二十三章 人の体には
二十三章 人の体には
「人の体にはツボというものがあって、そこを押さえると小さな力でも思わぬほどの威力を発することがある。武術は主にそういう所を攻めるように組み立てられていることが多い。」
「へぇ~そんなのがあるんだ・・・。」
半信半疑の返事を私は返した。
「なるほど、体験して見んことにはわからんかのぉ~、では右手を出してみなさい。」
といわれ素直に右手を出した。
祖父のよく働いた手の感触が感じられる。
「では同じような力で押さえてみるから居たかったら言いなさい。まずはツボで無いところを押さえるからの。」
といいつつ適当なところを祖父は私の右腕を半握りのようにしながら指で押さえたが、押しているということはもちろん感じるし痛みはあるものの我慢できない痛みでは無い。この程度で痛みを訴えれば後で気合いの入った鍛錬が待っている・・・かも知れない。
「では次はツボを押さえてみるぞ、腕の中程にあるツボだ、同じくらいの力で押さえるぞ。」
と、押さえられた瞬間に一気に姿勢が崩れるほど、崩さねば耐えれないほどの衝撃が右腕の中側から一瞬で体に響く。
「どうじゃ?、これでツボがあるということが判ったであろう。」
といいつつすっと力を抜いてくれた。
まだ体がしびれが残っているが安堵しつつ理解したことの返事を返した。
「神道の本当の技を会得するのにもつながることをだんだんと理解してゆくが良い、ツボというものがあることや気配を感じ取ることなど、そういう感覚を持っておかなければもっと難しいことを会得しようとするときに基礎ができておらねば次へ進むこともできない。この家に伝わる武道の型は少ないがそういうものも中に含まれている。だんだん細かいところを教えてゆくのでしっかり精進しなさい。型をなぞっていくことで判ることも多いぞ。」
「はい、やってみます。」
「そうそう、中条のおじさんは整体や按摩の本職じゃから今度来たときに聞いてみると良いじゃろう。」
といい、次の用事に祖父は向かっていった。
仕事や用事の合間に少しづつ重要なことを教えてくれることが多かった。
ただ剣や小具足の技の多くは祖父がこの話から約四年後くらいに脳梗塞によって半身が難しくなったので教えてもらうことが殆どできなかった。
祖父が丹念にリハビリを一人で行っているそばに行っていろいろな話を聞くことはもちろんあったが、稽古をつけてもらえるということはその後できなかった。
話は元に戻る、数日後申し合わせたかのように叔父がやってきた。
どうも近くの顧客があったらしくその後の時間を空けて立ち寄ってくれたらしい。
祖母や祖父は体の補正を時折やってもらっているらしかった。
学校から帰ってくると叔父の施術で祖母が整体を受けていた。
邪魔にならない程度に近くによって叔父の技を観るようで見てぼんやりと眺めるような感じでいた。
叔父は時折説明を入れながら施術をするのがお好みのようで、また説明を受けると患者さんも納得したり安心するようだった。
「腕のしびれは肩の凝りが酷いところからと思うが、肩甲骨の辺りが根っこのようで此をほぐさにゃいけんなぁ。痛いと思うけんど少し我慢してつかあせぇ。」
「ええ・・・」
叔父は説明はすれどとくに返事を待つわけでも無く、祖母の腕を後ろに回し、肩甲骨が少し肋骨から浮くような姿勢にして、鍛え上げた指をそろりそろりと入れて凝りをうがしてゆく。
指を入れて固まった関節を緩めていくのだが、回した腕の肘を少し上下させさらに微調整してゆく。
祖母は声にならない痛み声を口から漏らしている。
体の姿勢を上下させたりうつ伏せ仰向けと様々な箇所をほぐし、場合により古くからある灸法を用いたりと様々おこない、一時間を超える施術を終えた。
施術中も少し叔父は会話を振ってくれたが、私が整体に興味を持ったと勘違いしたのか話をしてくれた。
「わしの家にもなんぼうか(いくらか)整体の技が伝わっておってずいぶん前に習いに行って勉強してきたんじゃ。」
というところから話が始まった。
「体には経絡というて気の流れが通っておってな、それを刺激すると体が楽になったり力を持ったりすることがある。おぬしの祖父は武術に長けておるからそういう話も聞いたことがあるじゃろう、ほどよい刺激を与えれば体は楽になり、強く刺激を与えれば武術の技にもなるんじゃ。」
なるほどそういうものかと思いながら相づちを打ち話を促した。
「経絡やツボを刺激するなかにも指で刺激を与える方法もあれば、灸をすえて刺激を与える方法もある。この方法は熱を入れるだけでは無く、もくさの力を体に入れることも考えてあって気の流れを促進するんじゃ。なんなら体験してみるか?。」
祖母の悲鳴にならないお灸を受けている姿を見ているが故に、素直にうんといえるわけも無かった。たとえ体に良いとしてもだ。
(近頃は直置きの灸だけでは無くよく考えられたお灸の方法もあるので昔ほどつらいことは無い)
「では経絡とよく使うツボを幾つか教えてやろう、こちらにうつ伏せで寝ころぶんじゃ。」
そうして凝っているわけでも無いと思っていた体は意外にも施術を受けてみて体が軽く感じられた。
体験とともにずいぶん長い話を拝聴しながら凝りをほぐすための特殊な姿勢を途中で止めながら、さらにはキツく掛けると体の痛みがどのように感じられるかを体験させていただいた(させられた)。
その後、何回か叔父と鉢合わせをして我が家に来るときは時間を取ってきてくれるようだった。
さらに後で聞いた話だが、叔父は整体師としてかなり人気が良かったらしく休みが殆ど無い位だったらしい。
腕も良かったのだろう。
ずいぶん経ってその頃教えてくれたことがありがたいと思うようになった。
次話投稿は26日17時の予定です。
よろしくお願いします。




