下手なのか痛みはほとんど感じない。
そんなに長い時間ではないと思うが髪の毛を捕まれて立ち上がらされる。
そうした中で元同室生が顔を近づけてきた。
「これからここにいる奴らと一人づつ組み手をしてもらう、そのためにおめぇをよんだ。」
とある界隈の映画でよくあるシーンのような顔をゆがませつついっているのだが、中途半端な造形に滑稽さを感じ、心中落ち着きを少し取り戻した。
「君はこんな事するやつだったっけ?」
「おれは進化したんだ、過去はもうねぇよ。」
進化?、それは恥を忘れたという意味としかとれないぞ、昔は一対一をとるやつだった少しは男気を感じていたのだが、地に落ちたという事かと、その言葉を聞いたとき、彼に少しばかり一目置いていた気持ちがガラガラと崩れてやる気もなにもおこりそうにない。
複数人数で小突き回しダメージを与えた上で、一応空手部の部室で組み手をして部活体験としての話にしようとする小ずるさを感じた訳だ。
この場所には技を競うでもなく、磨き会うわけでもなく、ただのリンチがあるだけだ。
リンチに対して真面目に対応してやる義理もなく、ただ妙なダメージを背負うのも問題だが、一人の男が単なるオスになった瞬間を見るとやる気もなにも起こらないものだ。
さてどうするか・・・といってもできることは多くない。
逃げようとしても靴は部室の入り口より一番遠い場所に置いてあるし、さらには出口は一つあるだけ、いやもう一つあるにはあるが物が多くて塞がっているので使用不可能。
大きな声を出しても微妙に隔離された可能ような立地であるために声が届くかは疑問が大きい。
などなど考えていたら一人目が向かってきた。
近づきつつ放ってきた突きは腰が浮いていてたいした迫力はない、それにこいつはやる気が無いようだ。
下手に反撃してやる気を出してくれても困るし、そもそも自分にもやる気など無い。
深刻なダメージとならないように買わせるモノはかわし、それ以外は手足で受ける。
専守防衛に徹するしか思いつかないし、後ろでは竹刀やモップなどの長物で床をたたく音がしきりにするわけだ。
後ろに下がれば竹刀でたたかれモップで突かれるので逃げ場も無い。
こりゃ参ったね人間サンドバッグだわ、と思いつつ凌いでゆく。
しばらくたって殴り疲れたのだろう、目に見えて打ってくる手数が減ってくる。
「おう、儂が代わるけぇ、どけ。」
といいつつもと同室生は前にてで、右回し蹴りを回避の難しい場所から放ってきた。
この瞬間同時に二人を相手にしている格好となり、その蹴りは左上腕部にもろに入ってしまった。
手がしびれてうまく手が動かせなくなってしまった。
さらに追撃の回し蹴りが幾度となく襲いかかってくる。
結局左腕は骨は折れていないもののほとんど動かない。
そこへ飛後ろ回し蹴りが放たれてくる。
妙な角度に変化してきたと感じて、体を少しひねった。
完璧に鳩尾へ入るところだったが10センチばかり左にずれて悶絶は避けることができたようだが、脂汗が出るほどに深いダメージを負ってしまった。
その飛後ろ回し蹴りが決まったことで満足したのか元同室生は後ろに引き下がり次にガタイのいいやつが出てきて、ダメージを負っているところを集中して殴ってくる。
くそ、時代が違っていて腰に相州伝の脇差しがあれば・・・くそ。
卑怯な殴り方はしてくるものの、力は強いのが災いして殴り方が押しているかのようで、よろけはするが衝撃力が中に入ることは無かった。
が、ダメージを負っている箇所はさらに稼働不可に近いほどになってゆく。
そいつも殴り疲れたのか次が出てくる。
こいつの目は暗い、ヤリなれている感じがすると思うと、鋭いショートフックが飛んでくる。
くっ。こいつはダメージの入れ方がわかっていやがる、まずいな。
どんどん打ち込んでくる。
クリーンヒットは避けているものの持ちそうに無い。
殴り疲れたか?、目の暗い細見の男はバックステップしたとおもってらローキックを放ってくる。
もうろうとした意識の中、足を上げて防ぐのでは無く半歩ばかり前に進んで足をローキックに合わせるように足を上げた。
不意の行動にローキックが阻害されバランスを崩したことが気に障ったのか、前にも増して殴りかかってきた。
これは詰んだか?、悶絶したらさすがにまずいな、下手すると脱糞もあり得る、そうなるとずっとつきまとわれる隙ができてしまう。
「おーい何してるん?」と出入り口の方から聞き慣れた声が聞こえてきた。
そこそこ親しい同級生がきてくれたようだ。
どうも空手部の顧問から様子がおかしいから見てきてくれと頼まれたと、そういう話をしているようだった。
「いやぁ~空手部の体験組み手だよ。たいしたことねぇよ。もう体験できただろ、おめえはもう帰れ。」
と、同室生がいうと一番下っ端らしいやつが靴を押しつけてきた。
なんとか最悪の事態は避けることはできたが、ずいぶんたった今も時折このときの古傷が痛むことがある。
次話投稿は4月4日17時の予定です。
よろしくお願いします。




