二章 それは確かに飛んでいた
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二章 それは確かに飛んでいた
あの日それを見た。
それは確かに飛んでいた。
それは音もなく羽ばたかせて飛んでいた。
形状は見たことのある生き物。
家の奥山を分け入り進んだ奥津城のあたりで。
朝はまだ少し肌寒い春の日のこと。
光の玉のような存在でありながら生き物の形をとっていた。
それはカブトムシのような形だった。
存在感に溢れ。
周囲を全く気にする様子もなく。
ただ一定の速度で飛びすぎ去って行く。
数秒程度の出会いは強烈に記憶に残った。
当時幼年であったしもちろん幼心。
幼心は強烈なものや印象に残ったことに口を閉ざすことは難しい。
「家の裏山に金色のカブトムシが飛んでいたんだ。」
「そんなものがいるわけがない。」と口々に同級生はいう。
「でも見たもん」
「じゃあ見に行ってやらぁ~おるわけねぇけど、いたら捕まえて標本にして売ってやるわぁ。高こう売れるだろうしなぁ。」
あんな尊い存在を捕まえて売るだって?、なぜそんなことを言うのだろう、あの見ただけでありがたいと感じるあれを。と、心に思いながらも、幼児の口は粋がってしまった。
「おめぇ案内しろやぁ。」
「言ったんじゃけぇ案内せぇ。」
口汚く罵りながら強要してくる。
「そんなんおらんじゃねぇかぁ~」とそれぞれ大声で叫びながら、手頃な木の棒きれを振り回し、石を投げ、これから大きくなろうとしているつぼみを蹴飛ばしてゆく。
まだ収まらぬ様子で、若木を何度も殴りつけ叩きつけ、シダや小さな若葉をことごとく踏み荒らしてゆく同級生。
何度やめることを懇願してもあざ笑い、制止の懇願を言うとこちらを見て口元をつり上げながら足下の若木を踏みにじる。
「やっぱりおらんかったのぉ~嘘つきやろう」と吐き捨ててぞろぞろと帰路につく同級生たち。
一人残され罪もなき木々や植物たちを見つめた。
どのくらいの時間そうしていたのか判らない。
呆けて立ち尽くした。
自然に口より出た「ごめんね」
知らないうちに頬は濡れていた。