(第二部)四十四章 部室に連れ込まれ周りを
(第二部)四十四章 部室に連れ込まれ周りを
部室に連れ込まれ周りを先輩達に囲まれた。
同級生と共に。
五人の先輩達の中でねちっこく粘りのある三人が連携を取り、竹刀で何度も殴り、急所に入ってうずくまったところで蹴りを連続でかましてくる。
上履きのつま先を使って蹴り上げてきたり、かかとで踏むように踏みつけてきたりと様々だ。
何の価値があるのか判らないが、わざわざ下方よりねめあげて睨み付けるような仕草で「おめぇら判っとんじゃろうのぉ~。」とねちっこ先輩1号が脅すような仕草をしてくる。
内心、何を?と思いながら口が臭いわぁ~と同時に思いながらも、それを口にすることの面倒くささを考慮して黙っていた。
意味がわかるはずもなく黙っていると、次は三人がかりで殴りかかってくる。一方的に殴られるわけだが、鳩尾にたまたま良いのをもらってまたうずくまる。
そこに木刀とは違う木の棒を取り出してきて足を殴りに来る。
また蹴りを連続して受けることとなる。
「おめぇわかっとんじゃろうのぉ~。」と繰り返してはまた蹴りを続けてくる。
「何のことかさっぱり判りません。」とどうしようもなく口から出ればまた盛大に蹴る殴るの撲打。
それから暫くして、痛々しそうに見ていた一人の先輩が「そろそろやめてやろうゃぁ。」と何度か声をかけてくれたおかげで解放されることとなった。
どうも剣道の稽古で先輩に綺麗に小手を入れたのが悪かったらしい。
全く意味がわからないが、えてしてそういう物なのだろう。
「あいつらには言っといてやるけぇ、今日は帰って休め。」痛々しそうに見ていた先輩が体育館の出口まで連れ出してくれた。
そういう救いもあり、在りがたいことにその日は土曜日で早く上がることが出来た。
内臓や体のあちこちにダメージを抱えながらの帰宅。
「そういえばあそこにもしばらく行っていないな。」と一人つぶやきながら速度の出ない自転車を漕いで帰路を進む。
祖母の目をかいくぐり、二つおにぎりを自分でむすび、それを携帯してとりあえずという程度に名前の付いている山へと向かう。
体にダメージがあって食欲もわかないが食べれるかも知れない。
一つはある場所にお供えするための物。
とりあえず名前の付いた山。
この盆地では二つばかり名前の付いた山がある。
細いくせに一級河川という川にかかる簡素な橋を渡り、山中を生徒の足で十五分から二十分程度分け入った山の中腹にそれはある。
山道を登っていった先の途中に、山道から少し外れた処にそれはある。
人が一人かがみ込みながらかまたは這って入れるような程度の入り口の洞穴と呼んで良いような洞窟。
奥行きは三メートルくらいか、奥は少し上下に広く、余裕はないが壁面に体を預けられるような空間。
自然に出来た洞穴。
その場所に壁面から段ボールを下まで敷いて座る。
明かりはつけずうっすらと明るいだけの闇の中。
そこに静から座る。
そうしていると以前と変わらず、向かい側の壁面に気配を感じた。
それは背丈の小さな男の子とも取れるし女の子ともとれるような、ぼんやりとしてはっきりしない存在。
「久しぶり、また来たよ。」とその存在に話しかけながら用意していた、おにぎりを前に置いてお供えした。
おにぎりからすっと霧のような細いものがその精霊に伸びた。
「ありがとう」という言葉が頭に響いたとおもったら、すっと精霊は消えていった。
しばらく目をつむってうたた寝のような、瞑想のようなかたちでひたすらにじっとしていた。
しだいに酷い痛みだった箇所の痛みが薄くなって行き、ある程度痛みがある箇所は多少の違和感がある程度までになっていった。
「ふう~~~っ」とゆっくり深い息を、やっと吐くことが出来た。
その位に体がなってくると空腹感が出てくる。
もう一つの大きく結んだおにぎりを頬張る。
肚にストンと満たされる。
ありがたいことだと体のどこからか判らないが、そのように沸き起こってきた。
体が回復してきたのだろう、一つでは満腹感まで行かないのだが、さすがにお供え物にしているおにぎりには手をつけることをしなかった。
そろそろ良いかなと、外に出る気持ちになったところで「もう会えないね」とまた聞こえてきた。
敷いている段ボールを掴んで外に這い出る。
這い出るごとに光がまぶしい。
立ち上がって振り返るが洞窟はかわらずそこにある。
さっきの言葉は気のせいだろうと思うことにして、感謝の言葉をかけて帰宅した。
その後、部活動で小さな骨折や怪我などをすることを繰り返し、一年ほどの後に退部することとなった。
退部を申し出た日もねちっこい撲打の歓迎を受けることとなり、ふたたび山の洞窟と呼んでいた場所に体を引きずるようにしていったが、愕然とするような出来事。
一年ほど来ていない間に、山の洞窟は入り口付近を残してつぶれていた。
あのときの「もう会えないね」の言葉はこれだったのかと、洞窟の前で座り込みしばらく動くことができなかった。
このときもおにぎりは二つ。
一つを潰れてしまった洞窟の中において、それに向き合い座って自分も体の痛さを我慢しながらおにぎりを頬張った。
さらにその後、しだいに人が入らなくなった山は、山道も細くなりどのように行けば良いのか判らなくなり、数年の後には付近に住宅団地が出来て全く地形が変わってしまい、その場所にはあれ以来行くことが出来ていない。
不思議な洞窟は当時、山の洞窟とだけ呼んでいたが、癒やしという言葉が普及した現在ならば、癒やしの洞窟と呼んだ方が良かったかと思い出しつつふと思う。
時代と共にこういう精霊(または八百万神と呼んでも良いかも知れない)の場所は少なくなってきていると感じる。
こういう話を信じるか信じないかは貴方にかかっている。
次話投稿は22日か29日の17時の予定です。
よろしくお願いします(*^_^*)




