(第二部)四十九章 この地方では「へーどら」と
(第二部)四十九章 この地方では「へーどら」と
この地方では「へーどら」という藁で作った袋を呼び、蒲簀とも呼んでいた。
数あわせのために唐人袋という荒麻の袋も用いた。
それに芋を入れて運搬車まで運ぶ。
芋も結構な数を入れるためかなりの重量があり、さらには「へーどら」も耐久性を考慮しているためか結構重い。
担いで運ぶとふらつくほどで、畑の端のでこぼこ地面を通るので運搬難易度は飛躍的に高まる。
ここは山間の斜面中腹に突然開けているような畑。
幾つかの段々とした畑を超えたところまで運搬車を入れることができたので、山の下まで運ぶという事はないが、幾つかの段差のついた畑を重量物を担いで体のできあがっていない自分にすんなりと歩けるわけもなく、大きな段差がある場所では一旦荷を降ろして自分が降りて担ぎ直す必要があった。
もっとも祖父は担いだままで走るような速度で運んでいて「速度を出して運ばないと逆にしんどいから。」といっていた。
そういう物かも知れないと思いつつ、芋の入った袋ごと段差の畑に倒れ込んでも嫌なので自分なりのやり方で進めていく。
まだまだかなりの量の芋があるなぁ~と思いつつ一歩づつ足を前に出す。
麻の早いうちに祖父が芋を掘り返して、ある程度外気にさらして芋を乾かせた状態にしておいた芋を運んでいるわけだ。
できないことはないが、掘り返してすぐの芋を袋に入れて運ぶと痛みやすいという事であって、帰って貯蔵場所に仕舞う前に作業小屋の土間などを始めとした場所にもう一度並べてもう少し乾燥させ保存状態をあげる。
そうした後に貯蔵すると結構長く保つことが出来る。
そういうものだろうと思いつつ作業をすすめる。
それにしてもかなりの量の芋だ。
手伝いの要請を軽く受けたのは失敗だったかと、内心本気で思うほどだった。
ただこの作業をすすめないとホクホク芋にありつけないと思い直してふらつく足取りを急ぐのであった。
重い荷物を運んでいるときに愚痴っぽく思考するのは余計にしんどさが増してくる要因だが、ついついこの何ともいえない数量の芋運びを軽く受けてしまった遠因というか原因を思い出してしまう。
それは学校イベントで学年でのサッカー大会の後の出来事だった。
隣にとある男子優等生君が座ったことから始まった。
その君はいきなりぼぼろとなき始め、妙に嗚咽を含むまでになった。
前を通る生徒諸氏は何やら俺が悪いことをしたのではないのかという、怪訝な目を投げかけつつ通り過ぎて、ものすごく居心地の悪い状況となっていた。
女子生徒の幾人などは「優等生君、俺君に何か悪いことをされたん?」などと聞いて近づいて来ては絡み「俺君が悪いわけではないよ、悔しいだけなんだよ。」と嗚咽が不思議とやんで優等生君をして声をかけてきた女子に答えていて、その答えを聞くと、その場所は自分が座るべき場所なのといわんばかりの目線を投げつけては去って行くし居心地の悪さ急上昇していくばかりだ。
といってどこかに行こうとすると「僕のそばにいてくれ。」と哀願してくる涙目にドン引きしながらも用事のない自分としては立ち去るのもなんとなく難しい。
なにか言いたいのか聞いてほしいのか判らないが「何故に泣く?」と聞いてみた。
「PKでゴールが決まらなかった。」
「はあっ?、何故それで泣く必要があるの?。」
「めちゃくちゃ悔しい、放課後残って練習したのに・・・。」
「勝負事は出来不出来があるから気にしなくても。」
「俺君はゴール決めたじゃないか、出来た人間に言われても慰めにならないよ。」
そうかも知れないが、何とも何ともだ・・・が・・・あぁそうか、自分は出来ずに俺が出来たことが悔しいのか、クラスの皆さんの反応が、俺がゴール決めたときに微妙な反応だったしなぁ~。
「なるほどなぁ、放課後残って頑張っていたもんなぁ、それは悔しいはずだ。」
「俺君のゴールで試合に勝ってうらやましいよ。」
「・・・・。」
答えようがないのでなるほどという表情とうなづき返しておくにとどめておいた。
試合途中で交代で出るのも嫌だったので(わりとボールが苦手という事もあり)他の人に、途中交代を回して逃げていて、試合に興味はなく空や風の動きを観察して遊んでいたら、声をかけられ気付いたらPK戦に引っ張り出され、適当に蹴ったら思う方向から少しずれた軌道を転がるように飛んでいき、どうもキーパーの意表を突いたらしくゴールネットに突き刺さっただけという代物で感慨の一つもない内心であった成果を、彼はずいぶん気にしている様子だ。
日頃の優等生君を考えたらこれは内だろうと思うことがよぎった。
もしかして優等生君が試合を決めようと意気込んでいたところ止められて、なんでもない自分が試合を決めてしまった自分に悔しいとそう言いたいのかも知れないと考えたら隣に座りたかった意味がわかった。
隣に座った優等生君と微妙な話をしばらく続け機嫌が直るまで居続けたばかりに、彼の感情にシンクロしすぎたようだ。
その後感情が落ちるは落ちるはでどうにも気分が悪い。
そこで畑仕事の手伝いを快諾したわけだ。
ナチュラルな自分に戻すためといえば格好いいが、別のことをして仕切り直したかっただけでこんなに大変だとは思わなかったが。
ホクホク芋にありつけたのがせめてもの救いか。
次話投稿は9日か16日の17時の予定です。
よろしくお願いします。
(*^_^*)