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十六章 大正らから昭和に移る頃

十六章 大正らから昭和に移る頃


 大正らから昭和に移る頃と聞いたように思うがはっきりとした記憶がぼやけている。

 もしかしたらもう少し前の大正期だったのかもしれない。

 今から考えればどちらにしても昔のことに変りは無い。


 昔住んでいた家の奥まったところに柿の木がある。

 その柿の木はとても甘みの深い品種で味わい深い。

 その柿の木は子供にとっても登りやすい形状をしており木登りにも最適だ。

 それも手伝って柿の熟れる頃になるが待ち遠しい時期があった。

 

 そう、この話は柿の熟れる頃なので秋本番という頃の事だろう。

 

 長い竹竿と短い竹竿の二つを持って行く。

 二つの竹竿の先端部部には少し割れ目を入れて柿の枝を挟むことができるように細工してある。

 竹の先端をしばらく割るだけでは枝を引っかけることはできないが、割っている奥部分に小枝を挟み割れ部分が少し広がるように細工する。

 大きい枝を咬ましてしまったり、割れを深くしすぎると枝をもぎ取るときにかえって竹が割れることがある。

 いくつも失敗しうまい割合でできた竹竿は大切にとっておく・・・が、竹が枯れてしまって来年には使えないことが多い。


 木に登らずに使用する結構な長さの竹竿と、木登りをして安全なところから登ることのできない場所の柿をとる為の短く軽い竹竿。

 柿とり竹竿は木登り後に使う短く細い方が制作の要領が難しい。


 私と祖母と弟で柿とりに行くのだが、いつも長く重い竹竿は私が持つことになる。

 祖母は重い物を持たないし、弟は先に軽い物をもってゆくからだ。

 柿とりは木登りをしてとった方が楽しい。

 そのおいしいところを七割ほどは弟に奪われてしまう。

 そして手を動かさない祖母の近くで長く重い竹竿を操り、祖母の愚痴を聞きながらというはめになる。


 いくつか柿がついた枝をうまくとって落とさずに降ろすことができてほっとした。

 祖母が柿の木のほど近くにある山道を指し示していた。

 それはそぼがいつもやることだからそちらを見ることとする。

 話を全く聞いていなかったり、動作に気付かなかったりすると注意され、機嫌の悪いときには長い時間拘束されるお叱りを受ける。

 そのお叱りは愚痴も含まれて、話の途中から意味がわからなくなることがほとんどで、判らないながらも相づちを打たねばさらに祖母の機嫌は悪くなる。

 そういう妙な訓練を経た結果、意味ありげな動作にそこそこ反応できるようになっていた。

「昔はその道を通って家まで上がってきておったんじゃ。」

「この細い道を?。」

「今は使わぬので雑草や木が生えて細くなっておるが昔はもう少し太かった。」

「ふ~ん。」

「そうじゃ、ぬしにいっておくことがある、高い場所に家のあるものは分の高い者で、平地に住む者は分の低い者か移り住んできた者たちじゃ。」

「???・・・」

「今では不便じゃがここに家があるのも意味がある。」

「ふ~ん。」

 少し解説を入れるが、こういう話は昔の田舎ではよくあることで、歴史の古い家や元庄屋や名士などの家柄であった家筋ではよく話が出ることで、じっさい我が家だけではなく他家の方々からもきいたことが多々ある。

 おそらく町文明が発達する前の価値観を引き継いだと考察でき、さらに古い時代にも遡ることができるであろうが江戸期以前の地方武家の意識を引き継いでいるのではあるまいか。

 古い地方武家は「(さこ)」とよばれる谷のような細長く奥に入り込め、出入り口が限定できる地形を好んだ。

 防衛上の観点に主眼が置かれていたのではないだろうか?。

 そういう地形の山の中腹に古くから続く家を結構知っている。


「ぬしは跡取りじゃから嫁は○○家か○○家か○○家かそれに同じくする家からもらうのが筋じゃ。」

 唐突に嫁話がでて驚くとともに会ったこともない家の話をされて混乱する。

「こら、話を聞いておるのか?」

 反応のない私に向かって祖母は何回か声をかけていたようだが、少し混乱から回復したと思ったらお叱り寸前の状態だった。

 

「お~い、柿を取ってくれ。」

と、弟は気の中程から柿とり竹竿をこちらに向けてくる。

かるく返事をして先端についている柿の枝を取った。

「四つも付いてるじゃないか、すごいな。」

そういうとなんとなくドヤ顔っぽくみえる弟の顔があった。

 もしかしたら気を遣って祖母との間尺を入れてくれたのかもしれないが、そういう意識を持たずにやったのかもしれない。

  何にしてもなんとか機嫌をとれるような返事を祖母に返し、幾度かのやりとりを経てなんとか話が進むようになった。


「ところでその○○家とは付き合いはあるのでしょうか?。」

「うむ、一つ二つの家はうっすらとある。」

「へ~ぇ。」

本当かどうかは判らないが感心したような声音で返事を返した。

「今ではこのような家じゃが、昔の火事がなければいくつもの家宝があってみせてやれたのじゃが・・・。」

と、そのような話の端緒を得た祖母は昔話を始めた。

 その話によるといくつか触れたことがあるらしいものがあり、それは御駕籠であったり狩衣であったり打ち掛けや袿にはじまりポッコリ(女性の履き物)や茶器や香炉はたまた武具類や書状などの話が次々に出てきた。

 ほとんどは焼けて陣幕や武具がいくつか残っているくらいらしい。

 祖母も女性と会って女性物の着物の話が多かった。

 相づちを打ちながらも三週目の同じ話となれば意識を別にして聞かないと気分が持たない。

「そうじゃ、ぬしが中学に上がったらまずは陣幕を見せてやろう。」

 さすがにその言葉が出てきたときには祖母に向き直った。

「えっ?ほんと??。」

「本当じゃ楽しみにしとくのじゃ。」

と、いった後からはまた消失した家宝の話が続いてゆく。

木の上からは弟が手を動かせと目線を向けてくるが、この状態で話から外れると祖母が怖い。


 思う程度の柿の確保ができたが、結局当初考えていた時間を大幅にすぎて、遊ぶ時間も無く、すぐに風呂焚きの時間となり地味な労働少年となる。


 その後、折に触れて祖母は家限定の嫁話をしてくるようになった。

 これはさすがに精神的に重大な負担であった。

 負担ではあったが運命や人間とは何かというテーマに気付くきっかけになって、やがて祖母の婚姻話の呪縛から乗り越えることができたのは気の長くなる時間の末だった。

 体験の無い話やどうしようもやりようのない話を延々繰り返してゆくのは、聞く者にとって相当な重荷になることがあるのだろうと今は思えるようになった。


 後々に消失を免れたいくつかの家宝を受け継ぐことになるが祖母から聞いていない物、例えば石帯やいくつかの物があったのは不思議だ。

 はていつの時代のものだろう?。

 未だ祖母の昔話の因果を卒業できない部分がある。



次回投稿は11日か14日の十七時となります。

予定が立て込んでおりましてなかなか執筆活動ができず苦慮しております。

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