(第二部)五十四章 そろそろ元服の時期に
(第二部)五十四章 そろそろ元服の時期に
※切腹(自刃)の話題が出てきますが、自殺を推奨するものではありませんし、あくまで元服の前に要点だけでも習っておくという意味での内々の話です。くれぐれも真剣や刃物で真似をしないようにしてください。
「昔でいうとそろそろ元服の時期になるから一つ作法を覚えておいた方がよいだろう。近日中に練習しよう。」
と祖父が言い残して去って行ったが、また戻ってきて用意するものを言い渡してまた去って行った。
何のことだろうと思いながら扇・三十センチ程度の箱・折敷・かわらけ・半紙数枚・1メートル程度の竹の棒を用意する。それと別棟二階にある祖父の小袖と袴。
とりあえず他のものの目につきにくいところに一揃えしておく。
数日たって邪魔の入らない状況が訪れた。
そこで上座へ来るようにといわれ素直に赴く。
もちろん先日言付かっていた物品を一緒に持って行く。
こういう時もだが言われた通りにするのでは無くて、前後関係をよく考えて準備遂行をすることが大事。
事前説明も無いので何のことやら判らず、とりあえず言いつけられているものたちを邪魔にならない場所に置いて祖父の言葉を待つこととする。
祖父は上座に座り瞑目して静かに座っていたが、ものを置き終えて祖父より畳一畳分距離を開けた場所に正対して座ったときにゆっくりと目を開けた。
「さて今日は自刃(切腹)の方法を簡単に教えておこうと思う。もちろんもうそんな時代でないが、この家に生まれたのも何かの因縁が働いたものと思うのが良かろう。用いることがあってはならないしそうならない方が良いが、家風の一つとして覚えておいてほしい。」
という話の発端から言われた通りに配置準備を進める。
準備中に簡単な説明とがあったのでありがたかった。
もっとも要点を重視して難しい作法は考慮しないという事で進められた。
詳しく知りたければ自分で調べることという追加も付して。
何故三十センチ程度の箱を用意したのか、それは神前用の三方を尻に敷くのは憚られるので代用。
折敷にかわらけ、酒が盛られるらしいがそれは空。
作法が決まった江戸時代ではお膳がついて今生最後の食事がつくなど。
そういう話がありつつ大体の配置が決まる。
少し丈は小さいが着物を着付ける。
この場合は左前に小袖を合わせる。
江戸期の作法では小袖は白でその他は浅葱色を用いるという事らしいが、もちろんそんなものは用いない。
折敷の上にとりあえずのかわらけを置く。
箱の上に半紙を敷いて扇を置く。
手水と柄杓を忘れていたらしくそれに変わるものを祖父が取りに行く。
一連の準備ができて神前にお稽古をするというご挨拶をした後に進めてゆくこととなる。
辞世の句を詠むなりしたのちに最後の食事をいただく・・・らしいがこれは省く。
おなじくお酒をいただくらしいのだが折敷にかわらけを乗せた物を前に持ってきて飲む格好をして終わり。
折敷をどけて、箱の上に半紙と扇の一揃えを前に置いて正座して座る。
介錯人役に揖をする。
祖父は岳の棒を手に取り、手水から柄杓で水をすくい竹の棒に水をかけて清める真似をし準備を進める。
右肌脱ぎの格好となり、扇を取り、半紙で扇を巻き包んで、扇を短刀に見立てて左腹に突き立て右へかっさばき、引き抜いて腹に突き立てる(真似をする)。
介錯人は刀(此処では竹の棒)を振り下ろし首を切る(真似をする)。
という流れを一通り行ったが、古くは切腹では無く自刃であったということだ。
先祖からの申し送り?としては短刀でも太刀でもどちらでも良いが、首に刃を当てての方法らしい。
それで自刃ということらしいが、一通りの流れや要点だけ知っておけば良いというのも、こういう種類の話は忌むべき話であり、男子の覚悟を成長させる一助としてのものであってこれをしなさいという話では無いから。
こういう筋の話ができる子孫に伝えてほしいという話だった。
元服年齢前にこういうことを体験できて身が引き締まる感じがした。
次話投稿は13日か20日の17時の予定です。
よろしくお願いします(*^_^*)。