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十八章 初夏の暖かくも涼やかな

十八章 初夏の暖かくも涼やかな


 初夏の暖かくも涼やかな風の日にお子様たちは連なって歩く。

 一列に連なり歩く中に団子になっている箇所、ときおり団子になる箇所がある。

 それを引率の先生が注意をして一列の連なりに戻すわけだが、暫くしたらのどかに団子に戻ってゆく。

 おしゃべりに夢中になってるので知らないうちに二列はたまた三列の横並びになってゆくのはお子様だからだけではないだろう。

 道ばたの黄色や薄紫色の小さな花に心を奪われながらもその情景を人ごとのように眺めているのも、同じくお子様の自分である。

 日頃話しかけられることの少ない自分であるが、遠足とあって開放的な気分となっているのであろう同級生が話しかけてくる会話もあまり内容のない話だが、それでも会話があるのはうれしいお子様だった。

 それを繰り返しながら目的地に進んでゆく。


 「先生次の場所はまだ~?」とか何とか様々な声が聞こえる。

 そろそろお腹もすいてきたり足が疲れてきたりとするような時刻かと思うかもしれないが、ずいぶん早いうちから昼食の場所を気にし始める男子の一団。

 途中地域の史跡に立ち寄ったり、何でもなさそうな記憶に残らないような場所に行くなどして、見晴らしの多少良い場所にたどり着いた。

 それは山の斜面で農道なのか林道なのかが通っている場所で、全く人の手が入っていないということはない場所。

 ある程度遠くが見えるが、それはすべての児童がその遠景にあやかれることもなさそうな場所。


 この場所を選んだのは誰なのか判らないが、中途半端な見晴らしと児童が羽目を外してもある程度把握できるような、引率の先生にとって条件の良さそうな場所。

 それを見破ったのか勘の良い?男子児童が「この場所先生の都合で選んだんじゃねぇ。」という声を聞いた引率の先生の表情が微妙に変化するのを間近で見ることができたのはある意味僥倖であったのか、それとも大人の世界を垣間見た不幸であったのか。


 さあ弁当の時間だと勢いづくその前に、独り者が出ないように班を作って一緒にお弁当を食べるようにということを申し渡された。

 ただ遠足出発前にとりあえずは班を決めてあったと思うが・・・。

 いざお弁当だ、自分たちの好きな場所に陣取ろうとする段階となって先生の申し渡しの意味がわかった。

 前もって決めた班なんて半分も機能してないじゃん。

 もうバラバラで仲良しこよしたちが勝手に呼び合って班を崩していく。

 そんなわけで自分の班は誰もいなくなった。


 「まっ良いか。ゆっくり食べれるし風景も眺めれるし。」

 と独り言をつぶやきつつ、遠景の眺められる遠足児童の賑わう場所を通り過ぎ脇道へ進んでいった。

 脇道に入って行こうとすると後ろから一人二人と足音が聞こえる。

 一つ下の学年の男子だったと思うなぁと思い出しながら、座り心地の良い場所を探してゆく。

 

 好適地とまではいわないが、そこそこ座り心地が良さそうな見晴らしは期待できない箇所を見つけてそこで昼食にすることと決めてナップサックを型から外そうとした。

 「となりいいっすか?。」

 後をつけてきたのかたまたまこちらに来たのか判らないが一個下の男子はいうなり勝手に隣に敷物を敷き始めた。

 「僕も良い?。」

 と急に声をかけてきたあぶれ者の男子児童。

 端から見たらよそ者三人組だねこれは・・・と心中つぶやきながら黙々と食事の準備を進める。


 途中気まずくなったのか後輩児童が何度か声をかけてくる。

 邪険にする必要も無くしたいわけでもないので、適度に会話を交していくが共通話題を見つけているわけではないので時折交される会話と行ったところだ。

 その交される会話の中でも一人取り残されるあぶれ者男子。

 うらやましそうにこちらを見るなって・・・別段心浮き立つ会話じゃないって。


 食事も終わり持参したお菓子を取り出そうとしたところ「もう少し進んだところで食べませんか?。」と後輩は話しかけてきた。

 これも断る理由もなく「じゃ、そういうことで」というのりでもう少し道の奥へ進む、その後ろをあぶれ者男子は付いてくる。

 となりの後輩男子は明るくしようと努めて、自分もなるべく明るい雰囲気が良いと思って話を合わせる。

 その後ろではどんよりオーラのあぶれ者。

 のけ者にしているわけではなく、気をつかって話しかけていたりするのだがどうも話がかみ合わない。

 人の話を聞いていないんじゃないかと思うくらいだ。

 少し進むと電線の鉄塔を設置してある行き止まりに突き当たった。


 遠くからバタバタと安物の靴音だけが響く足音と人の欠点を内容とした話で盛り上がりながら、行きつ戻りつ何をしたいのか判らない動きをしながらこちらに男子一団がやってきた。

