十七章 とある時ある日の
十七章 とある時ある日の
とある時ある日のちょっとしたことで歯車が狂うことがある。
何でも無い日常が同じように回ることがない。
大勢に影響が少ないように見えて、その後に影響を与え続けるようなことはやはり運命の歯車が狂ったというのだろうか?。
何を持って狂ったというのかそもそもそれを定めなければ狂いということが判るはずがない。
困難や苦難によって変わった人生であってもすべてが駄目になるわけではない。そこから学び同じように陥らないようにその兆候を捉えることができればそれは力量に変わる。
人はそうやって運命を切り開いていく力がある。
運動会が終わった頃ののんびりとした授業中。
いつも落ち着きのない小さな問題を起こし続ける同級生が周囲にちょっかいをかける。
問題児と気の合う者はじゃれ合い授業中とてそれは変わりない。
気の合わない者にとっては邪魔なだけの存在。
それもささやかな教室の賑わいと思えばそれも日常ということなのだろう。
のんびりとした教室の空気。
眠気を誘う午後の時間。
品を求めるのは児童にとって酷なことではあるが、かみ殺すことも手を口に当てることもなく喉の奥が見える大きなあくびをする者がいる。
あくびは連鎖する。
あくびの連鎖の前、自分に移ってくる直前には微妙な体の違和感を感じる人もいると思う。
その移りあくびの感覚を感じたと同時に、問題児は突然立ち上がり他の児童の肩を叩きながら教室の後ろへ移動した。
列のすべての同級生、男女隔てなく。
それは私の所にもやってくるだろう。
妙に絡んでくることがある。
こういう場合の時は先生に見つからないように、問題に気付かれないような強度で撲打してくることがある。
それは決して飛び上がるほどではなく、痛みも長く続くわけではないが度々それをやられれば精神的に良いものではない。
わたしはその時教室の最後尾に席していた。
もう二人ほどで私の所に問題児の問題行動が到達しようとする頃の事。
教室内の空間にゆがみのような違和感を感じた。
それは急にくにゃっという軽い嘔吐感を投げかけてくる。
感覚でいうと車酔いを実感するしの瞬間みたいな圧力。
それと併せて軽いめまいも襲ってくる。
めまいから視界が回復したと同時に問題児の手が私の肩に迫ってくる。
それは映画をスローモーション再生したような場面に見える。
そのスローモーションの現実の中で問題児の後ろに雑兵ではないが立派とはとても思えない山賊が鎧を着込んだような姿の男が見えた。人相は悪事を働きなれているかのような目つきを伴っている。
身なりはみすぼらしく顔を背けたくなるような口臭が香ってくる。
その口臭とともにその荒んだ鎧武者は私に向かっていう。
「・・・・家の者め、おのれぇ。」
その声が聞こえた瞬間、その鎧武者の後ろに手下と思える男たちが数名同時に睨んでくる。
怨念の目線を感じたかと思えば、横合いから手下が槍を突き入れてくる。
私の体はスローモーション映画の中に入り込んだようにとっさに動くことができない。
ただの標的だ。
動かぬ標的の私の胸に槍が縫い込まれる。
数打ちと判る刀も振り下ろされ肩から体の中に侵入してくる。
鉄のヒンヤリした温度が体の中に入ってくる。
胸の痛みに呼吸が困難となる。
しかし意識が落ちることがない。
急にスローモーションが解除されたかのようにすべての情景が流れ始める。
問題児の手が私の肩に触れる。
私の肩を支えにしてさらに教室の出口に向かって飛び上がり速度を増して出て行こうとする。
私は痛みに動くことができない。
前を向いているのだがはっきりと後ろの情景が見える。
問題児の後ろには柄の悪い鎧武者一党が見える・・・。
そのうらぶれた一党に恨みの目線を向ける女性もみえる少し離れた場所に。
問題児は教室から出て行った。
扉を閉める音が鳴り響いた。
槍や刀で切られ刺された体は息苦しさだけを残して傷口は消えていた。
霊体験というやつか・・・。
そう納得させる出来事だった。
その日を皮切りに私は約半年間原因不明の胸の苦しみを味わうことになる。
学校は休みがちになるのは仕方が無かった。
医者の診断も意味のわからない病名が付いたくらいだ。
休んで療養している最中にあの時の情景が記憶によみがえるときが度々あった。
あの男たちと私の因果関係ははっきりとは判らなかったが、口臭とともにきいたあの言葉で大体の予想は付いた。
その因果ではなく鎧武者一党を睨んでいた女性。
どうもあの男どもに無体を受けた後に殺されたようだ。
何度も何度も同じような情景をみているうちに次第に判ってきたことだった。
霊たちに受けた障害を霊障というが、霊障を種として学業および身体的に後れを取ることとなった。
こういうことはどこかに因果が含まれる。
全く関係ないように見えてどこかでつながっている。
もしくは同じような運命の質を持っているが故にその縁が生まれる。
・・・・家と、霊がいうにはそういうことなのだろうが、もし前世という者があったとしても同時代人で彼らに何某かの仕打ちを私がしたわけではないだろう。
もし私本人であれば当時の名前を呼ばれるはずだ。
それが・・・・家という表現であったこと。
この言葉は後々謎を解いてゆく言葉となるが、私ということではなく血縁という部分にも降りかかってくる霊障というものがあるようだ。
いずれにせよ霊の怖さをかみしめることとなる。
怖さは細やかに感じ取るきっかけともなってゆく。
次話投稿は18日17時の予定です。
よろしくお願いします。