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(第二部)五十二章 ささくれだった

(第二部)五十二章 ささくれだった


 ささくれだった自分の心を感じる。

 昨日まではそれを感じていなかった。

 ささくれだっているなと感じることが出来たのは先ほどだったが。

 ささくれ立っていると感じることが出来るのは、自分がそれに没入していないからこそ、自己観察する事ができるのであって、ささくれだってそれを認識していないよりずいぶんましな状態である。

 ささくれだっていると自己認識できれば、ある程度は行きすぎてしまう感情を引き戻し修正することができる。

 もちろんささくれだった心に流されず、言葉や行動に反映するときに修正をかけるのは内部で感情とのせめぎ合いに押し勝たなくてはならないが、ささくれだった感情にまかせて言葉や行動を為して行けば、それは人の摩擦を生み後々の負の遺産として残り、それを直そうとすればかなりの気力体力そして忍耐力が必要となる。

 そういう未来の出来事まで洞察して考えれば、一時のささくれだった心と対峙してできうる限りの最善を選ぶことは決して悪い話では無い。

 ある意味最短を進んでいると考えても良い。

 こういう未来のことを考えずにその時その場の感情で言行を行う人は、だんだんと知らないうちに未来の可能性を狭めているともいえる。


 こんなことをこの当時言葉にできるわけも無いが、なんとなくささくれだった心を認識し、これまた何となくそれに流されてはならないと考え自分の感情とせめぎ合うことの方が良いだろうと考えてさてどうするかと思案しているという現状。


 昨日の遠隔祈祷の体験が無ければささくれ立っていると自己認識できることも無かっただろう。

 憑霊はなにも霊だけの問題では無く、自分の心の有り様や行動なども大きく影響する。

 さらには行った場所やその日時の方位も結構関係してくると感じている。

 そのような一方だけの原因や因果では無いので、憑霊されるということ自体自分にも悪いところや修正する箇所があるといえる。

 そのように考えると憑霊の体験も人の運命に関わる神々からのメッセージと捉えることもできる。

 自己の性質や仕事や趣味などによって、その道で習得できる技術だけでは無く、人間としての学びも運命の神々は垂れようとしている。

 自分として生きようとするとき、その道に現れる事象を通して、自分の都合だけで無く多角的に事象を観察する注意力を持ったとき、神道者は天地を持って書籍とし以て日月となす。

 そのように考えることができることも大いにある。


 その日は雨が降っていた。

 その日は祖母は些細な用事であったが外出していた。

 その日はもちろんのこと平日で父母も仕事で外出している。

 その日は風邪というわけでは無かったが調子が悪く学校を休んでいた。

 その日たまたま祖父も仕事が休みだった。


 用事があるか必要があるか、興が乗らないと話をしない祖父が話しかけてきた。

「今日は誰もいないから久しぶりにあれをしよう。」

と自分に話しかけているのか独り言なのか判らないが、とにかく自分に向かっているので自分に話しかけているという事で話を聞いているわけだが、何のことやら判らなかった。

「縁側の戸を開けて廊下に座っていなさい。」

と言い残し奥座敷へ消えていった。

 

 素直に縁側の戸を開けて縁側に座って待つ。

 見慣れた広くも無く狭くてかなわないという事も無い庭がすぐ側に広がり、一段段差があり猫の額というのは言い過ぎだが小さな畑と柿や花梨の木などが植えてある家庭果樹園といえば大げさだが数本の果樹が目に入る。

 そういう草木に雨がしとしとと注いでは洗い流しているかのようだ。


 雨樋から雨水が溢れたわけでは無いが、犬走りの石をたれ落ちるしずくが叩いて不定期な音を響かせる。

 さらさらと降り注ぐ雨音に雨だれの音が心地よい。


 足音が後ろから聞こえてくる。

 祖父が黙って隣に座る。

 すこし距離を取って違和感の無い間合いで。

 脇に一旦置いた袋を取り、中から尺八を取りだした。


 上座に飾ってあるのは知っていたが中身までは今まで知らなかった。

 なかはあれが入っていたのか・・・と思う反面、祖父が吹くのか?という素朴な疑問が浮上してくる。


「誰もいないし久しぶりに引いてみようと思う、祖母さんはこういう音が嫌いだから吹けなくてな。」

と返事を待たずに試し吹きをはじめた。

 しばらく音出しをしていたが、突然ひたりと音を止めて目を閉じた。

 どうやら心を静かにしているようだ。


 目を閉じたまま尺八の奏法姿勢になって、ゆっくりとした吹き出しよりその曲は始まった。

 低く響く竹の反響音は、しとしととした雨音と雨だれの音を交えて奏でられる。

 雨音の間に入り込んで自然な音をさらに醸しだし、雨だれの拍子に抑揚を感じる。

 次第に耳で聞く音、体で感じる音が一体になって音に浸る。

 ゆっくりと下腹に届く尺八の音。

 ときおり息継ぎの音すらも一つとなったかのようだった。


 静かに曲は終わりとなった。

 

 草木や雨そして尺八の音によって心は素直な様相に感じた。

 良い顔になったな、もう一曲どうじゃ?、といいまた返事も待たずに尺八を奏で始めた。


 他の家族が誰もいなかったというだけではなく、どうも日取りが良く鎮魂に良いという事もあったらしい。

 ただそのとき一度だけしか祖父の尺八を聞いていない。

 好きな尺八も我慢していたとはついぞ知らなかった。

次話投稿は16日か23日の17時の予定です。

よろしくお願いします。

(^_^)

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