 「おめえら三人とはさみしいのぉ~あぶれ者に一個下たぁ焼きが回ったか?。」

 とかよくわからない啖呵をは気ながら近づいてくる。

 四人連れで三人連れをさみしいというには無理があると思うけどなぁ、と思いながら黙って後から来た者たちのすることを眺めていた。

 彼らは鉄塔の周囲の簡易柵が気になるらしくしきりによじ登り行き来し始めた。誰が一番早く乗り越えれるかなどといいながら。

 そのなかでも一人無理矢理連れてこられたインテリっぽい男子はそれに加わらず、それはあぶねぇじゃろ~といいながら彼らの所業を見ているだけだった。


 かってに彼らは遊んでいるのを、はや景色という風に頭を切り替えておやつタイムということにして甘味を楽しみ始めた。

 後輩のおやつはバナナ一本だった。

 不思議に思ってみていると「いゃぁ親の仕事が遅くて買い物に行かれんかったんすよ。」と恥ずかしそうに話した。

 自分ばかりいろいろと甘味を楽しむのも気が引けて幾つか菓子を分けた。

 後輩はずいぶん喜び、急に距離を縮めて話しかけてくるようになった。

 「もう少し離れて話してくれ。」というとそんなに僕のことが嫌いっすか?といってくる。

 そうじゃなくてこういう距離は馴れていない、というと元の位置から少し近いところまで戻って話し始めた。

 その光景を見てあぶれ者君もお菓子を分けてあげるのだったが、感謝は伝えるが近づこうとはしなかった。


「上を見てくだせぇ。」

と指さしながら行った。

「きれいな空だね。」

「いゃそうじゃあねぇっす、電線っす。」

「電線?」

「そう電線っす、電線の周りに気が見えねぇっすか?。」

「気って何?。」

「えっ?先輩ならご存じだと思ったんっすけど・・・電線の周りに赤色みたいなものが見えるんすけど見えっすか?。」

と力説し始めた後輩。

「電気が見えるわけねぇじゃねぇか。」と急に後ろから声をかけられた。

振り返ると柵を上り下りしていた三人組とインテリっぽい一人が少し距離を外して後ろに立っていた。

「電気は見えないって習わなかったか?」

と異口同音に馬鹿にしたように口にし始めた。

後輩はかなり悔しそうな表情をしている。

「電気は見えないかもしれないけど、電気で暖まった空気は何となく見えるかもしれないし、電気は物を動かすことができるのだから何らか見ようによっては見えるかもしれない。」

 助け船というわけではないが、教えられたままを口にするのはあまり好きではないので可能性を口にした。

「またおかしいのがここにもおるわぁ~。ここは変態の集まりじゃけぇあっちいいこうぜ。」

と意味も無い言葉を口々に吐き出しながら四人は去って行った。


「先輩、やっぱ見えねっすか?。」

「そうだなぁもう一度見てみるよ。」

じっと電線を注意深く見た、なんとなくだが電線の周りにもやっとしたものが見える。それはとても薄い霧のようでありまとわりついているのか、もしくはそれは離れられないものなのか、とりあえずそれが見えたことを伝えた。

「そっす、それっすよ、自分とは見え方が違うっすけど先輩も仲間っす。」

とうれしそうに話をし始めた。

 しかしあぶれ者君はやはりモブだった。


 このあとまた彼らは同級生を始めて遠足に来た児童に、電線の気の話を言いふらしてゆく。

 噂話が好きな児童やこういう話を逆手にとって話をしてゆく児童にとっては格好の話題だったようで暫くのあいだ居心地の悪い時間を過ごすこととなった。


 この出来事の後から気というものをはっきり認識し始め、生体霊色なども理解し格物致知(ここでは物事を分類整理して事象の理解を深めてゆくという意味)の衝動がくすぶり続け、長い時間をかけて次第に理解できるようになった。

 もちろんまだすべてを解き明かすにはほど遠い。


 人は認識していない事はたとえ見えていても脳が勝手に無いこととしてしまう性質があるようだ。

 身近なたとえでいえば道を歩いていたとして足下の蟻をいちいち認識できないのと一緒だ。

 誰でもあることだが、決めつけてかかると本来はあるものなのに視界にあっても認識できていないという事がある。

 

 人は見たいものだけを見るようにできているらしい。


 


次話投稿は21日17時の予定です。

よろしくお願いします。

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