二十四章 打ち行こうとするその
二十四章 打ち行こうとするその
打ち行こうとするその刹那、祖父の木棒は私の首のすんでの所にあった。
もう一度やり直しても同じようになる。
それではバットのように振ってみてはとやれば振り上げようとしている合間に同じような結果となる。
さて祖父が木棒を引く隙に打とうと思えば振り下ろす途中で木棒を添えるようにして切っ先が全く違うところに落ちてしまう。
添えて軌道を変えている時には体を入れ替えやり過ごしながら、体が不動の大勢となっている様にさらに反対側の首元に木棒がやってきてピタリと静止する。
一年ほど前に買ってもらった木刀を振るう暇すら無い。
何度か試合形式で打っていこうとしても気力だけが極端に削られる。
炊いた運動量で無いはずだが、どっさり汗をかきその場にうずくまってしまう。
「武術は闇雲に得物を振り回したり、当を幸いに暴れ回る様なことは目指しておらん。教え習ったことを儂ほどにできぬうちにできぬ内から見せてはならんぞ。」
「はい、わかりました。」
「うむ、それで良い。それから本当の武術は小よく大を制するような技を会得しなければ意味をなさぬ。小さいものが大きいものに勝つには力ではないものを知らねばならぬ。」
「はあ・・・なるほど。」
「頭では判らぬと思うて、先ほどの稽古をしたわけじゃがどうであったかの?」
ここまで言われてはっと気付く自分も自分だが、祖父のいいたいことが何となく判った。
私の顔つきが変わったのを見て取ったのか祖父は言葉を継いだ。
「相手が動こうとすれば体が動く前に心が動く、心の動きが気というすごきになるが、それよりも前に兆しがある。その兆しを捉えるのは相当に難しいが神の道の修行を併せて行けばいずれ判るやもしれぬ。これは理屈では判らぬ事ゆえなぁ。」
話を聞きながら相づちを打ちつつ理解しようと試みる。
「今日は調子が良い日であったが故に先ほどの様なことができたが、いつもできるとは儂も自信が無い。ありがたいことに神さんのご加護が降りておる故にできたことなのじゃ。」
いわれてみればいつもの祖父よりもすっきりとして大きな存在を感じるが、祖父に神様のご加護が降りているのだろう。必要なときに神は人とともにあったり、人にかかってさらに高度なことを手助けしたりしてくださる。
もちろん努力無き人には正しい神は降りない。
「武道もそうじゃが、神の道は目で見て判らぬ事が殆どじゃ。目で見て判らぬ事を判るようになることがこの技を会得するのに一番の近道じゃろうて。こういう部分で武と神の道は通じるところがある。本当に会得しようと思えばの話じゃが。」
と祖父であって祖父で無いような存在が私に話しかけているかのようであった。
「まぁこれだけでは判らぬじゃろうから剣で呼吸をする方法を教えておこう。」
「???。」
木刀から呼吸?何のことだろう?。と不思議な顔をしていたと思う。
「まあ先ずは見ておくが良い。」
といいおきて木棒を中段に構え呼吸を整えているらしい。
はっ、と一気に息を吐き出したかと思うと、う声とともに息を極ゆっくりに吸いながら木棒を上段に振り上げてゆく。
最上段まで来るとピタリと石像のように制止して天にまで見えない柱が通ったかのよう。
ふっと何かが天にまで届いたような感じがしたと思ったら、はっ~と声を掛けながら極ゆっくり木棒を中段までおろしていった。
それを五振りほどこなして通常の呼吸と体勢に戻して、木棒を腰に納めるような作法をなして、祖父はこちらに向いた。
いつもは汗をあまりかかない祖父の顔に発汗が見える。
「こういうことじゃ、まずは剣と体と気を一つにすること、これができたからといって強くなるわけでは無いが大切なお稽古じゃ。ではやってみるが良い。」
そうして見よう見まねでやってみることとなった。
見ていても息苦しい感じがしたが、やってみるとかなりしんどい。
こういう基礎になる鍛錬が武術も神道も大事だということのありがたい説法を聞きながらお稽古をやることとなった。
終わった後でこの鍛錬方法に名前があるのかということを聞いた。
昔はあったかも知れないが今は無いということだった。
名前が無いと人間忘れやすい、さらには見た目よりかなりしんどいお稽古ということもあって当分の間・・・いやつい近年までこの方法があることを忘れていた。
何かの拍子に思い出して、やり始めると祖父とのお稽古場面を思い出す。
それをたどって再現を試みて忘れないためにひとまとめにして名前をつけた。
剣術の型の名前では無いのだが基礎を大切にしたいという思いから七つの型がある由縁から七星源家剣という名前をつけさせてもらった。
後で考えると少し中二病だったか?
次話投稿は6月2日17時の予定です。
よろしくお願いします。
追伸です。
多少の剣の型などは伝わっていますが武道または武術としては現在行っておらず、剣祓えや基礎行てきな位置づけですのでお間違えの無いようにお願いします。